Contemporary Art

極小美術館

2018.7/8 (sun) 〜 2018.9/2 (sun)

espoir 25

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

小さきものの「風景」 南谷富貴 

村山閑 (多治見市モザイクタイルミュージアム・学芸員)

 思えばずっと「風景」がテーマだった、それを何にのせるかが問題だったと、南谷富貴は語る。幼いころから絵を描くことが好きで加納高校美術科で学び、名古屋芸術大学を卒業後、研究生課程を修了した。課題では具象画を制作することもあったが、木々が林立する森林の風景が、常にイメージの根底にあった。
 一方でアンティークに興味を持ち、学生時代には自ら購入するようになった。イギリスやフランス、後に北欧の食器、雑貨などを求めて、近年ではオンラインショップを運営するまでに至った。「高価なものでなくても日常大切に使われてきたものが時間を越えて現在にあることが愛おしい」という。そこに「風景」を見出し、想像するのが好きなのだと。ショップの名称も「Landscape」である。
 自然の在り様を外からの視点で描く風景画というジャンルは、ルネサンスに生まれ、産業革命や都市の広がりなどとともに変遷し、20世紀に入るとさらに概念が解体され、多様な視点や方法論が展開されてきた。南谷の「風景」についても、そのような流れの中で論ずることができるかもしれない。しかし、ここでは改めて作品を起点に考えてみたい。南谷が好んで使う「風景」という言葉をたどってみると、彼女自身の解釈が浮かび上がってくるからである。
 南谷の制作工程は、初期からあまり変わっていない。木材を加工して立方体や十字型などの立体形状にした支持体(ブロック)を複数用意し、アクリル絵の具で複数の色を付けていくという手順である。木を削り、釘を使わずに接着剤で固定し、膠やジェッソで下地を作るなど、1~2か月かけて作る工程は、手間のかかる地道な作業の繰り返しである。それでもこの手法にこだわり続けるのは、そこに、自分にとって大きなテーマが含まれているからだという。そのテーマとは、あるイメージの造形化。小さな細胞からなる生物、その生物等の小さなものが集まってできている「風景」を造形化することだ。木材という有機的な素材で複数の同形のブロックを作るのは、「風景」を、小さなものの集合体として微視的に見つめるためのツールといえよう。
 南谷は2003年頃から創作活動を休止し、3年ほど前に再開した。初期の作品と比較しても制作工程は変わっていないというが、色合いには大きな変化が表れている。赤や黄色などの強い色が減少し、青や緑といった深く落ち着いた色が増えたのだ。ブランクの間、南谷は2人の子育てに追われていた。子を授かったことで、命に対する責任を自覚したという。そのことによるものの見方の変化が作品にも表れたのではないか。自分の命を主張して動き回る生き物主体の「風景」から、いくつもの小さな命が生まれては終わり、繰り返しながらゆっくりと堆積していく静かな「風景」へ。苔むした巨木の立ち並ぶ森であっても、庭の片隅にできた水たまりであっても、均しく行われている生の営みの一端である。時間を超えて眼前にある姿は、アンティークの小物とも重なってくる。
 2017年、南谷は、岐阜県教育文化財団が開催した、障害がある方とアーティストのコラボレーション企画展「ともに、つくる、つたえる、かなえる展」に招待された。組むことになった三宅佐代子の、日課のように繰り返される制作の様子と、日々蓄積される「作品」の美しさに心を打たれたという。展示は迫力のあるインスタレーションとなった。近年、外部から定められた、これまでにない環境、条件での展示が続いているようだ。外からの刺激を柔軟に受け入れるとき、新たな道が開けることもあろう。今後の作品がますます楽しみである。

DMイメージ

landscape on square 木、アクリル

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lanscape

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lanscape

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andscape on crosses

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andscape on crosses

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andscape on crosses

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andscape on crosses

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南谷富貴

【略歴】
1967
岐阜市生まれ
1986
岐阜県立加納高校美術科卒業
1990
名古屋芸術大学絵画科卒業
1991
名古屋芸術大学絵画科 研究生課程修了
【グループ展】
1990
二人展(ラヴコレクションギャラリー・名古屋)
1991
二人展(織部亭・一宮)
1992
それぞれの空間(岐阜県美術館・岐阜)
1992
企画展 ~素材のもつ意味と限界~(紗絽紋・一宮)
1993
企画展 ~素材のもつ意味と限界~(ハートフィールドギャラリー・名古屋)
1996
陽だまり工房街角ギャラリー(岐阜市文化センター・岐阜)
1997
HYOTANのぞき展(ギャラリーキャプション・岐阜)
1997
フィールドミュージアム(古今伝授の里・郡上)
2016
企画展 ~未だ見ぬ世界へ~(織部亭・一宮)
2017
企画展 現代美術の新世界展2017(極小美術館・池田)
2017
みのかもアニュアル ~on location~(美濃加茂文化の森・美濃加茂)
2017
FOR BEAUTIFUL HUMAN LIFE(ハートフィールドギャラリー・名古屋)
2017
FOR BEAUTIFUL HUMAN LIFE(ドゥ・ギャラリー・瀬戸)
2017
ともに、つくる、つたえる、かなえる展 ~LIFE~(清流文化プラザ・岐阜)
2018
企画展 ~いとしき肖像~(織部亭・一宮)
2018
みのかもアニュアル 焦+−(美濃加茂文化の森・美濃加茂)
【個展】
1990
FUKI NANYA SOLO EXHIBITION(ギャラリーキャプション・岐阜)
2003
企画展 アートと出会う(アート&ヘアー チッタ・各務原)
2003
FUKI NANYA SOLO EXHIBITION(ガレリアフィナルテ・名古屋)
※開催時点