Contemporary Art

極小美術館

2019.7/21 (sun) 〜 2019.9/1 (sun)

espoir 27

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

類型に向けるまなざし 

保崎裕徳 (名古屋市美術館学芸係長)

 以前、モネの《ルーアン大聖堂》の連作のごとく、青年漫画雑誌(週刊ヤングジャンプ)の表紙をモチーフにしたドローイングが何枚も展示されたとき、モネとの落差がおかしく感じられた一方で、それらをどう評価したら良いものかと戸惑った記憶があります。それらは女性タレントやアイドルの個性を描き出したものではなく、その髪型や身にまとった水着の色や柄の差異を淡々と扱ったものでした。作者のフェティシズムへの関心からか、あるいは取っ替え引っ替えにものとして消費される女性イメージを批判する立場から制作されたものだろうかと想像したのですが、本人に尋ねるとそうではないとのこと。モチーフの選択はあくまで形式(造形)への関心からであって、内容(意味)への興味からではないそうです。
 舩戸さんはこれまで、雑誌の表紙の他に過去のキリスト教絵画や聖書の言葉が記された看板を絵画の題材に選んできました。俗っぽいものから聖なるものまで大きな隔たりがありますが、これらはいずれも特有のメッセージを伝達するために、おおよそ固定化したフォーマットで生産され続けてきたイメージであり、舩戸さんはそこに関心を持ったようです。大まかにいえば、類型的な表現における配色・構図といった造形上のパターンや法則を分析・抽出し、それらを自分の絵画に転用する、というのが舩戸さんの制作原理になります。
 視覚情報を層構造(レイヤー)で捉える見方は現代的といえるでしょう。レイヤーを省いたり重ねたりする操作に絵具を塗る手仕事が加わって、舩戸さんの絵画は成立します。雑誌の表紙をモチーフにした作品で、舩戸さんは文字や人物のフォルムには頓着せずに、おおむね色面のみをすくい上げました。それは(墨版のない)色版だけの版画のような印象です。色彩が前に立ち、形や輪郭の明瞭さが減退しているという点では、モネやデ・クーニングの絵画との親近性を指摘することもできるでしょう。ただ、筆触や絵具の塗り重ねをことさらに強調しない舩戸さんの場合、絵画としての存在感や生々しさまでもが稀薄です。
 見覚えがあるがなんだか異様なもの、不明瞭で焦点の定まらないもの、サブカルチャーとハイアートの狭間にあるようなものとしてあらわれる舩戸さんの絵画は、さしずめ偶像の亡霊とでも喩えればよいでしょうか。平板な印象を与えるものの部分的に奇妙な存在感があり、何かが欠落したり過剰になったりして見る者を戸惑わせます。作品から仄かに感じられる執心の根深さのようなものも、私たちを困惑させる要因のひとつかもしれません。

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「雑誌(YJ)」(2019年制作)
1700×1050㎜ 綿布にアクリル、鉛筆

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「週刊 ヤングジャンプ」(2017年制作)
※左から off white、black、red、green、violet 計5点
2070×1470㎜ 麻布にアクリル

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「週刊 ヤングジャンプ(ver.A)」(2017年制作)
310×225×40㎜ OHPフィルムにプリント、アクリル板

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「週刊 ヤングジャンプ(ver.B)」(2017年制作)
310×225×40㎜ OHPフィルムにプリント、アクリル板

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「週刊 ヤングジャンプのインスタレーション」(2017年制作)
サイズ可変 ミクストメディア

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舩戸彩子

【略歴】
1990
愛知県生まれ
2018
京都市立芸術大学大学院美術研究科 絵画専攻(油画) 修了
【展覧会】
2013
パラレルワールド (ギャラリー幻想工房/岐阜)
2013
Young face (アートラボあいち/名古屋)
2014
BLACK TICKET (N-MARK B1/名古屋)
2014
connect (ギャルリーくさ笛/名古屋)
2015
ファン・デ・ナゴヤ美術展2015「TO BE CONTINUED」 (市民ギャラリー矢田/名古屋)
2015
Flyby -接近通過- (市民ギャラリー矢田/名古屋)
2015
名古屋芸術大学大学院同時代表現研究 × 東京藝術大学大学院先端芸術 表現科 Traffic Site (名古屋芸術大学 Art & Design center/愛知)
2016
Focus Flowing (GALLERY MoMo Projects/東京)
2017
現代美術の新世代展2017 (極小美術館/岐阜)
2017
みのかもannual2017 (みのかも文化の森 美濃加茂市民ミュージアム/岐阜)
2017
ART NEXT 寓話とアポリアとサピエンスと (電気文化会館/名古屋)
2018
I real -月の裏側- (YEBISU ART LABO/名古屋)
2018
みのかもannual2018 (みのかも文化の森 美濃加茂市民ミュージアム/岐阜)
2019
現代美術の視点2019 (極小美術館/岐阜)
2019
みのかもannual2019 (みのかも文化の森 美濃加茂市民ミュージアム/岐阜)
※開催時点