Contemporary Art

極小美術館

2011.11/6(sun)~ 2012.3/11(sun)

espoir 03

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

宇宙の彼方に -beyond the cosmos-

長澤知明 (極小美術館代表、彫刻家)

 今から40年前、大学の彫刻研究室に敬愛する先輩彫刻家がいた。吉祥寺・北口に「ねじ式」の情景に出てくるような木造アパートの一室に入るとそこは別世界。目を見張るようなオーディオ装置が並んでいて、彼は「音」に耳を傾けていた。
 助手の任期が終わり、欧州へ留学された後、しばらくしてミラノのブレラ美術館で再会することになった。マンテーニャの絵に圧倒されて、スフォルツァ城前の公園まで来た時、夕日の色が違って見えた。
 「空気も風も湿度も透明なんだ。」と彼はつぶやく。そして、「こちらに来て絵を描きたいと無性に思うのだ。」と。
 彼の彫刻作品は具象表現であったが、ダイナミックで、情感に溢れていてそれは凄みすらあった。その才能ある作家を虜にする「透明の光の色」とは何なのか、その時はよく理解できなかった。
 今年の夏、第54回ベネチア・ビエンナーレを見てきたが、そこにはいわゆる、自己完結型の造形美術作品は影が薄かった。参加作家の多くは同時代性を見据えた重いテーマを前面に押し出し、プロテストしていた。確かにかつて、ピカソは「ゲルニカ」で時の政権に抵抗し、ヘンリー・ムーアは「防空壕シリーズ」のデッサンで戦争の悲惨さを訴えた。
 しかし、アートを志す者にとって、美しいと思うものをうつくしいと感じ、表現するのは根源でもある。
 島花梨の仕事はあどけないほど奔放に色を使う。描く前に構想など練ることもないような筆使い。それでいて画面のフィールドを、緊張感を保ちながら構成する。
 作品の題名が言語的で甘ったるく良しとしないが、なんの衒(てら)いもなく描写する彼女にとってこのタイトルもコンテクストとして一貫しているのだろう。
 宇宙空間に放出されたような水玉は浮遊し、回転し、やがて地球に戻ってくるような予感をさせる。
 決して美の快楽に溺れることなく、耽美に流されず、彼女の絵筆は大空に舞う。
 前述の敬愛する作家「島眞一」は彼女の父。癌で急逝されたが、その父の住まう天空に花梨の描く絵が届いているかもしれない。

川底漂う気泡にのって
1455 × 1455mm 油絵(2009年制作)

朝露揺れる気泡にのって
1455 × 1455mm 油絵(2009年制作)

深紅に染まる気泡にのって
1455 × 1455mm 油絵(2010年制作)

島 花梨

【略歴】
1984
東京に生まれる
2003
3月・女子美術大学付属高等学校 卒業
2004
4月・多摩美術大学美術学部絵画学科
油画専攻 入学
2008
3月・多摩美術大学美術学部絵画学科
油画専攻 卒業
2008
4月・多摩美術大学 大学院 美術研究科
絵画専攻 入学
2010
3月・多摩美術大学 大学院 美術研究科絵画専攻 修了
【受賞歴、個展・グループ展など】
2003
3月・女子美術大学付属高等学校卒業制作展 優秀賞 受賞
2005
9月・二人展(恵比寿 Box Island 東京)
2006
9月・第70回新制作展 入選(上野 東京都美術館 東京)
2006
10月・きゅうりのおしり展(渋谷 ル・デコ 東京)
2008
2月・五美術大学卒業制作展(六本木 新国立美術館 東京)
2008
3月・多摩美術大学卒業制作展 優秀賞 受賞
2008
9月・島 花梨 展(銀座 gallery forest mini 東京)
2009
9月・第73回新制作展 入選(六本木 新国立美術館 東京)
2010
3月・多摩美術大学大学院修了制作展(多摩美八王子校舎 東京)
2011
5月・合津・漆の芸術祭2011「東北へのエール」にて作品公開(福島県立博物館)
2011
9月・篠田守男企画 「宇宙の連環として」に出品(極小美術館 岐阜)
※開催時点