Contemporary Art
極小美術館
Yuge
Mayuko
弓削
真由子
2014.10/12(sun)~ 2014.12/14(sun)
espoir 12
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料視線の集塊 瞬きする間も惜しむほど
弓削は何故か海を好む。港町に生まれ育ったわけではないが、幼い頃から高知にある祖母の家に遊びに行くと、海を見られることが楽しみだったそうだ。打ち寄せる波や、水面、水平線、砂浜、貝殻、空に浮かぶ雲まで、海を構成する要素、その表情を、創造の源の一つにしている。表現主義的な色や形は、どこかポエティックな印象を持つと同時に、得体の知れない不気味さも感じさせる。
しかし私がはじめて魅せられた弓削の作品は、徹底したリアリズムを持ってして畳を描いたデッサンであった。寸分違わぬ等身大のケント紙に描かれた、本物と見紛うほどの畳は、目の一つ一つはもちろんのこと、落ちている髪の毛やヘアピン、小さなごみ、小銭まで緻密に描写されていた。“使い込まれた”、“生活感が溢れる”といった微笑ましい様子ではなく、むしろ人の生活の見てはいけない部分を垣間見たかのような錯覚を覚えさせる情景である。《畳図》は、鉛筆だけで一年以上の歳月をかけて制作された。モチーフの特性もあってか、集積された静かな情念が感じられ、観るものに強烈なインパクトを与える。彼女の画歴を見るに、しかし、見たままを描いた作品は少なく、本作の方がむしろ異質である。一見して画風が二分するような印象を受けるが、それらは共通して、彼女の飽くなき見ることへの執着によって生み出されている。
彼女の海は、ある一瞬を待って描かれる。それは海だけでなく、彼女が描こうとする不定形のもの全てにおいて、同じことが言える。刻々と姿を変える波や水面を見続けて、今このとき、その瞬間が、そのものの本当の姿であると確信した時の形を描く。想像するにそれは決して楽しい作業ではない。ものの本質を見ようとすることは、途方もないことであるし、時に残酷で、恐ろしいことでさえある。文字がゲシュタルト崩壊を起こすように、薄ぼんやりと美しく見えていたものが、全く姿を変えてしまうこともある。彼女の描きだすものは、やはり単に心地よいものではない。それは果てしなく見ることを厭わない彼女が生み出した途方もないリアリティであり、人はそれを畏怖し、不快に感じ、同時に惹きつけられるのである。
「芸術家の使命は、ひとを不快にさせること」だ。イギリスの画家、ルシアン・フロイドの言葉である。芸術という分野を除いて、人は基本的に心地よいものを好む。利便性に富み、コストパフォーマンスが良いと、尚好まれるだろう。醜いものや、下世話なもの、人の死に関するものは、できれば眼に触れないように、社会は努められている。しかしそれらは隠されているだけで確かに存在しており、むしろそれらにこそ、ものの本質、リアリティがあるように感じられる。芸術という分野は、それらが表出するに許された、わずかな媒体であり、弓削は声高にその意義を発信できる、稀有な芸術家の一人なのである。
畳図1(2006年)
物語包丁(2014年)
無題(2014年)
クリストフ コパンの帽子(2014年)
胸に迫り来るもの(2014年)
田んぼの女王(2014年)
畳図(2014年制作)
900×1800㎜ パネル、ケント紙に鉛筆デッサン
弓削真由子
- 【略歴】
- 1984
- 京都府出身
- 2003
- 岐阜県立加納高校美術科卒業
- 2005
- 東京芸術大学油画科入学
- 2007
- 安宅賞展(東京芸術大学)
- 2008
- 伝統と現代展(東京)
- 2009
- 東京芸術大学卒業
- 2011
- 海洋堂四万十カッパ造形大賞 審査員賞受賞
- 2011
- 京都国際マンガミュージアム、東京ビッグサイト、海洋堂ホビー館にて展示
- 2012
- 現代美術の新世代展(極小美術館 岐阜)
- 2013
- リアリズムの深層展(極小美術館 岐阜)
- 2014
- 損保ジャパン美術展 FACE2014 入選
- 2014
- 個展(極小美術館 岐阜)
- ※開催時点