Contemporary Art

極小美術館

2010.5/1(sat)~ 2010.9/30(thu)

No.02

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

不動態から動態へ 《散距離》に寄せて

青木正弘(美術評論家、前豊田市美術館副館長)

 距離とはなかなか手強(てごわ)い概念である。それは、自分とものとの隔たりであり、ものとものとの隔たりでもある。ある時は「間(ま)」「間隔」と言い、「高さ」「幅」「奥行き」、場合によっては「厚み」とも表現される。これがなぜ手強いのか。それは距離というものが、現実の空間のみならず観念においても存在し、時には無限、宇宙という未知を想起させ、それらへと連なる概念だからである。我々が、現実の空間で距離を認識しようとすれば、視覚や触覚で捉え得る物体、少なくとも聴覚で捉え得る音の波動が、そこに存在していなければならない。物体が存在しない空間で距離を認識することはできないのである。そして、距離の具えたこの手強さこそが、ジャコメッティや若林奮をはじめ彫刻家達を悩ませつつも惹き付けて止まなかった所以であろう。
 鈴木久雄は、1970年以降80年代初頭までは、いわゆる石彫家であった。その後、素材は、熱して打ち鍛え、溶接する鉄へと転換する。鉄による単一素材の彫刻も90年代前半までは石彫と同様、重量が作品に共通する一要素であり、四角い鉄の塊の集積体であった。90年代後半からは鍛造ステンレス鋼板による空洞の箱の集積体に変化し、彫刻は重量から解き放たれる。2001年に《横の大きな距離》が制作され、さらに《距離群》の制作、ヨーロッパでの滞在制作を経て、2005年に《散距離》の原型となる《距離・Irish Sky》が制作される。はじめて六角形の筒状のユニットが用いられることで、構造と形態は大きく変容する。ユニットを溶接し繋ぐことによって六角錐が構築され、面を少しずつずらして繋いでいくことで表面に螺旋が現れ、構造体は方向と動感を獲得する。このような制作の変遷は、不動態から動態への変容と言うことができよう。「美術家は狩人です」と語る鈴木が、その思考と要素の綜合によって、我々を如何なる世界に引き込んでくれるのか期待したい。

「散距離」(2008年)
鍛造ステンレス鋼 390×590×180cm
中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館(Photo 山本 糾)

(Photo 山本 糾)

鈴木久雄(スロバキア個展)

【略歴】
1946
静岡県清水市(現静岡市清水区)生まれ
1970
武蔵野美術大学造形学部美術学科彫刻専攻卒業
1971
ユーゴスラビア国際彫刻シンポジウムに参加・制作・ポルトローゼに作品設置
1972
イタリア・フェリオーロ石切場にて制作(ミラノ・パガーニ画廊との契約に依る)、レニャーノ野外美術館(ミラノ)に作品設置
1903
武蔵野美術大学在外研究員としてアイルランド・オランダ・スロバキアに滞在し、彫刻制作(Cork)・個展発表(Cobh、Leiden、Samorin)・公開講義(Bratislava)を行う。2004年4月帰国
1907
第35回中原悌二郎賞受賞(2006年、島田画廊個展発表作「距離・lrish Sky」)
現在
武蔵野美術大学造形学部教授(共通彫塑)
【個展】
1987
佐谷画廊/東京
1990
南天子画廊/東京
1994
南天子画廊SOKO/東京
1997
南天子画廊/東京
1901
南天子画廊/東京
1903
島田画廊/東京 PROJECT STUDIO of Haagweg4/ライデン・オランダ
1904
West Gallery of Sirius Arts Center/コーブ・アイルランド
1904
Synagogue of Samorin(At Home Gallery)/サモリン・スロバキア
1906
島田画廊/東京 横浜ポートサイドギャラリー/横浜
1909
島田画廊/東京 中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館/旭川
【グループ展等(抜粋)】
1969
第24回行動美術展ー以降91年まで毎回出品
1975
第11回現代日本美術展(東京都美術館/東京)
1975
第2回箱根彫刻の森美術館大賞展(箱根彫刻の森美術館/神奈川)
1975
第6回現代日本彫刻展(宇部市野外美術館/山口)
1976
第12回現代日本美術展(東京都美術館/東京)
1977
第7回現代日本彫刻展(宇部市野外美術館/山口)[宮崎県総合博物館賞受賞]
1980
第13回日本国際美術展(東京都美術館/東京)
1981
第15回現代日本美術展(東京都美術館/東京)
1981
第9回現代日本彫刻展(宇部市野外美術館/山口)
1983
第3回ヘンリー・ムーア大賞展(美ケ原高原美術館/長野)[佳作賞受賞]
1985
第4回ヘンリー・ムーア大賞展(美ケ原高原美術館/長野)[ジャコモ・マンズー特別優秀賞受賞]
1986
第10回神戸須磨離宮公園現代彫刻展(神戸市須磨離宮公園/兵庫)
1987
現代のイコン展(埼玉県立近代美術館/埼玉)
1987
第12回現代日本彫刻展(宇部市野外美術館/山口)
1988
第2回ロダン大賞展(美ケ原高原美術館/長野)[優秀賞受賞]
1989
第13回現代日本彫刻展(宇部市野外美術館/山口)
1993
第15回現代日本彫刻展(宇部市野外美術館/山口)[兵庫県立近代美術館賞受賞]
1997
洞爺村国際彫刻ビエンナーレ97(洞爺村総合センター/北海道)
【パブリックコレクション】
■東京国立近代美術館
■東京都現代美術館
■富山県立近代美術館
■美ケ原高原美術館
■江戸川区葛西親水公園
■宮崎県立美術館
■和歌山県立近代美術館
■静岡県立美術館
■東京都美術館
■大原美術館
■中原悌二郎記念旭川市彫刻美術館
■ポルトローゼ(スロベニア)
■レニャーノ野外美術館(ミラノ)
【モニュメント等】
■多摩ニュータウン大塚東公園、神田美土代ビル・山田ビル・川辺ビル、
 立川市立さかえ会館/東京
■神戸市布引ハーブ公園/兵庫
■成田はなのき台/千葉
※開催時点