Contemporary Art
極小美術館
Yoshokawa
Chikako
吉川
千香子
2023.11/12(sun)~ 2023.12/10(sun)
No.46
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料空気を作る距離感
吉川千香子が作るものは、うつわや照明器具から立体造形まで多様な広がりを見せてきた。技法についても、焼き締めや白磁、鮮やかな絵付けなど多岐にわたる。バリエーションの豊かさに驚かされるが、どの作品にも感じられるのは土の柔らかさとあたたかさ、そして親しさである。
その一貫した姿勢は、吉川が制作の拠点とする工房からも伝わってくる。常滑の市街地に建つ、石膏型の工場を改装したという工房には自身の作品とともに、異国の木製の椅子や枝を伸ばしたような照明器具、古風な神棚、数々の書物等、さらに現代作家の平面作品等が混在し、壁や扉は自らの手で彩られ、キッチンや床面に自作のタイルがのぞく。自身の作品以外、ほとんどのものには直接的な相互の関連性はなく、雑多なものが何の脈略もなく置かれているようにも見える。それでいて、吉川の手によって散りばめられた明るい色彩にあふれる空間は居心地がよく、しばしば家族ばかりでなく国内外から訪れる来客でにぎわう。彼女の作品とも通じるこの雰囲気は、どのように醸成されているのだろう。
吉川は1948年、北海道の小樽市に生まれ、武蔵野美術大学の彫刻科に進んだ。若い頃から美術への興味は強かったが、特に、自ら建てた家に良質の家具や道具、器等をそろえていた祖父の存在は、吉川に強い印象を残したという。ジャンルを問わず様々な素材のものを愛でる好奇心の強さは、この頃から育まれていたのかもしれない。大学では彫塑を専攻したが、やがてやきものに興味を持ち、家族の紹介で北海道出身の陶芸家・山本正年(1912~1986)を訪ね、千葉の工房に通った。しかし間もなく自らの創作を求めて、友人に誘われた常滑に拠点を移している。
「釉薬さえ分かれば、家でもできる」
吉川は当時の思いをこう語った。彫刻を入口としたからこその大胆さといえるかもしれないが、成形技術については、自分のメソッドを既に捉えていた部分もあっただろう。実際、菊練りや削りの作業といった基本的な製陶技術を踏襲することよりも、空気をはらみ異物を抱き込む土の表情を優先したことが伺える。いわゆる伝統的な技法を否定するわけではなく、鵜呑みにするのでもなく、自分にとって必要な技術を抽出して我が物としてきたといえるだろう。この点だけを捉えると、表現の素材として土を利用する彫刻であるように聞こえるかもしれない。しかし吉川の作品には、視覚による鑑賞を目的とした彫刻とは異なる印象がある。大きな違いは、距離感にあるのではないだろうか。
土という素材の魅力は様々あるが、ひとつは手跡が残る柔らかさであり、焼成することによってその弾力性を閉じ込めたまま凝固する姿であろう。この魅力が引き出される方法を単純に考えるなら、「土もの」という言葉に象徴される陶器が適当に思われる。しかし吉川は磁土を用いることが多い。その方が水漏れしにくく洗ったときに汚れが落としやすいという理由を聞くと、創作の基盤が初手から暮らしの中にあることが感じられる。それでいて量産食器とは一線を画している。手の痕跡から生まれる、揺らめくような輪郭や表面を走る描線が、見る者に微かな緊張を与え、一方で描かれたものから滲み出す愛らしさがそれを和らげるのだ。この距離感のバランスこそが、居心地の良い空気を生み出す要因ではないか。
好きな作品として、常滑市陶の森資料館で展示されている平安時代の壺と、活躍中の陶芸家、桑田卓郎の名前が挙がった。一見全く異なる二つの世界に共通する魅力を見出し、受け止める、絶妙な距離の取り方と包容力が、どんな場所も吉川千香子の世界へと変えていくのだろう。
コロコロ(2023月制作) 磁器 手捻り
カベの華(2023月制作) 磁器 手捻り
壁の華(2023月制作) 木、磁器、砂,藁
中国で制作(2018月制作) 磁器 タタラ
灯り(2022月制作) ニューボン タタラ
吉川千香子
- 【略歴】
- 1948
- 北海道小樽市に生まれる
- 1970
- 武蔵野美術大学彫刻学科卒業
- 1974
- 愛知県常滑市に移る
- 1978
- 初個展。以後、個展多数
- 【展示・ワークショップ・受賞】
- 1992
- 国際陶芸交流事業・マラ工業大学 (シャーアラム / マレーシア)
- 1996
- Animal展 (フランクフルト / ドイツ)
- 1997
- マグカップシンポジウム (ドゥビ / チェコ)
- 1999
- 国際陶芸交流事業・デリーブルーポタリー (デリーブルー / インド)
- 1999
- Tierr Reposada展 (コルドバ / スペイン)
- 2000
- Yoeju International Ceramic Workshop (驪州市 / 韓国)
- 2001
- 2nd International Porcelain Pot Symposium (カルロビバリ / チェコ)
- 2001
- “Traveling Package” (バンコク / タイ)
- 2001
- Yoeju International Ceramic Firing Event Workshop (驪州市 / 韓国)
- 2001
- 伊丹酒杯台展 優秀賞
- 2001
- Animal Exhibition (ドイツ)
- 2003
- 3rd International Porcelain Pot Symposium (カルロビバリ / チェコ)
- 2003
- The 2nd World Ceramic Biennale 2003 Korea 特別賞
- 2003
- Ramon Fort Work Shop (ジローナ / スペイン)
- 2005
- 4rd International Porcelain Pot Symposium (カルロビバリ / チェコ)
- 2005
- The 3nd World Ceramic Biennale 2003 Korea International Ceramic
- 2005
- WOOD- FIRING FESTIVAL 2005 (驪州市 / 韓国)
- 2006
- Lanna style International Workshop (チェンマイ大学 / タイ)
- 2006
- TOJI Avantgard et Tradition de la Ceramique Japonaise (セーブル美術館 / パリ)
- 2007
- Association Culturelle Franco Japonaise de Tenri (パリ / フランス)
- 2007
- 10th International Mug Symposium “Traditions and Possibilities 2007” (チェコ)
- 2007
- 吉川千香子展“華” (伊勢現代美術館)
- 2008
- International Workshop (インスブルク / オーストリア)
- 2009
- PATISATU STUDIO Workshop (クアラルンプール / マレーシア)
- 2010
- Gelerie LOES & REINIER (オランダ、セーブル国立陶芸美術館 / パリ)
- 2011
- Rosemarie Jager Galerie (フランクフルト / ドイツ)
- 2012
- Les journees de la ceramique (フランス)
- 2014
- ワークショップ (スペイン)
- 2014
- Les journees de la ceramique (フランス)
- 2014
- The forth biennale shanghai international contemporary porcelain art exhibition (上海)
- 2015
- ワークショップ (韓国、スペイン)
- 2016
- Macau Art Garden “CERAMIC EXHIBITION”(マカオ)
- 2016
- ワークショップ (コロンビア)
- 2017
- MOE ART DESIGN (ロサンゼルス)
- 2018
- 吉川正道・千香子展 (伊勢現代美術館)
- 2018
- ワークショップ (景徳鎮)
- 2019
- 個展 (ヨジュ、チェジュ島、シンセン)
- 2020
- グループ展 (Galerie Metzger / ドイツ)
- 2023
- グループ展 (Galerie Metzger / ドイツ)
- 2023
- グループ展 (Saint-Sulpice / フランス)
- 2023
- グループ展 (Tenri Gallery / フランス)
- 【パブリック・コレクション】
- ▪不思議の森 吉川千香子の世界(名古屋市東山植物園)
- ▪常滑市民文化会館
- ▪伊勢現代美術館
- ※開催時点
(国立工芸館 学芸員)