Contemporary Art

極小美術館

2020.8/2(sun)~ 2020.9/27(sun)

No.33

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

和紙にとどまる水の精を待ちながら
米山より子展に向けて

馬場駿吉(美術評論家)

 私たちが生命体として地球に存在し続ける上で、最も重要な必須物質の一つが〈水〉であることは、今更言葉にするまでもないだろう。飲料水によって乾きが癒されるここちよさや、水辺の澄清な光にときめくなど、日常的な水の恵みの体験をふり返るだけでも、それが実感されるだろう。その一方、水は時に凶暴な魔王に変身して、住民をはじめ多くの生物の命を奪い、美しい町を廃墟と化す一面を持ち合わせていることも、私たちの記憶に生々しい。
 このように〈水〉は無機・有機にかかわらず、変幻自在な様態で私たちの周辺に遍在しており、古今東西の多くの美術家たちも、それに関心をそそられ、名作とされる絵画作品の中にも様々なかたちで取り込まれている。ただし、その多くは自然環境、言わば風景や人の営みの一場面を構成する要素として描かれているものがほとんどで、冒頭で触れたような〈水〉そのものの本質的な意味に迫った作品が意外と少ないのに気付く。  造形作家としての米山より子その人と作品を初めて知ったのは十年ほど前のこと。それは今述べたような思いを潤すような作品との出会いでもあった。数えきれないほどの精白米の粒を綴った多くの糸筋が錯綜しつつ柳枝状に空間を占めるインスタレーション作品であり、その時ふと脳裏に浮かんだのは
『田一枚植えて立ち去る柳かな 松尾芭蕉』
という「奥の細道」の一句だったことを思い出す。この米山の作品には一滴の水も使われていないのに、芭蕉の句と米山作品の素材に使われた米粒のイメージに導かれてか、田植のすんだばかりの水田と豊作の稲田の映像が重なり、さらに田隅に立つ柳と芭蕉の記述にもあるそのたもとの湧き清水のきらめきとが触れ合って閃光を放ったのだった。
 このたびの米山より子展が開催される「極小美術館」は肥沃な濃尾平野の北西端付近に多く湧出する地下水のような存在。それに因むように米山が選んだ今回のテーマは「地下水」。主な素材に和紙を用いた立体造形インスタレーションになるという。最初の出会い以後、注目し続けて来た米山の創作活動でも和紙は重要な素材の一つとして取り扱われて来た。清冽な水をくぐって漉きとられた和紙にとどまる水の精がどんな姿を現すのか、楽しみにしたい。

「にはたづみ」(2014年)
※地上にたまった水が流れることから「流る」の枕詞
和紙、インスタレーション、古川美術館為三郎記念館
(Photo: Koichi Yamaguchi)

「あうこと はなれること-Adhere」(2016年)
米、絹糸、和紙、インスタレーション、名古屋市美術館2階
(Photo: Koichi Yamaguchi)

「あまはなひめ」(2014年)※山の上の枕詞
和紙干し板、和紙 2000 × 400 × 20mm

(Photo: Tetsuo Ito)

「ほどくけしき-Plasticity」(2016年)
和紙、米、絹糸、インスタレーション、ギャラリー数寄

米山より子
(Photo: Toshikazu Masukawa)

【略歴】
埼玉県生まれ
1983
東京藝術大学美術学部工芸科 卒業
1985
東京藝術大学大学院美術研究科彫金専攻修士課程 修了
2019
愛知県立芸術大学大学院日本画領域研修生 修了
現在
名古屋芸術大学准教授
【個展】
1985
個展 (Graphic Station/東京)
1986
個展 (名古屋生活倉庫APITA/東京)
1988
個展 (スペース・デ・アウパ/愛知)
1988
「かみさまはそぼくだ」 (池袋西武アトリエ・ヌーボー/東京)
2006
「米と紙と水」 (ハートフィールド・ギャラリー/愛知)
2007
「ふざいのそんざい」 (Gallery Gallery/京都)
2009
あいちトリエンナーレ2010 七ツ寺共同スタジオ共催企画「往還–地熱の荒野から」 米山和子展企画「こめのゆめ2010七ツ寺共同スタジオ」 (愛知)
2010
「ポジション2010ほどくかたちつむぐけしき」 (名古屋市美術館地下1階第3室/愛知)
2016
「ほどくけしき-Plasticity」 (ギャラリー数寄/愛知)
2016
「ゆりかごのうた」 (ギャラリーNOIVOI/愛知)
【グループ展】
1980
グループ展 (At Gallery/東京)
1980
グループ展 (六本木スペース遊/東京)
1983
「卒業制作選抜」 (内田洋行ショールーム/東京)
1985
グループ展 (Graphic Station/東京)
1987
3人展 (錦糸町西武Studio錦糸町/東京)
1987
企画グループ展 (名古屋三越/愛知)
1988
X’mas展 (名古屋セントラル・パーク/愛知)
1995
現代美術展「名古屋に来た7人のアーティスト」 (名古屋市文化振興事業/愛知)
2003
「和紙と作家展」 (サロンギャラリー余白/愛知)
2004
「nowhere now here」2人展 (サロンギャラリー余白/愛知)
2005
「紙は今2005」 (京都工芸繊維大学/京都)
2006
「ももいろのむこう」 (4CATS Gallery/愛知)
2006
「和紙と作家展」 (サロンギャラリー余白/愛知)
2008
「こめのゆめ」 (ペネロープ・パリ・ぺティヨン/愛知)
2010
生け花インターナショナル主催・ポーランド大使館後援
草月+米山和子展示 (ウィラヌフ宮殿博物館/ポーランド)
2010
日伊地震復興支援 コンサート会場展示 (イタリア国立ラクイラ アルフレド・ガゼッラ音楽院コンサートホール/イタリア)
2010
日伊文化交流事業 トスティ楽曲の夕べコンサート舞台展示 (イタリアオルトーナ・トスティ協会コンサートホール/イタリア)
2011
Cloth & Memory {2} 展 (Solts Mill/イギリス)
2014
NSDユネスコ国際会議パートナーシップ事業
「つむぐけしき よむこころ 米山和子・祖父江加代子」 (古川美術館特別展為三郎記念館/愛知)
2016
「ポジション2016アートとクラフトの蜜月」 (名古屋市美術館/愛知)
2016
「日本画」DOJIMA RIVER AWORDS 2016入選展 (堂島リバーフォーラム/大阪)
2019
「Cross textile」 (ユネスコデザイン都市・サン=テティエンヌ・デザインビエンナーレOFF/フランス)
2019
愛知県立芸大デザイン科柴崎研究室主催 「和紙素材の研究展Ⅵ・韓国」 (韓国)
2019
「愛知県立芸術大学研究生研修生展」 (愛知県立芸術大学資料館/愛知)
2019
「現代美術の視点」2019 (極小美術館/岐阜)
2019
「名古屋芸術大学教員展」 (名古屋芸術大学ADセンター/愛知)
※開催時点