Contemporary Art

極小美術館

2024.9/29(sun)~ 2024.10/27(sun)

No.49

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

山本真一の
「不在から実在へ」のマジック

古川秀昭
(OKBギャラリー館長、前岐阜県美術館館長)

  山本真一が「墨」に対しての取り組を明確に意識的するようになったのは2006年の「雪舟の里総社 墨彩画 2006 雪舟大賞」展での大賞受賞からであろう。山本は自ら受賞当時のことを「…それまでの作風を続けていくか否かのアンビバレントな状態に陥っていた…」と語っている。確かに2014年の岐阜県美術館での「今をいろどる~現代日本画の世界」展や二年前2022年の極小美術館での個展においてもその大画面は墨一色であった。ただ山本の場合の水墨は、いわゆる朦朧体や伝統的な「たらしこみ」技法からは遠く離れた山本流の水墨である。また技法的に高度に磨かれた線描などの画面でもない。むしろ木版や銅板による版画作品にみられても不思議はない画面である。
 日本画家山本真一は実際のところ、12年間岐阜県美術館長をしていた私には彼の略歴的な関心はほとんどなかった。ごく身近に加藤栄三・東一記念美術館の誠実なスタッフであり、彼が館長になっても、何かといえば親戚同士であるかのように作品の借用や情報交換をしていたからだ。
 さてそのような山本真一の作品は一体どんなものなのか?実に不思議である。どうしても2010年以降の作品にいい意味で「院展風」を感じないのだ。山本は生粋の日本美術院の日本画家である。愛知県立芸術大学日本画科から大学院までの6年間に、院展を代表するような作家に学び、その関係で授業以外の名古屋城本丸御殿の障壁画修復事業にも参加している。在学中から院展には毎年欠かさず出品し、院友、特待に推挙されている。さまざまな既成の公募展やコンクールでも受賞歴は煌びやかである。
 しかし不思議なのだ。少しも系統だった作品系列が見当たらない。山本は敬愛する前田青邨の門下であった小山硬教授からの「世に出る作家にはオハコがあるんだ」との教えを昨年の新聞のコラムに思い出として語っている。にもかかわらず山本には「オハコ」の構築への姿勢は私には感じられない。私はそれでいいのだと思っているのだが…。山本の関心はおそらく今は、諸先輩の助言や院展の流れに乗ることではなく、彼独自の歴史観に基ずく制作姿勢にあるのだろう。
 今回出品の最近作「フロイスの見た岐阜」は注意深く見れば見るほど四百数十年前フロイスのポルトガル語でヨーロッパに伝えた『日本史』の「岐阜」が浮かんでくるから不思議である。墨一色のある意味機械的な線による街並みなのだが、今日の岐阜よりもなぜかリアリティがあるのだ。今年春だったかグループ展に山本がアニメ的な甲冑に身を包んだ斜に構えた女の小品が印象に残った。後で聞くとその女は織田信長だという。その背景は長篠の戦いの屏風の一部が、並ぶ鉄砲隊など克明に線描きされている。ここでも織田信長が女であって違和感なく歴史上の一場面になって映って来るのである。山本のフロイスの岐阜の街、女信長の長篠の戦い!

 在るはずのない街、いるはずのない人物、
 にもかかわらず確かに立ち現れてくる現実!

 これこそ山本ワールドの誕生! かもしれない。

フロイスのみた岐阜(2023年)
150号(175 × 220cm)

チャグチャグ馬コ(1999年)
150号(175 × 220cm)

しとやか(2003年)
150号(175 × 220cm)

駒おどり(2004年)
50号(116.7 × 80.3cm)

山本真一

【略歴】
1967
愛知県名古屋市に生まれる
1992
愛知県立芸術大学 美術学部日本画科 卒業
1993
第78回再興 院展 初入選
1994
愛知県立芸術大学 美術研究科 大学院日本画専攻修了
修了制作「双」が愛知芸大芸術資料館買上
1994
第5回 臥龍桜日本画大賞展 奨励賞
1995
国宝西大寺十二天《水天》模写事業に従事
1995
日本美術院 院友推挙
1996
第51回 春の院展 初入選
1996
愛知県立芸術大学 非常勤講師 ※~01年3月
1997
葵会日本画展 (東武池袋)
1998
美の予感 (高島屋/東京/横浜/京都/大阪)
2000
岩絵具の可能性を求めて (古川美術館・名古屋)
2001
名古屋城本丸御殿 復元模写事業従事 ※~02年
2001
新世紀をひらく美 (高島屋/東京/横浜/京都/大阪)
2002
淡墨桜絵画コンクール 優秀賞 (宮村村民会館)
2002
岐阜現代の美術2002 (岐阜県美術館)
2002
樫の会日本画展 (一宮市三岸節子記念美術館 / 愛知)
2003
山本真一日本画展 ―楽土藹々― (松坂屋美術画廊/名古屋/銀座)
2004
前田青邨記念大賞展 奨励賞 (東美濃ふれあいセンター / 岐阜)
2005
てんびんの里日本画コンクール 優秀賞教育長賞 (近江商人博物館 / 滋賀)
2006
雪舟の里総社 墨彩画2006 雪舟大賞 (サンロード吉備路・岡山)
2007
山本真一日本画展 (北ビワコホテルGRAZIE / 滋賀)
2007
万葉日本画大賞展 (奈良万葉文化館 / 奈良)
2009
山本真一日本画展 (ギャラリー光玄 / 名古屋) 
2009
加藤栄三・東一記念美術館 学芸嘱託員 
2012
岐阜市芸術文化奨励賞 受賞
2014
日本美術院 特待推挙
2015
岐阜市長特別表彰
2018
加藤栄三・東一記念美術館 館長に着任 ※現在に至る
2022
山本真一展 (極小美術館)
2024
漸の会 (吉野画廊 / 岐阜)
現在
日本美術院 特待
※開催時点