Contemporary Art

極小美術館

2021.10/17(sun)~ 2021.11/21(sun)

No.38

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

用を溶解、新たな記憶の誕生。

高北幸矢(清須市はるひ美術館館長)

 美術における作品を鑑賞するという行為の中で、平面(絵画)と立体(彫刻)とは並列視されない点がある。立体作品においては、造形を観るという行為と同時に素材を観るということから分離することができない。絵画においても、油絵具や岩絵具あるいはキャンバスや紙などを観るということが同時に行われているわけだがその意識は殆ど無く、根本的に立体作品とは異なる。
 特に石(石彫)や木(木彫)は我々と対等に存在している自然物であって、根源的なイメージ、あるいはメッセージと言えるものを有している。石には地層、かつて生物であった記憶、神話や信仰の対象など。木は生命の象徴としてあり、人間とは極めて強い共存性を有している。そしてやはり信仰の対象としても。
 ブロンズ、テラコッタ、石膏などは石や木に比べて二次的存在であり、造形加工を比較的自由にすることのできるものである。したがって素材意識、意味は弱くなる。
 そこで、ガラスという素材について考えてみる。ガラスはブロンズやテラコッタ同様自然素材そのものではなく、自然から一旦切り離し造形加工を可能にしたものである。しかし、鑑賞者はガラスという素材を無にして作品を鑑賞することはないだろう。むしろ意識を強く喚起されて鑑賞することになる。そこには透ける、光る、割れるというガラス素材特有の魅力が包含されているからである。
 改めて林の仕事に注目してみる。素材のガラスは稼業の板ガラスである。何十年も、美術とは遠い距離で資材としてのガラスの特性と向き合って来た。そこから創造の源が始まっている。多くの美術家たちは、美術を目的として素材と出会い、素材を知り、理解し、創作へと向かう。しかし、石でも木でも美術のために存在している訳ではない。石、木としての存在そのものに向かい合う時間がもっと必要なのではないだろうか。
 板ガラスは、窓や器に使用するために製造されている既製品である。用のために一次加工されたものである。林は用のための素材を切断、接着、溶解することにより創造形態を生み出している。それはガラスに関わる厳しい稼業の記憶をも溶解させて行く創造行為かも知れない。林は作品を前にして、いつも楽しそうに説明してくれる、制作がきっと心地良い行為なのだろう。ガラスアート作品の多くに、吹きガラスによる技法を用いたものがあるが、それらからも強く一線を置いていることが林の作品を際立たせている。板ガラスという素材と向き合った圧倒的な時間が林の強味である。
この度の個展では、1作品が40キロという。これまでの透ける、光る、割れる、溶けるに重力が加わる。ガラスは私たちの日常を守り、彩り、楽しませてくれるが、重量と向き合うことはない。林の美しい造形に重量が加えられることで、非日常性をどこまで獲得できるか大きな期待を寄せている。
 溶解させていくガラスに、自ら溶解していく林孝子のしなやかな精神が輝いている。

希望をもつ(2021年6月)
H30 × W31 × D28 cm
撮影・上田 賢次

林孝子

【略歴】
1985
建築用板ガラスを素材として制作を始める
1986
朝日現代クラフト展入選
1986
高岡クラフト展入選
1987
全国発明コンクール入選
1989
日本クラフト展入選
1990
国際ガラス展金沢入選
1990
東海ガラス展アート 奨励賞
1991
金沢工芸大賞コンペティション大賞
1994
安達流月刊誌(東京)「“花芸”ガラスの文化」投稿 ※~01年連載
1994
岐阜新聞「素描」投稿
2007
新日本工芸展入選
2010
Glass Craft Triennaie 入選
【個展・グループ展】
1986
ステンドガラス展 (丸善・名古屋)
1987
京都工芸ガラス展 (京都府)
1989
個展 (ギャラリー円居・一宮)
1990
グループ展 (ギャラリー栗本・名古屋)
1990
個展 ※~02年 (ロゼ画廊・岐阜)
1991
個展 ※91、93、09年 (由美画廊・浜松)
1991
Gerum展、平和展 ※91、93、94、96〜98、00年 (岐阜県美術館)
1993
個展 ※93年 (ギャラリー幹・岡山)
1994
個展 ※94年 (ギャラリー栗本・名古屋)
1995
一宮市街はアートであふれる ※96年
2000
個展 ※01年 (八ヶ岳倶楽部)
2001
個展 (アトリエMOVE・横浜)
2003
個展 ※~13年 (ギャラリーアリア・岐阜)
2005
アート&茶会 (大徳寺黄梅院)
2006
グループ展 ※10年 (八ヶ岳倶楽部)
2007
個展 (北ビワコホテルGRAZIE・滋賀)
2008
個展 (乾ギャラリー・東京)
2008
飛騨高山現代美術展 (高山)
2009
クラフトデザイナー中部 ※~17年
2010
ベスパ・プリマベーラと作家たち (極小美術館・池田町)
2012
象の檻 (極小美術館・池田町)
2012
個展 ※~21年 (ノリタケの森ギャラリー・名古屋)
2015
個展 ※16年 (石原美術・岐阜)
2017
個展 (極小美術館・池田町)
2018
林孝子インスタレーション「月 待つ庭。」 (後楽荘・岐阜)
【コレクション】
■91年 大皿 「遊」(金沢市美術館)
■91年 オブジェ 家 「帰家穏坐」(極小美術館)
■92年 階段室パネル 「悠久」(岐南中学校・岐南町)
■93年 欄間間仕切りパネル 「飛翔」(加納斎場・岐阜市)
■93年 ガラスの庭(懐華楼・金沢市東茶屋町)
■99年 光鯱 照明(相馬楼・酒田市)
■02年 階段パネル「宇宙」、
   ドアーガラス「蛍.水仙.梅」(安八学習センター・大垣市)
■03年 ガラス窓「桜.サクラ.さくら」(桜保育園・大垣市)
■16年 オブジェ 光の塔「山地水明」(あまつち教会・大津市)
※開催時点