Contemporary Art

極小美術館

2012.3/18(sun)~ 2012.6/10(sun)

No.06

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

島眞一展に寄せて

雪山行二(和歌山県立近代美術館 館長)

 島眞一さん。本当に笑顔のすてきな人だった。口髭と白い前歯、やさしい眼差しが記憶に残る。
 1980年の暮れから82年の2月まで、私はマドリードに文字どうり遊学した。エチェガライ通りの島さんのアトリエによくお邪魔して、ドブロクのようなおいしいワインを飲ませていただいた。クリスマス・イヴともなれば若い日本人画家たちが集まり、飲んで騒いで花札に興じたあげく、酔いざましに近くの教会に繰り出して、神妙な顔でミサに参列した。
 当時、島さんは絵筆を激しくカンヴァスにこすりつけたり、絵具をにじませたりするモノクロームに近い抽象画を描いていた。その決然とした姿勢は、他人が話すのを静かに聞いている時のあの穏やかな微笑とは異なったものだった。
 その後、島さんの画風は少しずつ変わっていった。1985年に帰国してからは東京の日本画廊を中心に定期的に個展を開くようになり、私もそれを何度か拝見した。帰国後最初の個展に出品された作品にはどこかタピエスの影響を残しながらも、このカタルーニャの画家が持つ荒削りなマチエールとは異質の、日本人的と呼んで良いのか否かわからないが、きわめて繊細でむしろ理知的ともいえる性格が表われていた。
 島さんの画風がひとつの完成を見たのは1990年代の後半ではなかったかと思う。さまざまな色彩が形を変えながらゆっくりと繁茂していく夢想の世界は、細い木の棒による幾何学的な図形によってリズムが与えられ、画面全体に微妙な緊張と対立が生み出されていた。
 このように画風こそ大きな展開を見せたものの、それでも島さんは終始一貫してマチエールを大切にした画家であった。ある一文のなかで、島さんはマチエールについて次のように語っている。「塗る、重ねる、垂らす、染み込ませる、削る、引っ掻く、こする等等・・・・マチエールはそういった物質と人間の創造的行為とが出会うことによって生じ、それは意識と無意識、必然と偶然の交わる場でもある。・・・・」島さんの絵の最大の魅力はこの点にあるのではないかと思う。
 あの心地よい極小美術館のなかで、島さんの作品と出会うことを楽しみにしている。

外から内へ折れ曲がって(1996年制作)
1850×2750㎜ ミクストメディア

「ベサメムーチョ」

島眞一(仕事場で)

2012年3月21日付岐阜新聞

【略歴】
1942
東京都台東区根岸に生まれる(7歳、国立市に転居)
1966
武蔵野美術大学彫刻科卒業(卒業制作買上)、同科助手に就任
1971
助手の任期を終え渡欧(スペイン・マドリッド在住)~1985
1974
個展・GALERIA NOVART(SPAIN MADRID)
1975
個展・SALA TOBA(SPAIN CUENCA)
1975
個展・GALERIA SIENA(SPAIN VALENCIA)
1976
個展・GALERIA NOVART(SPAIN MADRID)
1977
在スペイン日本人選抜展
1978
在スペイン日本人選抜展
1979
個展・GALERIA NOVART(SPAIN MADRID)
1980
スペインおよびラテンアメリカ芸術家展-赤道ギニア国立現代美術館設立記念・スペイン文化省
1982
国際現代美術フェアーARCO’82(SPAIN MADRID)
1985
個展・日本画廊 (東京・日本橋)
1985
スペインマドリッドから千葉市に転居
1985
個展・画廊岳(東京・国立)
1987
武蔵野美術大学助教授に就任
1989
個展・日本画廊 (東京・日本橋)
1991
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
1992
武蔵野美術大学教授に就任
1993
個展・日本画廊 (東京・日本橋)
1994
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
1994
武蔵野美術大学在外研修にて1年間スペイン滞在(ロマネスク美術の研究)
1996
個展・日本画廊 (東京・日本橋)
1996
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
1998
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
1999
個展・日本画廊 (東京・日本橋)
2000
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
2003
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
2004
個展・日本画廊 (東京・日本橋)
2004
個展・ギャルリヴェルジェ(相模原)
2005
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
2007
個展・ギャラリーA.C.S (名古屋)
2008
個展・日本画廊 (東京・日本橋)
2008
癌のため逝去11月30日
2009
追悼展・ギャラリーA.C.S(名古屋)
2010
追悼展・コートギャラリー(東京・国立)
2010
追悼展・日本画廊 (東京・日本橋)
2012
島眞一展・極小美術館(岐阜・池田)
※開催時点