Contemporary Art

極小美術館

2018.7/8 (sun) 〜 2018.9/2 (sun)

No.28

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

今、ポスターとは何かを考える

越後谷卓司
(愛知県美術館主任学芸員)

 極小美術館は1階と3階が展示用に設計されていて、展覧会を見る際、上下を行き来することになる。その間に位置する2階は、事務スペース兼交流の場といった趣で、オープニングパーティではメイン会場になるのだが、この美術館のコレクションとおぼしき作品もさり気なく設置されている。その中に環境問題について提起する主旨のポスターがあって、その時々の展示と直接関係ないにも関わらず、なぜが印象に残るのだった。テーマを具現化するキャラクターにトキが採用されていて、このトキがいかにも困った表情を浮かべているのだが、そうでありながら同時にどこか可笑し味を感じさせ、シリアスかつユーモラスなのだ。線と色面のみのシンプルな構成で、必要最小限の要素を的確に配置してメッセージを伝える鮮やかさは、ポスターの本質とは何かを明確に伝えてくれる。このポスターの作者が、加藤由朗だった。
 ポスターと聞いて私が思い出すのは、まだ子どもだった1970年代に街中に貼られていた映画のポスターである。私の住む町には映画館はなく、そのポスターは隣町や沿線にある映画館で上映中の作品について告知する意図があったのだが、一人でも多く客を呼び込もうという商業目的に基づくものだから、今思うと当たり前なのだけれど、強烈なインパクトと存在感があった。それは、子どもの私にとって、実際に映画を見るのと同等の体験といってよかった。
 その後、学生の頃に旧ソビエトの革命期や、ポーランド、チェコ、キューバといった国々で、映画のポスターであるにも関わらず、作中の場面を伝えるスチル写真や俳優のポートレートすら使わずに、その映画をデザイナーが独自に解釈して表現した、それ自体が自立した表現といって差支えないポスターがあることを知って驚かされるのだが、これは商業主義と一線を画することが可能な共産圏ならではのことだ。加藤由朗が目指すところもアートとしてのポスターだが、高度にグローバル化した資本主義体制下で、個人としてこのスタンスを貫くのは容易ではない。本展もその困難な道のりの一過程としての重みを持つものになるであろう。

クレマティス3

くちなし2

金糸梅1

【略歴】
1948
岐阜市生まれ
1971
愛知県立芸術大学美術学部デザイン専攻卒業
1975
朝日広告賞入選・表現技術賞(朝日新聞/東京)
1980
第3回NAAC展奨励賞(日本広告技術評議会/東京)
1981
第4回ラハチポスタービエンナーレ佳作賞(フィンランド)
1987
第7回ラハチポスタービエンナーレ佳作賞(フィンランド)
1998
ワルシャワポスタービエンナーレ銀賞(ポーランド)
2009
テヘラン国際ポスタービエンナーレ2009審査委員賞(イラン)
2014
ラハチポスタートリエンナーレ2014佳作賞(フィンランド)
【個展】
2010
個展「加藤由朗展」(極小美術館)
2010
ポスターコンテスト入選
2010
第21回ショーモン国際ポスターフェスティバル(フランス)
2010
香港国際ポスタートリエンナーレ2010(中国)
2010
モスクワ国際グラフィックビエンナーレGolden Bee 9(ロシア)
2010
第2回シカゴ国際ポスタービエンナーレ(アメリカ)
2011
台湾国際グラフィックデザインアワード(台湾)
2012
第23回ワルシャワ国際ポスタービエンナーレ(ポーランド)
2012
トルナバポスタートリエンナーレ(スロバキア)
2013
ボリビアポスタービエンナーレ2013(ボリビア)
2013
香港国際ポスタートリエンナーレ2013(中国)
2014
第13回メキシコ国際ポスター展(メキシコ)
2015
レゲエポスターコンテスト(ジャマイカ)
2016
第14回メキシコ国際ポスター展(メキシコ)
※開催時点

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