Contemporary Art
極小美術館
Ono
Nobuko
小野
允子
2023.10/1(sun)~ 2023.11/5(sun)
No.45
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料Be Liberal 自由でいられたら
作家との出会いは、極小美術館の長澤館長からの紹介だった。「有刺鉄線の作家」と聞いてすぐに、同館の展示室や外観に有刺鉄線をイメージした作品を張り巡らせた作家だとわかった。「実際の寸法は意外に大きく、形それ自体が他を寄せつけない、目に刺さる作品だった」と、作家が目の前にいることも憚らず話したと記憶している。
表現性が強くその場所に依存した作品で、「規制された外側にいたはずなのに、展示室に入ると、突如内側から眺めているように意識が反転し、拒絶しているのは作品としての表現なのか、それとも見ている自分なのか、混沌としながら距離をとって眺めた」と、続け様に話したら、「あれは陶なんです」と意識の外にあった言葉が返ってきた。金属製だと思い込んで話したが、小野が陶芸家だと聞かされて、その振り切った表現スタイルに関心を持った。今年5月に、幸運にも工房を訪問する機会を得ることができたので、この作家の有刺鉄線の内側へと入り込んで、イメージと向き合うことにした。
小野の作品に、こうした有刺鉄線のかたちが登場するようになるのは2015年頃からで、戦争をはじめ混沌とする社会への憤りから、内へ内へと表現を求めていた作陶の中で生まれたものだという。たしかに作品の拒絶するイメージは、むしろ内に向かって強く意識させられる。「世の中で自分はどこにいるのか社会の情勢に合わせて制作し続けてきたら、人間って束縛のなかでしか生きていけないのかとさえ思えてきてね」と、自分の表現のなかに受け入れて、何をしようとも出ることのできない有刺鉄線という束縛の中で制作に励んでいる。ただ、ふと我に返れば「鉄なら刺さって死ぬしかないが、陶ならポキンポキンと折って出てこられるから」と冗談めかして淡々と語る小野の視線の先には、自立した自由が得られたらという願いがある。
近年はバレエのトゥシューズをイメージしたかたちを作り続けている。「随分と異なるイメージでは」と聞いてみると、バレエを習う近親者の靴から、たたら作りの型紙を起こして制作しているという。リボンの束ね方がまるで生き物のように様々な表情をみせ、有刺鉄線とは正反対の個が立つ作品である。慣れ親しんだ信楽の土を使い、作り続けていくうちに作陶技術と制作意図からも解放され自由になれると、その境地に遊心没頭し制作している。以前、旧陸軍兵の履き潰された軍靴から、どうしようもない人間の所業を感じ、作品の中に受け入れたことがあるそうだが、この時代どこまで行っても鉛色だと思ったそうだ。ロシアのウクライナ侵攻によって多くの芸術が踏み躙られたが、その現実が私にこれを作らせると、銃弾をイメージさせる不気味な色で小野のトゥシューズは鈍い光を放っている。
砂上のトゥシューズ(2023年7月制作)
陶器 たたら作り
砂上のトゥシューズ(2023年7月制作)
陶器 たたら作り
砂上のトゥシューズ(2023年7月制作)
陶器 たたら作り
トゥシューズ(2022年7月制作)
陶器 たたら作り
(ギャラリーいまじん / 岐阜市)
トゥシューズ Ⅰ(2021年4月制作)
陶器 たたら作り
(極小美術館 / 岐阜)
小野允子
- 【略歴】
- 1947
- 岐阜県大垣市に生まれる
- 1970
- 武蔵野美術大学造形学部彫刻科 卒業
- 1979
- 中日国際陶芸展 (名古屋三越栄本店 / 名古屋)
- 1979
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1979
- 八木一夫賞現代陶芸展 (東京新宿伊勢丹美術館 等)
- 1987
- 工芸都市’87クラフト展 (高岡)
- 1987
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1987
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 1989
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1989
- 工芸都市’89クラフト展 (高岡)
- 1990
- 使ってみたい北の菓子器展 佳作賞 (札幌)
- 1991
- 日本陶芸展 (東京大丸ミュージアム)
- 1991
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1992
- 国際陶磁器展美濃 (多治見特別展覧会場)
- 1992
- 工芸都市`92クラフト展 (高岡)
- 1993
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 1994
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1995
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 1995
- 工芸都市’95クラフト展 (高岡)
- 1996
- 東海の現代陶芸展 (名古屋国際会議場)
- 1997
- デンマーク コペンハーゲン国立ガメルドックにて作陶
- 1998
- 個展 (ギャラリー ノビュー / コペンハーゲン)
- 1998
- 日本現代陶彫展・マケット展で土岐市長賞 (セラテクノ土岐)
- 1999
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 2002
- 第3回ユーモア陶彫展 (セラトピア土岐ギャラリー)
- 2006
- 第4回ユーモア陶彫展 (セラトピア土岐ギャラリー)
- 2016
- 第1回個展 (極小美術館 / 岐阜)
- 2018
- 中国 景徳鎮陶瓷大学にて作陶
- 2019
- 第2回個展 (極小美術館 / 岐阜)
- 2020
- MUSA-BI展 (極小美術館 / 岐阜)
- 2021
- 現代美術の作法 2021 (極小美術館 / 岐阜)
- ※開催時点
(岐阜県美術館 学芸員)