Contemporary Art

極小美術館

2024.9/29(sun)~ 2024.10/27(sun)

espoir 46

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

「みのり」を描いて「いのり」を捧ぐ 

青山訓子 (岐阜県美術館学芸員)

 2024年6月、加藤誉使子さんのアトリエを訪問し、極小美術館での個展へ向けて制作の様子を拝見した。数年前から使用している共同アトリエで、加納高校での教え子さんから誘われ入居したという。同じ空間内で制作者同士の息づかいを感じる場所で刺激を受けながら取り組んでいたのは、80号の新作で、舐瓜を半分に切った断面が明るい色彩でキャンバスいっぱいに描かれようとしていた。また、コンビニスイーツを思わせるカップに入ったゼリーもしくはムースを描いた作品もあった。水色の背景に、オレンジ、レモンイエロー、朱赤、ピンクといった暖色系で表されたモチーフは、工場で大量生産される人工的な食べ物のイメージが際立っていた。
 このような自然由来もしくは人工的な「食べ物」を題材とする作風の原点は、2003年の初個展「FOOD DIARY」に合わせて、日々三食、食べたものの記録を一年間、絵で記したことにある。その際、食材を丸ごとではなく半分だけ食べて、断面を描いた。野菜に果物、魚も肉も米も、すべて断面で。断面を描くのは「生命の成り立ち」を表したいから、と加藤さんは言う。たしかに、果肉に散らばる種子は細胞分裂中の染色体のようにも見え、根源的な生命の在り方を暗示するかのようである。
 食べ物を題材とする絵画といえば、台所の野菜や魚を題材とするスペインの静物画「ボデゴン」や、フランドルなどで多く描かれた人生の虚しさ、虚栄の儚さを説く静物画「ヴァニタス」が思い起こされる。時間が経つにつれ、欠け、朽ちていく食材。加藤さんは、それらを割って内部に迫って、朽ちて終わるのではなく、そこから次につながるもの、生まれていくものに目を向ける。割ることで断面に現れる種子には、次の命をはぐくむためのエネルギーが蓄えられている。食べ物は大地の実り。生命は循環していくもの、死を乗り越えて受け継がれるもの。彼女の作品に明るさを感じるのは、そのような前向きな姿勢が制作の根底にあるからだろう。
 秋の個展のテーマは「祈り」という。コロナ禍以降、私たちが当たり前と思っていた生活が無残に崩れ、社会の中にあったはずの確実性はあやふやになった。疫病だけでなく、世界各地で勃発する紛争や自然災害などの胸が詰まるニュースが、今も絶え間なく続いている。そのような悲観的な状況の中でも未来を信じたいという「祈り」。これをテーマとしたのは、会場となる極小美術館の3階、どこか教会にも似た三角天井の空間も影響しているそうだ。食べ物ではなく、パステルトーンの色調の中にクロス(十字)のモチーフが残像のように重なる小品もアトリエで拝見したが、これもまた「祈り」というテーマにつながるのかもしれない。新たに発表される作品群が楽しみである。

I pray(2024年制作)
145.5×145.5cm oil on linen

In a cup(2024年制作)
72.8×72.8cm oil on linen

A session(2024年制作)
65.2×65.2cm oil on linen

加藤誉使子

【略歴】
岐阜県岐阜市生まれ
東京造形大学造形学部美術学科Ⅰ類卒業
2003
「FOOD DIARY」 (ギャラリーCROQUIS / 岐阜)
2004
「見たい見せたい美術展」 アクティブG /岐阜)
2005
個展 (ギャラリーCROQUIS / 岐阜)
2007
個展「espoir」 (北ビワコホテル グラツィエ・ギャラリー / 滋賀)
2008
飛騨高山現代美術展 (ギャラリー遊朴館 / 岐阜)
2010
池田山麓現代美術展2010「ベスパ・プリマベーラと作家たち」 (極小美術館)
2011
個展「いつかいた場所」 (アトリエ幻想工房 / 岐阜)
2011
池田山麓現代美術展2011「宇宙の連環として・気配」 (極小美術館)
2012
個展 (カフェギャラリーyuyu / 岐阜)
2012
池田山麓現代美術展2012「象の檻」 (極小美術館)
2013
個展 (極小美術館)
2019
個展「プロボノ↑」 (ギャラリーいまじん / 岐阜)
2019
「COLORED/NON-COLORED」 (フランス料理レストラン オー・エ・セル / 岐阜)
2019
「小さくて宇宙御絵図」 (Atelier+Artgallery Lucca445 / 岐阜)
2019
「家と記憶」 (旧加藤邸 / 岐阜)
2019
「点」 (Gallery White Cube / 愛知)
2020
個展「みえるもの / みえないもの」 (Atelier+Artgallery Lucca445 / 岐阜)
2020
「ACT展」 ※~23年 (岐阜県美術館 / 岐阜)
2020
「岐阜アートフォーラム」 ※~24年 (上宮寺 / 岐阜)
2021
個展「NMAMDB2」 (Atelier+Artgallery Lucca445 / 岐阜)
2021
「水の音芸術祭」 ※~24年 (ギャラリー水の音 / 岐阜)
2022
個展 (自然派料理店・糧 / 岐阜)
2022
「yanagase ARTIST MAGNET」 ※~24年 (Atelier+Artgallery Lucca445 / 岐阜)
2022
「ART SCIENCE MUSEUM」 (ナディアパーク、名古屋市科学館 / 愛知)
2022
「ART LIFE GIFU」 (岐阜市街 / 岐阜)
2023
個展「I saw」 (ギャラリーいまじん / 岐阜)
2023
「Art Studio Pomino Group Exhibition」 (名古屋三越ARTE CASA / 愛知)
※開催時点