Contemporary Art
極小美術館
Ono
Nobuko
小野
允子
2021.4/25(sun)~ 2021.5/30(sun)
No.35
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料表現者と社会
2020年5月、新型コロナウイルス感染症の広がりの中、ドイツのメルケル首相は演説で文化芸術の関係者に向けて次のように語った。それは、ニュースになり、我が国の政府が発するメッセージとの違いに大いに刮目させられた。
「⽂化的イベントは、私たちの⽣活にとってこのうえなく重要なものです。それはコロナ・パンデミックの時代でも同じです。もしかすると私たちは、こうした時代になってやっと、⾃分たちから失われたものの⼤切さに気づくようになるのかもしれません。なぜなら、アーティストと観客との相互作⽤のなかで、⾃分⾃⾝の⼈⽣に⽬を向けるというまったく新しい視点が⽣まれるからです。(中略)これは容易ならざる課題ですが、連邦政府はこの課題を優先順位のリストの⼀番上に置いています。(中略)どれほどあなた⽅が私たちにとって⼤切であるかをお伝えすることも⽀援となりますように。」
これは、文化芸術が我々の精神生活にとって欠かせないものであること、表現者と観客との相互作用によって新しいものが生み出されることを言っている。
パンデミック下の現在日本において、表現者は何を作ればよいのだろうか?日本では、えてして芸術分野は社会や政治と離れたところにあると言われたり、あるいは芸術家が浮世離れしているのが当たり前と思われたりする。しかし、政治が生活の延長線上にあるのと同じように、文化芸術も人々の社会生活と別個のものではありえない。
小野允子の作り出す作品も、彼女が社会に対して鋭敏な感覚と関心を持ち続けている表現者だからこそ成り立つものであろう。
今回の展覧会で発表しようとする作品について、その構想を聞いたところ、まさに現在の社会で起こっている、パンデミック下の社会と芸術の有様を反映したものであった。芸術文化を象徴するものとして焼物で作ったバレエのトゥシューズの集積を中心に置き、これも焼物で作った有刺鉄線で囲んで、現在の文化芸術の置かれた苦しい状況の暗喩となったものである。
彼女は、武蔵野美術大学で彫刻を清水多嘉示や井上武吉らに学んで、卒業後は信楽の女性陶芸家の草分けであった神山清子に師事して陶芸を学んだ。古い体質を引きずる陶芸界において、開拓者であった師の生き方と同様に、表現方法は違っても小野も特定のスタイルに拘ることなく、陶による新たな表現を模索し続けてきた。朝日陶芸展や日本陶芸展、国際陶磁器展美濃などに発表を続けてきたが、制作の中心を成すのは「積み重ねる」ことだろう。陶芸は、視覚で何かを作るのではなく、土という素材を触覚的に扱うのが特徴的な点である。柔らかく練られた粘土を積み上げることでできる造形のなかに、作者が対峙する社会を映し出すこと、それは具象的なシューズであっても、その扱いは積み重ねることであり、痛みを想像させる有刺鉄線は、柔らかな粘土から遠く位置づくようでも、触覚的な感覚を呼び覚ますものとなっている。
今回の展覧会では、この表現者が社会と切り結んでいることを再認識させられる展示となることだろう。
Military boots(2020年2月制作)
陶器 鉄 手びねり 160×100×120mm
Military boots(一部)
Toe shoes(2021年2月制作)
陶器 ステンレス 手びねり 60×60×20mm
Round chair(2019年4月制作)
陶器 手びねり 80×40×50mm
Barbed wire(2019年4月制作)
陶器 手びねり
小野允子
- 【略歴】
- 1947
- 岐阜県大垣市に生まれる
- 1970
- 武蔵野美術大学造形学部彫刻科 卒業
- 1979
- 中日国際陶芸展 (名古屋三越栄本店 / 名古屋)
- 1979
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1979
- 八木一夫賞現代陶芸展 (東京新宿伊勢丹美術館 等)
- 1987
- 工芸都市’87クラフト展 (高岡)
- 1987
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1987
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 1989
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1989
- 工芸都市’89クラフト展 (高岡)
- 1990
- 使ってみたい北の菓子器展 佳作賞 (札幌)
- 1991
- 日本陶芸展 (東京大丸ミュージアム)
- 1991
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1992
- 国際陶磁器展美濃 (多治見特別展覧会場)
- 1992
- 工芸都市`92クラフト展 (高岡)
- 1993
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 1994
- 朝日陶芸展 (名古屋丸栄スカイル)
- 1995
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 1995
- 工芸都市’95クラフト展 (高岡)
- 1996
- 東海の現代陶芸展 (名古屋国際会議場)
- 1997
- デンマーク コペンハーゲン国立ガメルドックにて作陶
- 1998
- 個展 (ギャラリー ノビュー / コペンハーゲン)
- 1998
- 日本現代陶彫展・マケット展で土岐市長賞 (セラテクノ土岐)
- 1999
- 陶芸ビエンナーレ (名古屋三越栄本店)
- 2002
- 第3回ユーモア陶彫展 (セラトピア土岐ギャラリー)
- 2006
- 第4回ユーモア陶彫展 (セラトピア土岐ギャラリー)
- 2016
- 第1回個展 (極小美術館 / 岐阜)
- 2018
- 中国 景徳鎮陶瓷大学にて作陶
- 2019
- 第2回個展 (極小美術館 / 岐阜)
- 2020
- MUSA-BI展 (極小美術館 / 岐阜)
- 2021
- 現代美術の作法 2021 (極小美術館 / 岐阜)
- ※開催時点
(前岐阜県現代陶芸美術館長)