Contemporary Art

極小美術館

2017.3/26 (sun) 〜 2017.5/31 (wed)

espoir 20

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

関係性の中で 

高橋秀治 (岐阜県現代陶芸美術館・館長)

 大学時代の石彫から制作活動をスタートさせた土屋は、学校教育に携わりながらたゆまず制作を続け、この地域に根ざして発表を続けてきた。過去には京都市の「芸術祭典 京を創る」の大賞に輝いたこともあったが、基本的にはこの地域での制作、発表を中心に据えてきている。
 その作風は、自然や環境との交感の中から導き出された形態を表現したものと言って良いだろう。初期の石彫では自らの発する抽象形態を追求していたが、いつしか作品そのものの形態の追求から、環境のなかでの関係性に力点が置かれるようになった。
 時にインスタレーション的手法を使うこともあるが、力技で形を決めていくのではなく、環境を含めた素材と対話しながら、自然との関係性に視点を求めた良い意味での、力の抜けた飄逸(ひょういつ)とも形容できる作品世界を展開するようになってきた。特に近年は、植物とその種子にモチーフを求め、イマジネーションの種を見つけている。
 今回の発表でもその方向性は続けられている。それらは単に植物や種子の再現描写ではない。それは自然を含めた環境からインスパイアされた自分を表現しているものに違いない。環境と一言で片づけてしまうのはいささか乱暴で、もう少し掘り下げてみると、彼の生活のなかで育んできた人々との交流や、関係性にもその源流があるように思われる。つまり造形的な試行錯誤にとどまらず、発想のもとになる思考に影響を与えているのが、特別支援校勤務を中心とした学校教育との関わりがあると私は考えている。もちろんことさらそれを強調することは誤解を与えかねないが、彼に限らず作家としての思考というのは、表面的な造形だけでなく、生活全般から受ける刺激を、自らのなかで熟成させて表現に結びつけることはごく自然のことであろう。
 支援を必要とする子どもたちとの接点は、必ずしも何かを与えるだけの一方通行ではない。効率一辺倒が価値基準となるような現代社会が、平然と弱者に牙をむくようになってきた昨今、それぞれの人間の中にある生命感や尊厳を受け取ってきたに違いない。あるいは隠された能力に驚くこともあっただろう。そうしたものも彼の造形表現の根底に流れていると感じられるし、無機質な形態より有機的なかたちを、鋭さより柔らかさを、冷たさより暖かさを選び取ってきたのは、彼の体質と言っても良いだろう。
 今回も主に使っている蜜蝋という素材は、それ自体が有機的なオーラを有しており、作者の求めるベクトルを強化することに役立っている。また緑青や赤さび色も時間の経過を感じさせ、そこにわずかに工芸的な香りや手触りといったものをまとわせている。これらが相まって彼の作品は、一見重厚な雰囲気とは趣を異にしていながら、人間と自然の関係性といった大きな問題をも意識させる力を持っている。

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山(2016年制作)
 95 × 70 × 45cm 密蝋・ミクストメディア

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土屋明之

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制作風景

【略歴】
1954
岐阜県多治見市に生まれる
1977
大垣市野外彫刻展 ※~1984(大垣市)
1980
岐阜大学教育学部美術工芸学科彫刻研究生修了
1983
個展(ギャラリー絵美詩)
1985
岐阜県立関養護学校創立20周年記念『はぐくむ』制作  (関市)
1986
第1回岐阜現代彫刻シンポジュウム(岐阜市畜産センター)
1986
戦後生れの作家たち<立体部門>(岐阜県美術館)
1986
個展「土屋明之石彫展」(岐南町図書館中庭)
1987
音と形の5人『音と形の融合』展(岐阜県美術館多目的ホール)
1987
’87朝日現代クラフト展奨励賞受賞(大阪)
1988
池田野外彫刻展 ※~2005出品(岐阜県立池田高等学校中庭)
1989
個展「四季レリーフ展」(岐阜市『後藤家』)
1990
6作家による『後藤家ねね』オブジェ制作(岐阜市)
1990
「アート・フロム・『エコ・ワールド』彫刻展(岐阜県美術館 ・白川町クオーレふれあいの里)
1992
芸術祭展・京-「京を創る」大賞受賞(京都市)
1993
個展「原風景展」(岐阜市 ギャラリーキャプション)
1993
個展 道の駅オープン記念「原風景ひだ清見」インスタレーション(清見村ふるさと公園パスカル清見)
1993
平成4年度県芸術文化活動等特別奨励賞受賞(岐阜県)
1996
加藤洋二・土屋明之「こころのかたちー祈りの姿」(岐阜市ギャラリーキャプション)
1997
「歌となる言葉とかたち」展 ※~2015出品(郡上市古今伝授の里フィールドミュージアム)
2000
岐阜県芸術文化会議「芸術展」 ※~2012出品(岐阜市民会館)
2001
個展「こころの片隅・断片」(ギャラリー欅)
2003
個展(岐阜市ギャラリーなうふ)
2004
岐阜県芸術文化奨励受賞(岐阜県)
2006
個展「太古の原風景」(岐阜市アクティブG県民ギャラリー)
2015
個展「空から種が」(郡上市古今伝授の里フィールドミュージアム)
2016
第44回「雑魚展」出品(岐阜県美術館)
現在
中部学院大学短期大学部幼児教育科特任教授、岐阜県芸術文化会議会長、公益財団法人岐阜県教育文化財団障がい者文化芸術アドバイザー、TA工房主宰
※開催時点