Contemporary Art
極小美術館
Sugiura
Minako
杉浦
見奈子
2016.4/3(sun)~ 2016.6/19(sun)
espoir 17
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料意識の器
杉浦さんと知り合った時に、私は二つの点でこの作家に興味を持ちました。一つは学生時代ストイックに人体塑像を研究し続け、写実的に表現する高い技術を持っているという点。もうひとつは、それにもかかわらず近年は写実的なリアリズムを捨て、ミステリアスないしはユーモラスな雰囲気をもつ頭像の制作に取り組んできた、という点です。
近年の頭像制作において、作者は「形によるイメージの喚起」に重きを置いていたようです。例えば、髪の毛のボリュームを極端に強調して、頭全体のシルエットを山に近づけたり、あるいは重力に逆らうように毛束を立ちあげて、人魂のようなシルエットを作り上げたりしています。山も人魂も、内部に得体の知れないエネルギーを秘めているような象徴的な事物ですが、作家はこうした内部で蠢(うごめ)くもの、つまり人における意識や精神の存在に強い興味を抱いています。形を通じていかにその内部へと見る者の意識を誘うか、言いかえれば、頭像の内にある感情や物語をいかに側(がわ)によって伝えるか、という命題を自分に課していたように見えます。杉浦さんの造形の根底にあるのはおそらく、人間すなわち意識の器、という見立てです。
表面に穴や隙間があいていたり、頭部が途中で切断されていたりするのは、器の内側にある空洞や闇の存在を見る者に知らせる必要があるからでしょう。閉じた形であっても、内側から膨張したような量塊をもつことが多く、像に空間や意識が内包されていることを仄(ほの)めかします。ここで留意しておきたいのは、造形に穏やかさがあるせいか、像の内部の「空洞」は感じても、そこから「空虚」というネガティブな言葉は連想されないということです。
杉浦さんの陶(手びねり)による人体像には、器の意識に基づく豊かな量感と確かな構造があり、空洞が示されるといっても、それは見る者が想像で満たすべきものとして存在しています。作者は、展覧会に訪れた鑑賞者と、一つの器で同じ感情を共有するのを望んでいるのかもしれません。造形のソースは、おそらく作者の記憶、思い出にあります。陶の作例を俯瞰して、スタイルが定まっていないように見えるのは、技術的な挑戦を色々と試みているからではありますが、制作ごとに作者の中の少女性や憧憬や猜疑心が立ち代わりあらわれているという側面もあるでしょう。基本的に、他者との対峙ではなく、自分自身との対話によってイメージが形作られています。そのため、杉浦さんの作る人体像は、ほぼすべて女性になっています。
本展には、近年の陶の作品に加えて、石膏による人体像の新作が出品される予定です。等身大の写実的全身像としては、大学院の修了制作展(2009年)以来の発表となるでしょう。ともすれば人体塑像というだけで時代錯誤と捉えられかねない昨今ですが、自覚を持って再びこのジャンルに戻ってきた作者が、優れた技量と共に一体何を見せてくれるのか、注目しましょう。
山笑う声を聴く(2016年制作)
H230×W45×D45cm 石膏
月にまどろむ
眠りにつく前に
地平線を望む
瞑想するストゥーパ
杉浦見奈子
- 【略歴】
- 1982
- 愛知県生まれ
- 2003
- 東京造形大学造形学部彫刻専攻 美術学士(07年まで)
- 2007
- 愛知県立芸術大学美術研究科彫刻領域 美術修士(09年まで)
- 2009
- 愛知県立芸術大学 非常勤講師(12年3月まで)
- 現在
- 東邦高等学校美術科教諭(2012年から)
- 【展覧会】
- 2004
- Tenkiame Design Festa Gallery・東京
- 2004
- Karatotto 東京造形大学・東京
- 2004
- アーティストカレンダー2005 ARTBOOK Arteria・東京
- 2004
- 聖なるあかり展 コドモノ mini gallery・東京
- 2005
- 第8回エネルギー賞展 TEPCO銀座館・東京
- 2005
- 新制作協会 東京都美術館・東京
- 2005
- The Color ARTBOOK Arteria・東京
- 2005
- Hatapata 東京造形大学・東京
- 2007
- 2006年度造形展 東京造形大学・東京
- 2007
- 東京五美術大学展 東京都美術館・東京
- 2007
- 安美展 愛知
- 2007
- 研究発表展2007 愛知県立芸術大学・愛知
- 2008
- ヒロシマ・オー! 旧日本銀行広島支店・広島
- 2008
- The Drawing, MORIKITA Studio 愛知県立芸術大学・愛知
- 2008
- 研究発表展2008 愛知県立芸術大学・愛知
- 2009
- 第40回卒業展 愛知アートセンター・愛知
- 2009
- Nagakute Art Festival 2009 愛知
- 2010
- The Fresh 2010 伊勢現代美術館・三重
- 2010
- Nagakute Art Festival 2010 愛知
- 2011
- One Day Cafe ♯1 愛知
- 2011
- 五・七・五展 台湾
- 2011
- Two Myselves あなたの内なる自己と外なる自己 : あなたは一体だれなの? 名古屋市民ギャラリー矢田・愛知
- 2011
- MEGI HOUSE 2011 VOL.7-1「Megiism(メギイズム)」 愛知芸大公募プログラム 香川
- 2012
- 現代美術の新世代展2012 極小美術館・岐阜
- 2013
- リアリズムの深層 極小美術館・岐阜
- 2014
- 杉浦見奈子 小さな彫刻展 桂珈琲舎・愛知
- 2015
- ずっとかわらないもの ギャラリーラウラ・愛知
- 2015
- LIFE WORK 旧中埜半六邸・愛知
- 【受賞歴】
-
《最優秀賞》05年 第8回エネルギー賞展
《 入 選 》05年 新制作協会
《 奨学金 》06年 日本文化芸術財団
《 奨励賞 》07年 安美展
《 奨学金 》08年 上山奨学金財団 - ※開催時点
会期最終日 アーティスト トーク開催
「ずっとかわらないもの」
《講演作家》杉浦見奈子
2016年6月19日(日)14:00〜
古来より人間は、人のかたちをしたオブジェをつくる。その役割は、時代によって変化している。 今回のトークでは、作家が制作を通して感じている “ずっとかわらないもの” をテーマに語る。
(1階ギャラリー会場にて 予約不要)