Contemporary Art
極小美術館
Mitsui
Sonoko
三井
園子
2023.5/7 (sun) 〜 2023.6/11(sat)
No.44
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料絵画とインスタレーションの間に…
三井園子は、名古屋における現代美術の重要な発表の場の一つといえるガレリアフィナルテが、現在居を構えている栄ではなく、上前津にあった頃コンスタントに個展を開いており、そこで何度か作品を目にしている。その際の記憶をたどりながら作品の印象を記すと、鶏など鳥類の卵を思わせる楕円ドーム状の支持体に描かれた抽象画が、壁や床面に一定のリズムを持って設置されている、というものだ。一つ一つの絵画は30~40cmほどの大きさで、それほど大きくはないのだが、それらが複数で構成されることによってスケール感と空間性が生じてくる。上前津時代のフィナルテは地下一階にあり、街路からやや螺旋状にカーブした階段を降りて、ガラス扉を開くとそこに展示空間が広がっている建築構造なのだが、我々鑑賞者が階段のステップを踏む身体的リズムと、ある種有機的な関係性を持った絵画群の配列が重なり合うようなところがあって、スッと展示に入り込めたことを思い出す。その色彩は青や緑を基調とし、流動的に混じり合い融合する趣で、それは容易に空や水を連想させるのだが、不意に地階に広がったオアシスに出会った感触も抱かせた。
三井の作品は絵画と呼ぶべきか、それともそれらの総体が構築する空間の方に重きがあって、インスタレーションと言うのがより適切なのだろうか。そもそも絵画は一般的にイメージする四角い形状のものであっても、複数の作品を配置して構成する以上、そこには必然的に空間性が生じる。個展として発表する場合であれば、作品間から醸し出される空間性の構築に作家が無関心であることは考えにくい。実際、作品の配列や作品間の距離が厳密に計算され、そこに透明度の高い空気感や、宗教的な厳格さの域にも達する空間性が生じることも皆無ではない。
筆者は1980年代に学生時代を送ったので、当時、ニュー・ペインティングとかビデオアート、ハイ・テクノロジー・アート等々の言葉が、それこそ流行現象のように、ほぼ一年おきに現れては消えていった時代を体験している。インスタレーションもそういう言葉の一つで、こうした言葉が出るたび、私たちの多くは、今はこういうことをやらなければならない、乗り遅れまいという強迫観念に囚われた。筆者にはそんな実体験があるためか、三井のような表現に接すると、それが絵画なのか、インスタレーションか、あるいは両者の力関係はどれくらいの配分なのだろうか等、つい思考がおよんでしまうのだ。
ところで上前津時代のフィナルテは、絵画や彫刻はもちろんインスタレーション、映像等にも対応できるスペースだったが、既存のビルの一室に手を入れ展示室に仕立てているので、作品展示には無意味な段差が残っている等、どうしても空間に癖があった。しかし、その癖のようなものに作家がどう挑むのかを見るのも楽しみの一つで、類似した空間的ニュアンスのある極小美術館に三井がどう独創的にチャレンジするかも、私が期待するところである。それは、絵画空間とインスタレーションの間にある何かに、思考がおよぶ機会になるに違いない。
「hide a leaf」(2020制作)
麻布 アクリル絵の具 他
展示場所:VOLVO板橋店
「go or go back」(2021制作)
綿布にアクリル絵の具 他
展示場所:横浜 三渓園 旧矢箆原家住宅
「tamari」(2020制作)
綿布 アクリル絵の具 他
展示場所:VOLVO板橋店
三井園子
(撮影:宮坂省吾)
- 【略歴】
- 1969
- 岐阜県生まれ
- 1992
- 名古屋芸術大学絵画科洋画卒業
- 1994
- 名古屋芸術大学絵画科版画履修生
- 1995
- 名古屋芸術大学絵画科洋画研究生 =96年まで
- 1996
- ニュ−ヨ−ク (アメリカ)在住 =98年まで
- 2001
- “International Workshop for Visual Artists in REMISEN BRANDE” ブランデ (デンマーク)
- 2002
- “VILNIAUS PLENERAS 2002” Church of St. Catherine ヴィルニュス (リトアニア)
- 2002
- “Cité Internationale des Arts パリ (フランス)
- 2003
- “チャールストン (アメリカ)在住
- 2009
- ““International Workshop for Visual Artists in REMISEN BRANDE” ブランデ (デンマーク)
- 2011
- “第26回ホルベイン・スカラシップ奨学生
- 2012
- ““Viborg International Billboard Painting Festival” ビボー (デンマーク)
- 2014
- “野村財団2014年度下期助成金受領
- 2015
- “中外芸術家泉州対話展-回帰と出航-” 万旗アートセンター 福建省(中国)
- 2017
- “KARAVANA INTERNATIONAL WORKSHOP 2017” オーフス(デンマーク)
- 【個展】
- 1996
- “HITOBITO” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 1998
- “STAY” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2000
- “people in the park?” コバヤシ画廊, 東京
- 2000
- “people in the park?” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2002
- “crowded” コバヤシ画廊, 東京
- 2002
- “around” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2004
- “people around me” the:artist:network, ニューヨーク(アメリカ)
- 2004
- “make good” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2004
- “people around me” コバヤシ画廊, 東京
- 2006
- “pause my mind” Studio Open, サウスカロライナ (アメリカ)
- 2006
- “pause my mind” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2006
- “pause my mind” コバヤシ画廊, 東京
- 2007
- “pause my mind” 北ビワコホテル グラツィエ ギャラリー, 滋賀
- 2008
- “one piece of” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2009
- “it hangs. in other words it is connected” コバヤシ画廊, 東京
- 2010
- “hanging from there” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2011
- “staying in the mind” コバヤシ画廊, 東京
- 2012
- “release” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2013
- “small works” ギャラリー いまじん, 岐阜
- 2013
- 個展 極小美術館, 岐阜(池田町)
- 2016
- “overf low” A.G.Gallery, 愛知
- 2018
- “hide a leaf” POLARIS the art stage, 北鎌倉
- 2020
- “tamari” ボルボ・カー板橋, 東京
- 【グル−プ展】
- 1990
- “omuni Land-scape” Gallery YOU, 愛知
- 1992
- “Aroma Therapy” ギャラリーハウス, 名古屋
- 1993
- “Aroma Therapy II” 名古屋市市政資料館, 名古屋
- 1993
- “ラ・ルシュ” 名古屋市市民ギャラリー, 名古屋
- 1994
- “Aroma Therapy III” 名古屋市市民ギャラリー, 名古屋
- 1995
- “Rising Sons” 瑞穂区留学生宿舎, 名古屋
- 1995
- “それぞれの空間表現” 岐阜県美術館, 岐阜 (’96 ’97 ’99 ’00 ’01 ’02 ’03 ’04)
- 1999
- “名古屋コンテンポラリ−アートフェア” 名古屋市民ギャラリー, 名古屋
- 2000
- “Four Directions” Art and Design Center (名古屋芸術大学), 愛知
- 2001
- “Floor- Wall- Ceiling” Galerija Vartai, ヴィルニュス (リトアニア)
- 2002
- “Japan at this moment” Galerija Vartai, ヴィルニュス (リトアニア)
- 2003
- “PICNIC” - 13 artists from 7 countries - ガレリア フィナルテ, 名古屋
- 2003
- 岐阜内モンゴル美術展 内蒙古美術館, 内モンゴル自治区 (中国)
- 2004
- “pollen” Art and Design Center (名古屋芸術大学), 愛知
- 2006
- 北ビワコ現代美術展 北ビワコホテル グラツィエギャラリー, 滋賀
- 2006
- 形式と拓展 中央美術学院美術館 北京 (中国)
- 2008
- “飛騨高山現代美術展,2008 –里山と現代美術-” ギャラリー遊朴館, 岐阜
- 2009
- “International Workshop for Visual Artists ” Gallery SPOR1ブランデ (デンマーク)
- 2010
- “池田山麓現代美術展 –ベスパ・プリマベーラと作家たち-” 極小美術館, 岐阜
- 2010
- “井戸を掘る” ギャラリーAPA, 名古屋
- 2011
- “池田山麓現代美術展 –宇宙の連環として-” 極小美術館, 岐阜
- 2011
- “Emerging Art from Japan & Around Scandinavia 2011” 横浜赤れんが倉庫, 横浜
- 2011
- “会津・漆の芸術祭 東北へのエール” 福島県立博物館HP, 福島
- 2011
- “Remisen Brande Retorospection” ガレリアフィナルテ, 名古屋
- 2012
- “Billboard Painters Exhibition” Galleri NB, ビボー (デンマーク)
- 2013
- 織部亭28周年記念 “密度のある時間 「私の一点」” 織部亭, 愛知
- 2014
- ホルベイン スカラシップ選抜展VOL.2「2014春~布石~」 REIJINSHA GALLERY, 東京
- 2014
- “わたしの1点 自由をもとめて” 織部亭, 愛知
- 2014
- “CONTEMPORARY ART FROM JAPAN partⅡ” セーデルテリエ市美術館/セーデルテリエ(スウェーデン)
- 2015
- 織部亭30年記念展 “わたしの一点「祝宴」” 織部亭, 愛知
- 2015
- “returning and sail-setting” 万旗アートセンター 福建省 (中国)
- 2016
- “CONTEMPORARY ART FROM SWEDEN partⅡ” 横浜赤れんが倉庫, 三渓園, 岩崎ミュージアム, 神奈川
- 2016
- “Japan Paper Art” Edsvik Konsthall/ソレンチューナ(スウェーデン)
- 2016
- “TaoRan content” Art-More Space/北京(中国)
- 2017
- “現代美術の新世代展2017” 極小美術館, 岐阜
- 2018
- “わたしの1点 いとしき肖像” 織部亭, 愛知
- 2018
- “CONTEMPORARY ART FROM JAPAN partⅢ” セーデルテリエ市美術館, ギャラリー クレッツエン, サルトスコーグ ゴード(スウェーデン)
- 2019
- “10周年記念展” ギャラリー いまじん, 岐阜
- 2020
- “わたしの1点 つながる原風景” 織部亭, 愛知
- 2021
- “CONTEMPORARY ART FROM SWEDEN partⅢ” 三渓園, 神奈川
- 【コラボレーション展】
- 2001
- “After the Chrsalis” Galerie Künstlerhaus, ハンブルク (ドイツ)
- 2001
- “第11回見たい見せたい美術展 -歌となる言葉とかたち in YAMATO 2001 -” 古今伝授の里フィールドミュージアム, 岐阜
- ※開催時点
初めて三井園子の作品を見た時、女性の作品だなと感じた。何故ならば今でも女流作家展が存在する様に、男を追越せの感覚が残っている。男女平等率は世界で29番目だそうである。しかしながら美術は男と競うものではない。女性の作品は女性なるが故にむしろ女性の生理からといっても良いが、自ずと渉んでくるものが根底にある筈である。
欧米では女性でなければ発想できないような作品が多々存在する。三井の作品では布を主材にして絵を描いている。キャンバスも布であるが、三井の場合、布が布として作品の重要な表現のひとつになっている。そのことによる効果としては、平面としての絵画と同時に立体をも連想させ、又逆に異なる布の種類によって布は消滅し、色彩のみが空中に存在しているようにも見える。アメリカ作家のマーク・ロスコにも似たようなところがあるが美術としての存在のさせ方は全く異なるといって良いだろう。
西欧の絵画(宗教画は別にして)は横への動きが多いように思われる。東洋では水墨画、掛軸等に於いて上から下へ、又下から上というようにパーティカルな流れが殆どといってよい。三井はヨーロッパ、アメリカに長いが、その中でこそ東洋の血が無意識の中に根底をなしたと見るべきだろう。本来美術というものは自己の確立だと思っている。その意味では外国に住むことによって東洋の生理を根底にもったといっても過言ではない。
私は何も外国に住んで錦を飾ることに麗辞を送るものではない。一歩も国を出ず錦を飾る者も少くない。最後に、この諺をつけ加えたい。“井の中の蛙、大海を知らず”に下の旬があることを知られてない。
“されど天の深さを知る。”