Contemporary Art
極小美術館
Inaba
Yoshiko
稲葉
佳子
2018.4/8 (sun) 〜 2018.6/3 (sun)
No.27
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料生きるための行為から生まれるアート
ファイバーアーティストとして活動している稲葉佳子さんのアートワークは、奇をてらったものでもなく、大仰な装置があるものでもありません。彼女の作品はいずれも生活の中で育まれた感性や肌で感じ取った感覚が主題となっており、アートが生活の延長にある事を感じさせてくれます。
稲葉さんは学生時代より染織に関心を持たれ、藍染や絞り、蚊帳や和紙などを使用したインスタレーションをしてこられました。近年の作品で印象的でしたのが、稲作のシリーズです。このシリーズの生まれる背景には、生きるための行為への追求が見られます。彼女は私たちが生きるために主食としている米に着目し、実際に稲作体験に踏み込みます。そしてその時に感じた田んぼの土の感覚やすくすくと伸びる稲の様子、そして害虫との戦い、ようやく迎える収穫の時、そうした時間の流れの中で見た景色をインスタレーションとして再現していました。自らが奪った生きとし生けるものの命を蘇らせているようにも感じられるこのシリーズは、<生きるための行為>からアートを見出す稲葉さんらしい表現で、稲の命である稔りを収穫し、米として食することで私たちの命につながっている循環さえも感じることができました。
また、稲葉さんのアートワークを象徴するのが素材です。これまでは繊維を追究してきた稲葉さんですが、今回の展覧会でもわかるように金属を使用した表現へと展開しています。微細な金属をシート状に編み込んだものを繊維として使用し、月桂樹の葉状に切り込み、葉脈をつけて本物の葉と混ぜ合わせて空間を演出した最新作では、自然の色彩と金属特有の光沢の融合がなされた素材への新しいアプローチが見て取れます。月桂樹の葉を長年保管しドライ状にした際、一枚一枚に色の変化が見られそれを繊維で表現できないかと試行錯誤した結果、金属にたどり着いたようです。変化しにくい素材・金属と、刻々と変化する素材がどのように作品の中で作用するのか、その相対する素材感も新しい見どころとなることと思います。
毎年繰り返される<生きるための行為>の中から作品が生まれると稲葉さんは言います。身近なものを題材として取り上げ、刻々と変わる素材と向き合う時間こそが彼女の表現に繋がっていると改めて感じました。
稲(生あるもの)
《 春風夏雨 Ⅱ 》
落ち葉(2017年制作)
100×120cm 銅線、銅ネット、月桂樹の葉、枝
稲葉佳子
- 【略歴】
- 1953
- 兵庫県神戸市に生まれる
- 1977
- 愛知県立芸術大学デザイン科卒業 在学中に京都で半年間、染織を学ぶ
- 1977
- 製紙会社に勤務 ※〜80年
- 1980
- スペインマドリッドに滞在 ※〜81年
- 1982
- 染織活動を始める
- 1986
- 「軌跡−長久手七人展」在学中から住む下宿の農家の取り壊しが決まり、仲間とグループ展
- 1987
- 「春風夏雨」夫で木工作家の治氏と二人展 (瀬戸市南ヶ丘周辺の雑木林)
- 1987
- 「一枚の布」個展 (ギャラリー安里・名古屋)
- 1989
- 「しつらいの妙 衣・食・住」 (カンディハウスナゴヤ・名古屋)
- 1989
- 「重なり合うもの - 布」治氏と二人展 (ギャラリーギャラリー・京都)
- 1989
- 絞り国際コンペ展 入選
- 1990
- 「ファイバー・アートの仕事」グループ展 (ギャラリーNAF・名古屋)
- 1991
- 「囲まれたもの - 布」治氏と二人展 (ギャラリーギャラリー・京都)
- 1992
- アトリエ IN-ABA 染織工房(のちのアトリエINA・長久手)を作品発表の拠点に
- 1992
- 「二人展」治氏と二人展 (織部亭、ギャラリー円居・名古屋)
- 1992
- 「凝縮された布」個展 (カンディハウスナゴヤ・名古屋)
- 1993
- 「エナジー - 藍」治氏と二人展 (ギャラリーギャラリー・京都)
- 1996
- 「布をまとふ」個展 (アトリエ IN-ABA・長久手)
- 2003
- 「祝い」個展 (ギャラリー安里・名古屋)
- 2004
- 「天からのいと 染織の形 三人展」 (長久手文化の家)
- 2007
- 「木のしごと、糸のしごと展」 (アトリエINA・長久手)
- 2008
- 「書と織りのコラボレーション」書の安田しげ子と二人展 (ギャラリー櫻や・名古屋)
- 2010
- 「生態」グループ展 (ゴジカラ村古民家・長久手)
- 2011
- 「第5回 5works」グループ展 (名古屋市市政資料館)
- 2011
- 「夏に舞う」個展 (三岸節子美術館・一宮)
- 2011
- 「ラグ」二人展 (アトリエINA・長久手)
- 2014
- 「第6回 5works」グループ展 (名古屋市市政資料館)
- 2015
- 「季節の形」個展 (さらり・豊川)
- 2015
- 「わたしの一点」グループ展 (織部亭・一宮)
- 2016
- 「ポジション展」個展 (名古屋市美術館)
- 2016
- 「灰色」4人展 (フィール アート ゼロ)
- 2016
- 「帰巣展」グループ展 (長久手図書館)
- 2016
- 「宇宙の連環として」グループ展 (極小美術館)
- 2017
- 「パラダイス」二人展 (長久手図書館)
- 2017
- 第7回 5works」グループ展 (名古屋市政資料館)
- ※開催時点
「稲」作品のパフォーマンス
文化の家アトリュームで田植えを行い、---------- ダンスと音入り
その後ギャラリー達に1ケずつ持って ---------- 刈り取り
あらかじめ展示室に置かれたプレートに再度田植えを行ってもらう
一連の行為で作品が完成と言う内容です。
(古川美術館 分館爲三郎記念館・学芸員)