Contemporary Art

極小美術館

2015.4/5(sun)~ 2015.5/24(sun)

espoir 14

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

重力と向き合う 

保崎裕徳 (名古屋市美術館 学芸員)

 アルミニウムの板を組み合わせて造られる中村ミナトさんの彫刻は、簡潔で動感に富み、設置空間に活気を与えてくれます。ここ20年間の作例を見ますと、「伸びやかな」という形容がふさわしい造形と、「軽やかな」印象が際立っている造形とがあるように見受けられますが、そうした印象はどこから生まれるのでしょうか。言うまでもなく、物理的に薄くて軽く、色彩もニュートラルな素材の特性は大きな要因でしょう。中村さんの彫刻は、平面の形状を活かすことで、保守的な彫刻が固持してきた量塊や求心性を切り捨てています。常に開かれた形で、空気をはらみ、外側の表面とともに内側の表面が自然と目に触れるようなつくりになっています。そしてほとんどの場合で、面ではなく点か線で接地しており、大地に縛られない軽快さと、周囲の空間へと上昇・展開していく意志をアピールしています。それはただ立っているのではなく、崩れ落ちないバランスで自立しているということでもあります。そうした重力・素材・構造に対する優れた感覚とともに、周囲をまわりながら見る楽しさ、視覚的なリズムの心地良さを魅力として備えています。どの面と正対するか、立ち位置の選択によって作品は大きく表情を変えます。また、類似する形を少しずつずらしながら重ねていく手法が、テンポ良く視線を誘導します。等間隔で一直線上に並ぶ大きめのボルトは、表面の単調さから免れるための重要なアクセントとして機能しており、ここに作家の美意識が端的に現れています。
 さて、ここまで中村さんの彫刻の特徴を挙げてきましたが、極小美術館に出品されるという《through》は、写真で見る限りこれまでの作品とはずいぶん違う、「重み」と「緊張感」を訴えてくるもののようです。床の上に立つ正方形の金属板には斜めにスリットが入り、そこに別の正方形が差し込まれています。2枚の板は自重で地面に倒れそうに傾きながら、お互いを支え合い、床面に接する一辺と一点でかろうじて自立しているように見えます。この均衡状態は、例えばリチャード・セラの初期の傑作《カードの家》(1969)を彷彿とさせます。それは床面に立てられた4枚の正方形の鉛の板が、自重によって倒れこもうとするのを、お互いに支え合うことで箱状を保つものでした。中村さんの作品の多くは、1960年代から70年代にかけての彫刻が持っていたエッセンスを引き継いでいるように思いますが、《through》は特にセラへのオマージュのようにも見えます。
 しかしながら、彫刻は実際に見てみないとわからないもの。《through》には威圧的で重厚なセラの彫刻とは異なった趣もあるのではないかーそれは不透明な2枚の金属板がゆっくりと透過していくような感覚だろうかーそんな期待をもっています。

DMイメージ

through
H186.5×W228×D120cm アルミニウム

DMイメージ

revolve 1993

DMイメージ

Collective Effect 1995

DMイメージ

TORNADO 1998

DMイメージ

collective effect 2004

DMイメージ

風と箱 2008

DMイメージ

fold 2013

中村ミナト

【略歴】
1947
東京都生まれ
1969
武蔵野美術大学彫刻科卒業
1970
同大学専攻科卒業
【個展・彫刻】
1975
ギャラリーくぼた / 東京
1977
村松画廊 / 東京(’04)
1981
ときわ画廊 / 東京(’83、’85、’87~’89、’90~’93、’98)
1982
ASG / 名古屋
1995
愛宕山画廊 / 東京
2000
マスダスタジオ / 東京
2004
ギャラリーGAN / 東京
2007
ギャラリー現 / 東京
2008
かわさき IBM 市民文化ギャラリー / 神奈川
2009
堤側庵ギャラリー / 三重
2010
YELLOW PLANT ギャラリー / 岩手
2012
ガレリア画廊 / 石川
2013
アトリエKアートスペイス / 神奈川
2014
Steps Gallery / 東京
2014
ギャラリー現 / 東京
2015
スペースS / 東京
2015
東京国立近代美術館 / 東京
【個展・ジュエリー】
1990
ギャラリー・イフ / 東京(’92)
1991
ART B0X / 神奈川
1997
荒井アトリエギャラリー / 東京(’99、’01、’03、’05、’07、’12)
2009
ACギャラリー / 東京(’09、’11、’13)
2009
ギャラリー晩紅舎 / 東京
2015
スペースS / 東京
2015
東京国立近代美術館 / 東京
【受賞・ジュエリー】
1984
暮らしを創る’84クラフト展 優秀賞
1985
(財)美術工芸振興 佐藤基金 第2回淡水翁賞
1985
第19回ユーゴスラビア・セルジュ国際ジュエリー展 銀賞
【受賞・彫刻】
1993
湘南ひらつか野外彫刻展 大賞
【作品設置】
1990
(株)橋本屋 エントランス / 栃木
1991
宮城県中新田町立交流センター 前庭
1992
菊川工業(株)柏寮エントランス / 千葉
1994
神奈川県平塚市庁舎 前庭
1995
区立巣鴨スポーツセンター 中庭 / 東京
1996
八王子共同ビル エントランス / 東京
1998
秋田県本荘市立アクワパル・スポーツセンター 前庭
2012
SSK宮崎台ビル / 神奈川
2012
学校法人 金沢工業大学 / 石川
2014
宗左近文学碑として作品設置 / 福岡
【コレクション】
1984
京都国立近代美術館
1990
東京国立近代美術館
1995
東京国立近代美術館
1997
東京都目黒区美術館
※開催時点