Contemporary Art

極小美術館

2015.1/18(sun)~ 2015.3/29(sun)

espoir 13

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

鈴木瑞祥展に寄せて 

鈴木俊晴 (豊田市美術館 学芸員)

 1980年に学生を終えた鈴木が描いていたのはプルトップだった。プルトップも今となってみればある時代を物語るもので、それががなんなのか知らない世代もすでに多いだろう。同じように、70年代前半ごろまでの絵画のみならず美術において、還元主義的な、イメージにたいして禁欲的な時代があったことなどずいぶんと昔のようにも思えるが、鈴木がプルトップを、赤と黒で、画面一枚につきひとつづつ増やして連作的に描いたのは、日本の絵画がゆるやかにイメージへと回帰していく時代だった。プルトップを版画的に、加算して描いていくところは、絵画というものにたいしての批評的な距離を感じさせるが、いっぽうで、日常的な、しかもいかにもささやかなものに目を向けているところに、彼女の絵画への姿勢の萌芽をみることができる。ところで、鈴木の在学中に櫃田伸也が愛知芸大に赴任している。それ以前は「油絵を描く」ということが大学での制作において大きな前提としてあったのにたいし、櫃田の教育は「自然と戯れることを重視」していたという。課題として外へ出て風景の一部分を切り取ったりすることもあったそうだ。
 プルトップ以降も鈴木は身近なモチーフを大切にしてきた。1990年代には、仕事の行き帰りに見る長良川と揖斐川の堤防の草むらをグラフィカルに描いている。このころ制作に用いる素材技法として、アクリルを多く用いるようになるが、それは子育てのあいまにも比較的手早く制作に臨むことができ、また耐水性にすぐれ、子どもが触っても差し障りないという実際的な選択からだったという。
 今回展示している作品群の端緒は2003年に遡る。実際にまぶたを閉じたときに浮かんでくるイメージを素早く描き留めるドローイングに基づいている。これは毎日行われる。出先でも(登山中でも、飛行機や夜行バスなどの移動中でも)続けてきた。したがって、用いられるのはペンなどのやはり簡易な技法だ。
 そうして蓄積したイメージのうちから、気になったものを後日とりあげ、それを本画として描く。これが鈴木の最近のしごとの進め方である。それらは青を基調にしながら、さまざまな色彩のリズミカルな図形が組み合わされた抽象的なものもあれば、植物や構築物を思わせる風景のようなものもある。ただし、もともとのドローイングがそもそも連続性をもたず(画家曰く、「昨日のことは忘れる」)、さらに本画じたいがドローイングの制作とは時間をおいて描かれるため、たとえば湾岸戦争などの過去の時事のイメージを動機にもつものもあるとはいえ、全体としては大きな物語をもたず、むしろその時々のイメージの力を優先させた、伸びやかな印象を与えるものとなっている。日々の実践からうまれるその伸びやかさには、しかし、わたしたちが生活を送るうえで感じる些末な明るさだったり、屈託だったり、そういったこもごもをそれぞれに抱えた人間くささがあるような。

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鈴目を閉じて見えるもの 展開 (2012年制作)

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目を閉じて見えるもの 盲点
700×840㎜ アクリルガッシュ

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鈴木瑞祥

【略歴】
1953
岐阜県大垣市生まれ
1978
愛知県立芸術大学 油画科卒業
1980
愛知県立芸術大学 大学院修了
【作品発表】
1977
“9”展・第1回、78年・第2回、79年・第3回 (サカエ画廊、名古屋市博物館:名古屋)
1980
SELF展 (ギャラリー・安里:名古屋)
1980
うぇ~ぶ展・第1回、81年・第2回、82年・第3回 (岐阜パルコギャラリー)
84年・第4回~91年・第9回 (ギャラリー・鮎:岐阜)
99年・第10回 (ギャラリー・パウゼ:岐阜)
1981
個展 (BOXギャラリー:名古屋)
1982
個展 (アートサロンことぶき:岐阜)
1983
個展 (ウエストベスギャラリー・コズカ:名古屋)
1983
BOXギャラリー企画展 (名古屋)
1991
公募 自然展 (上野の森美術館:東京)
1997
個展 (ギャラリー・パウゼ:岐阜)
1998
S・O・W展・第1回、00年・第2回 (岐阜県美術館)
1900
“ん・ず”展・第1回 (ギャラリー・パウゼ:岐阜)
03年・第2回、09年・第4回、12年・第5回 (大垣市文化会館)
06年・第3回 (ギャラリー・欅:岐阜)
1901
弐千壱年睦月展 (ウエストベスギャラリー・コズカ:名古屋)
1901
加賀美先生とその仲間たち展 (名古屋画廊)
1902
5Works展・第1回、04年・第2回、06年・第3回、
08年・第4回、11年・第5回、14年・第6回 (名古屋市市政資料館)
1904
「木」展 (法然院:京都)
1905
愛知芸大関東支部展 (東京)
1906
個展 (ギャラリー風地蔵:大垣)
1909
「風景」のコラボレーション2人展 (ギャラリー・パウゼ:岐阜)
1911
「宇宙の連環として《気配》」展 (極小美術館・サテライトA)
1912
「象の檻」展 (極小美術館:池田町)
1912
個展 (ギャラリー・パウゼ:岐阜)
1914
個展 (ギャラリー・パウゼ:岐阜)
※開催時点