Contemporary Art

極小美術館

2019.5/12 (sun) 〜 2019.6/30 (sun)

espoir 26

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

有刺鉄線を壊すとき 

林いづみ (岐阜現代陶芸美術館学芸員)

 風や雲、砂漠などをテーマとした陶作品の制作を続けてきた小野允子は、15年前頃から同じ陶で有刺鉄線をつくりはじめた。大学時代を学生運動の最中に過ごし、政治そして社会の変動を否応なしに自分のこととして生きてきた作家は、表現はどうしても今生きる社会に対するものとなる、と言う。息苦しい世の中で、人を、自分をがんじがらめに束ね上げるものの象徴として有刺鉄線をつくることは、社会に対するある種直接的な意思表示だった。
 15年後の現在、米国のトランプ大統領は国家非常事態宣言を出し、メキシコ国境間における物理的な壁の設置に向けて動き出した。自分を縛り付ける牢獄のように思っていた鉄条網は、視点を翻せば他人を斥ける壁となる。有刺鉄線の棘は内も外も刺すことができる。そして、有刺鉄線をつくり設置するのは、他でもない作家自身なのだ。
 今回の展示では、陶の有刺鉄線を部屋の床と壁へ這わすのみならず、極小美術館全体に張り巡らせるという。訪れる者を阻むように、何かを護るように伸びる鉄線は、禍々しい見た目とは裏腹に繊細だ。細く成形された陶は、足を引っ掛けてしまえば容易く割れてしまうだろう。人々を分断する攻撃的な線を、そのままに表現したこの作品を、作家はその場に居合わせる人に勇気をもって踏み壊してほしいと願う。
 小野が陶という素材を選択したのは、陶磁器は割れ砕ければ土に還ってゆくだろうという考えからだった。留まることなく変化している社会への関心が、形を変えずに存在し続けるような堅牢なモノとしての作品をよしとしなかったのかもしれない。しかし、陶磁は壊れやすくとも、消えることができない素材である。一度焼成してしまえば最後、土に戻ることがないことは、遠い昔の生活をひそやかに物語る博物館の陶片の数々をみれば明らかだ。だからこそ、この有刺鉄線は弱くて強い陶でつくられなければならない。一歩踏み出すことで壊せてしまう有刺鉄線を希求する人がいること、壊していく人たちがいることを、流転する社会の中でささやかな事実とするために。

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Desert tree(2018年制作)

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小野允子

【略歴】
1947
岐阜県大垣市に生まれる
1970
武蔵野美術大学造形学部彫刻科 卒業 ※卒業後、信楽 神山清子氏に師事
1979
中日国際陶芸展(オリエンタル中村栄本店・名古屋三越栄本店/名古屋)
1979
朝日陶芸展(名古屋丸栄スカイル) ※ 岡山、東京、長野、滋賀で巡回展
1979
八木一夫賞現代陶芸展(東京新宿伊勢丹美術館 等)
1989
第1回陶芸ビエンナーレ(名古屋三越百貨店) ※金沢、岡山、東京で巡回展
1989
工芸都市’89クラフト展(高岡)
1990
使ってみたい北の菓子器展で佳作賞(札幌)
1991
日本陶芸展(東京大丸ミュージアム) ※大阪、仙台、山形、松江、水戸、宇都宮、新潟、九州で巡回展
1992
国際陶磁器展実美濃(多治見市特別展覧会場)
1993
陶芸ビエンナーレ(名古屋三越栄本店) ※岡山、金沢で巡回展
1995
陶芸ビエンナーレ(名古屋三越栄本店) ※岡山、金沢で巡回展
1996
東海の現代陶芸展(名古屋国際会議場)
1996
デンマーク ボーンホルム島スワニケにて作陶、二人展
1997
デンマーク コペンハーゲン国立ガメルドックにて作陶
1998
第1回個展(ギャラリー ノビュー/コペンハーゲン)
1998
日本現代陶彫展・マケット展で土岐市長賞(セラテクノ土岐)
1999
陶芸ビエンナーレ(名古屋三越本店)
2002
第3回ユーモア陶彫展(セラトピア土岐ギャラリー)
2006
第4回ユーモア陶彫展(セラトピア土岐ギャラリー)
2016
第2回個展(極小美術館/岐阜)
2018
中国 景徳鎮陶瓷大学にて作陶
※開催時点