Contemporary Art

極小美術館

2022.3/7(mon)~ 2022.3/12(sat)

Art Exhibition

アートスペース羅針盤(東京都中央区京橋)で開催

小さきものの「風景」 南谷富貴 

村山閑 (多治見市モザイクタイルミュージアム 学芸員)

 現代美術には重要な2つの精神がある。1つは、新しい表現を追求、拡大することであり、もう一つはグローバル社会における矛盾、不条理を正すことである。

 思えばずっと「風景」がテーマだった、それを何にのせるかが問題だったと、南谷富貴は語る。木々が林立する森林の風景が、常にイメージの根底にあったと。美術史という大きな流れの中に風景画というジャンルが位置付けられるとしても、一人一人の作家の創作活動は、概念に沿って実践されるものではない。南谷にとってのそれは、小さな細胞からなる生物、その生物等の小さなものが集まってできている「風景」を造形化することだ。木材という有機的な素材で作る複数の同形のブロックは、「風景」を、小さなものの集合体として微視的に見つめるためのツールといえよう。いくつもの小さな命が生まれては終わり、繰り返しながらゆっくりと堆積していく静かな「風景」。人もまたひとつの命であることを、今こそ思う。

FUKI NANYA EXHIBITION
-Overlap-

DMイメージ

南谷富貴

【略歴】
1967
岐阜市生まれ
1986
岐阜県立加納高校美術科卒業
1990
名古屋芸術大学美術学部絵画科卒業
1991
名古屋芸術大学美術学部絵画科研究生修了
【グループ展】
1991
二人展(織部亭/一宮)
1992
~素材のもつ意味と限界~(紗絽紋/一宮)
1993
~素材のもつ意味と限界~(ハートフィールドギャラリー/名古屋)
1996
陽だまり工房街角ギャラリー(岐阜市文化センター/岐阜)
1997
フィールドミュージアム(古今伝授の里/郡上)
2016
企画展 ~未だ見ぬ世界へ~(織部亭/一宮)
2017
企画展 現代美術の新世代展2017(極小美術館/池田)
2017
みのかもアニュアル~on location~(美濃加茂文化の森/美濃加茂)
2017
ともに、つくる、つたえる、かなえる展 ~LIFE~(ぎふ清流文化プラザ/岐阜)
2018
企画展 ~いとしき肖像~(織部亭/一宮)
2018
みのかもアニュアル 焦+ー(美濃加茂文化の森/ 美濃加茂)
2019
企画展 なうふ坂アートフェア(なうふ現代/岐阜)
2019
企画展 現代美術の視点2019(極小美術館/池田)
2019
企画展 時空のサンクチュアリ展(歴史民族館国登録有形文化財 旧林邸/一宮)
2020
企画展 なうふ坂アートフェア(なうふ現代/岐阜)
2020
織部亭35周年記念 わたしの一点(織部亭/一宮)
2021
tomoniアウトリーチ展 風の景(じゅうろくてつめいギャラリー/岐阜)
2021
企画展 なうふ坂アートフェア(なうふ現代/岐阜)
2021
企画展 現代美術の作法2021(極小美術館/池田)
2021
篠田守男と極小美術館の作家たち(羅針盤/東京)
【個展】
1997
FUKI NANYA SOLO EXHIBITION(ギャラリーキャプション/岐阜)
2003
企画展 アートと出会う(アート&ヘアーチッタ/各務原)
2003
FUKI NANYA SOLO EXHIBITION(ガレリアフィナルテ/名古屋)
2018
FUKI NANYA SOLO EXHIBITION(極小美術館/池田)
2020
FUKI NANYA SOLO EXHIBITION ~記憶の残滓~(ギャラリーノイボイ/名古屋)
2020
Factory展 Tetsukagu with Art(杉山製作所/関)
2021
FUKI NANYA SOLO EXHIBITION(オー・エ・セル/岐阜)
※開催時点

 私の住む街は1960年代に建てられた住宅街だ。ある日愛犬と散歩中、ふと見知らぬ新しい建物に目が留まった。以前ここには何が在ったのか、見慣れたはずの近所の風景なのに全く思い出せない。あるじを失い朽ち果てた家屋が解体される様を幾度も目にする。大きな音と砂埃を上げて壊されていく。人が育った歳月を経た家屋の有機体がほんの数日で廃材と化し、やがて無機質な建物に取って代わる。以前の風景とは一変し最初は違和感を感じるものの、数日でその違和感は日常の一部として取り込まれ、ありし日の人と生活の営の象徴は記憶から消えていく。
 以前より一貫してランドスクープをテーマとし、モノの形や輪郭線を排除した色と光のイメージを連鎖する木片の集合体に落とし込む制作をしている。それは高度成長期に幼年期を過ごした私の心情風景でもあり、今もなお私の心を捉えて離さない。

 南谷富貴