Contemporary Art

極小美術館

2024.11/10(sun)~ 2024.12/8(sun)

espoir 47

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

「気配」の向こうにあるもの 

中村暁子 (前名古屋市美術館学芸員・美術評論)

 原さんの絵には、「気配」がある。白い靄のようなものを纏った、茫洋とした空間。そこには、しばしば、子供の姿が現れる。繊細な心の機微を感じさせるモティーフを、やはり繊細な、優しい気配が包み込んでいる。「気配」とは、掴み所がなく、眼には見えないものである。作家は、その捉え難いものを絵画の中に留めようとしている。
 子供との関わりは、教師の仕事を通じてのことだったそうだが、その中で彼女は様々な子供の心情を捉えることとなる。彼女が描くスカートを履いたまだあどけなさの残る少年の姿は、現代社会が見過ごせない問題を映し出す。一見すると優しく、柔らかな作品だが、その背後には、社会への眼差しがしっかりと存在している。
 「私はLGBTQなど性的マイノリティーも含む全ての人々が尊重される世の中になってほしいと思っています。その象徴のようなものとして、スカートを表現しています。スカートはやさしく包み込み、そして解放し、矛盾に満ちた存在です。」と作家は言葉にしているが、スカートというものを、その甘やかさも含めて社会の象徴として描く視点は独自のものである。
 そういったこの作家の社会との関わり方は、ウクライナ戦争への眼差しとも繋がっている。CDを粉々に砕いた破片を貼り付けた銀色に光る小箱は、彼女の怒りの表れでもある。現在ウクライナで日々起こっている破壊をCDの破片は表しているという。そこから私たちがニュースで眼にする破壊し尽くされた瓦礫の街を想像することは容易である。しかしまた、キラキラと銀色に輝く破片には人を陶酔させるような美しさもある。敢えて美しい破片を用いることで、未来への希望を表現しているのだ。
 作家は、こういった作品を見る人へのプレゼントとしたいという。彼女の作品の優しい気配、空気はこの世知辛い世の中を包むものとして存在する。そして、壊れやすい心をそっと包み込むようなものとしてのプレゼントは、現代人の多くが確実に求めているものだろう。

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Present
1620×1620㎜ 油彩(2024年制作)

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かけがいのないものを入れる箱-1(2024年制作)

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かけがいのないものを入れる箱-2(2024年制作)

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かけがいのないものを入れる箱-3(2024年制作)

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Bear under the race dress
1613×430㎜ 油彩(2022年制作)

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原恵子

【略歴】
1960
岐阜県生まれ
1981
大垣女子短期大学美術科卒業
1998
第16回上野の森美術館大賞展 (以降17回、24回、25回出品)
1999
第3回熊谷守一大賞展 
2000
第1回アーティストサポートコンペ入選作品展 (ギャラリーCHIMENKANOYA・東京)
2000
二人展 林寿子・原恵子 (ギャラリー沙和・名古屋)
2002
個展 ※04、06、09、16、22年 (ギャラリー名芳洞・名古屋)
2003
第5回熊谷守一大賞展 入選
2005
第6回熊谷守一大賞展 佳作賞
2007
個展 (北ビワコホテルグラツィエギャラリー・長浜)
2008
飛騨高山現代美術展 (ギャラリー遊朴館・高山)
2008
グループ展 「4angles」展 (ギャラリー名芳洞・名古屋)
2010
池田山麓現代美術展 「べスパ・プリマベーラと作家たち」 (極小美術館
2011
池田山麓現代美術展 「宇宙の連環として 気配」 (極小美術館
2011
グループ展 「ranway」展 (ギャラリー名芳洞・名古屋)
2012
池田山麓現代美術展 「象の檻」 (極小美術館
2014
グループ展 (ギャラリー名芳洞・名古屋)
2015
グループ展 「赤・白・黒」展 (ギャラリー名芳洞・名古屋)
2015
個展 極小美術館
2015
個展 ※19、22年 (ギャラリーいまじん・岐阜)
2016
グループ展 「Three Breaths Exhibition」 (ギャラリー onetwentyeight・NY)
2018
グループ展 「ETHOS」展 ※22〜24年 (ギャラリー名芳洞・名古屋)
※開催時点