Contemporary Art

極小美術館

2021.6/20(sun)~ 2021.7/25(sun)

No.36

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

気配に満ちた空間

林いづみ(岐阜現代陶芸美術館学芸員)

 昨年10月、名古屋市市政資料館で開催された5人展「5 works」は、作家一名に一部屋があてがわれたグループ展示であった。時の流れが染み込んだような、すこし埃っぽい部屋を作家がそれぞれに自身の場所とするなか、大塚豊子さんの展示室は、いっとう飾り気なくみえて、しかし他とは異なる磁場を感じる空間となっていた。
 絵筆のタッチを生々しく残しながら、うねる曲線や円、楕円が描かれた作品群は、伸び上がる草木のようにも、風の軌跡のようにも、あるいは何か生命の萌しのようにも見える。一際目を引いた、むくむくと膨らみ連なる黒色の楕円体が描かれた作品(「Untitled」)をはじめ、いずれの作品も具体的なモチーフは判然としないが、確かな質量が感じられる。個々の作品が抱える、うごめくような量感が、部屋全体に拡がりこんでいたのだ。
 このときは主にアクリルを用いた作品が展示されていたが、大塚さんは鉛筆や油彩も併用し、それぞれの特質を活かした制作をされている。たとえば色を重ね盛っていくことのできる油彩に対し、アクリルでの制作は、色を重ねるごとに新しいものを作り直す感覚があるため「描き過ぎる」ことが少ないと語っていたが、共通するのは、色や線の重なりが作品にもたらす奥行きやボリュームの感覚に対する意識のようである。その関心は、物質の立体感の表現に留まらない、作家の意識や身体が動く空間そのものの創出へとつながっている。
 描かれるのは平面の上を走る線ではなく、奥行きのなかを行きつ戻りつ重なる螺旋である。鑑賞者は、そのマチエールを楽しみながらも、色や線となって表れた作者の感情が揺れ動く空間そのものを、静かに感じ取るだろう。空間を満たすのは、確固たる意味主張というよりも、生きる人の気配である。ただそこにあること、そして感じ考えること、その日常的であるはずの実感を取り戻せるような、気配に満ちた場。このたびの展示が、そんな空間に身を浸せる機会となるであろうと、心待ちにしている。

untitled 21(2921年)
1445 × 1303mm ミクストメディア

DMイメージ

untitled 20(2020年)
1445 × 1303mm ミクストメディア

DMイメージ

untitled 20(2020年)
1445 × 1303mm ミクストメディア

untitled 20(2020年)
530 × 652mm ミクストメディア

DMイメージ

untitled 17(2017年)
1167 × 1167mm ミクストメディア

DMイメージ

untitled 17(2017年)
1167 × 1167mm ミクストメディア

untitled(2020年)
180 × 180mm ミクストメディア

大塚豊子

【略歴】
1955
岐阜県大垣市生まれ
1979
愛知県立芸術大学油画科卒業
1981
同大学院修了
【展覧会】
1978
ヴォラン展 ※82年まで │ギャラリー・はくぜん,タケガ(名古屋)
1982
杼の会 ※84年まで │ギャラリー・デコール(東京)
1983
個展 │ギャラリー・ラブ・コレクション(名古屋)
1985
名爽会展 ※90年まで │名古屋画廊
1986
二人展 │ギャラリー・手(東京)
1991
アッサイ展 │岐阜県美術館
1998
SOW展 ※00年 │岐阜県美術館
2002
5Works展 ※04、06、08、11、14、17、20年 │名古屋市市政資料館
2011
宇宙の連環として 《気配》 │極小美術館(岐阜)
2012
象の檻 │極小美術館(岐阜)
2012
春艸会展 ※13、14、15、17、19年 │愛知県美術館(名古屋)
2015
名芳洞秀作展 │名芳洞ギャラリー(名古屋)
2016
個展 │極小美術館(岐阜)
※開催時点