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「宮川 友子のページ」

自営業

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 私の仕事場は岐阜市の伊奈波神社の近くです。初詣、長良川での花火大会、岐阜まつりなど年に何度か賑わいます。通りは桜の並木で季節を感じお寺の多い町です。かつて近所にはうどん屋、パン屋、八百屋、酒屋等あって歩いて買物や外食が済ませられました。
 父は戦後間もない頃からここにデザイン屋を開いており、商業図案家と呼ばれていました。私も父と同じ仕事を選び、今は例えば会社のマーク、パンフレット、ウェブ制作など広告のデザインをしています。
 時代が経つにつれ、多く職人の技がコンピュータにとって変わったり、個人より大きな代理店や会社に仕事が回ったりするなど環境は変化していきました。それと同じように街にも変化が訪れ、近所のお店が一つずつ暖簾を下ろしていきました。
 私もずっと調子がいいわけでもなく、浮いたり沈んだりしながらなんとか生きてきましたので、他人事には思えません。
 仕事の量や収入は常に不安定だし、誰かに保障されるわけでもありません。退職がない代りに病気になったり廃業しない限り余生というものがありません。不安と孤独に負けないようにするのが大変です。
 でも個人だからいいという所があります。まず、仕事の全部を把握できること。また、お客さんが時には経営者だったりするので、いろんな業界の話が聞けたり熱い思いを感じたり励まし合ったりできます。そして一番素晴らしい面は、自分の好きな、できる仕事で社会の役に立てたり、価値を生み出せるやりがいです。
 それぞれのお店がいきいきできる町を作っていければいいと思います。

(2011年1月4日 岐阜新聞コラム「素描」#1)

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信長&フロイスと鵜飼

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 たまに金華山(岐阜城)に上る機会があるのですが、山頂から濃尾平野を眺めると、自然に信長の時代に思いが馳せられます。もちろん街やビルはなかったでしょうが、山の形や川の流れは今と似ていたのではないでしょうか。
 かつて信長が金華山のふもとに暮らしていた頃、鵜で鮎を捕る漁に価値を見い出し、「鵜匠」という名を与え保護したのは彼なんだそうです。今は冬なのでお休みですが、春から秋にかけほぼ毎日鵜飼が行われています。長良河畔から幻想的なかがり火を見れば、気分は戦国時代にトリップできるかもしれません。
 最近の武将ブームのずっと前から、岐阜観光コンベンション協会では岐阜を「信長の街」とアピールしてきました。岐阜はルイス・フロイスがわざわざ信長を訪ねた街です。彼は、フロイスと出会ったことで世界や南蛮への好奇心が開け、本当の意味でのクリエイターかつプロデューサーとして、岐阜の賑わいをつくり出していきました。
 岐阜観光コンベンション協会のデザインをしてきたうち、会議などに参加した人がもらえる紙の手提げ袋は好評のようで、長く使ってもらっています。信長とフロイスが架空のコンベンションに参加している様子で、白黒をベースに、人物は鮮やかに描いたものです。時々街で見かけるとうれしくなります。
 一昨年には「信長」と「鵜飼」のTシャツ、ストラップを作りました。市内のホテルなどで売っています。鵜飼の船頭さんもTシャツを着てくれています。鵜飼を見る時は信長も見た、ということを思い出してみてください。

(2011年1月11日 岐阜新聞コラム「素描」#2)

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揺れる紙とメッセージ

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 伊奈波神社にお参りに行った時、イノシシの親子が山から下りてきているのを見かけました。自宅の近所でアマガエルの声を聞かなくなった、ということもありました。昨年、口蹄疫で牛がたくさん殺処分され、直接は関わりがないものの、胸が痛む気持ちがしました。
 そんな中、池田町にある極小美術館で個展(3月31日まで開催)をすることになり下見に行くと「クマ出没注意」の看板があり、その時は全国的にクマの被害が発生した時と重なっていました。
 人間だけが悪いわけではないと思いますが、私たちは自然に生かされていることにもっと耳をかたむけた方がいいと思い、「Message from animals 2010」の一連のポスターを仕上げました。
 美術館の辺りは池田山のふもとのなだらかな斜面に茶畑が広がっています。温泉やハンググライダーの施設もあり、自然に恵まれた環境です。
 今回の展示は額に入れず、四隅をピンで固定しようと考えていました。しかし美術館の代表の長澤さんは、「上2ヵ所を留めて垂らし、紙ならではの反りを自然にまかせた方がよい。何よりも紙らしいし、近くを通った時揺れるのがいい。」とアドバイスをくださいました。私もそれがこの美術館と似合うと思い、そのようにしました。
 環境保護が問題となっている今、紙をたくさん使って「自然」をテーマとした作品を作ることに矛盾を感じてはいますが、紙という媒体はとても便利で今までの経験の蓄積があるので、作る方も見る方もそれに甘えてしまっています。自然への感謝をもちながら、これからの作品のあり方を考えていきたいと思います。

(2011年1月18日 岐阜新聞コラム「素描」#3)

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日本国際ポスター美術館(1)

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 大垣市にある日本国際ポスター美術館は日本で唯一のポスター専門の美術館です。(注※「秋山孝ポスター美術館長岡」もあります。間違いです。すみません。)世の中で「商品」として出回っているものではなく、街で役割を与えられ、かつ芸術として認められるポスターを扱っています。
 そこで私はボランティアスタッフとしてポスター展開催などのお手伝いをしています。世界の最新の優れたポスターに出会えることが魅力です。
 岐阜経済大学の中にあり、ヨーロッパのポスター先進国(フランス、スイス、ポーランド等)だけでなく、最近はアジアや中東など世界中のポスター作家とコンタクトを取り、作品の収集と展示をしています。
 ヨーロッパには「広告塔」という文化があります。街角にポスターを貼る専門の少し大きな筒なのですが、訪れたことのある方なら一度は目にしたことがあるでしょう。
 そんな生活に密着したポスターですから、その国の生活をとても反映しています。例えばヨーロッパのコンサートや演劇などのように美しいイラストレーションや写真で表現したもの、また世界中の環境や社会問題へのメッセージポスターなどもあります。
 とてもその国らしい絵柄と内容で、言葉はもちろん読めませんが、それがおもしろいです。私たちスタッフも最初は何だかよく分らないまま絵柄を中心に鑑賞していたのですが、次第に内容が「読める」ようになって格段に楽しくなってきました。ポスターから遠い国の生活が見えてきます。
 1月17日(月)から4月28日(木)まで「スポーツポスター」展を開催。オリンピックなどをテーマにした世界のポスター約60点を展示します。

(2011年1月25日 岐阜新聞コラム「素描」#4)

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日本国際ポスター美術館(2)

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 「ムーランルージュ」で有名なロートレックはたくさんの女優・俳優のポスターを描き花の都パリの街角を飾りました。日本国際ポスター美術館では、彼の「ディヴァン・ジャポネ」という名作を所蔵しています。(当時の本物です!)
 ポスターを通して世界中のポスター作家と交流をしており、彼らは時には来館してくれます。
 95年スイスの巨匠ニクラウス・トロクスラーさんは東京での展覧会のついでに来館されました。大垣のレストランで食事をしました。大好きなジャズを聞きながら仕事をするとか、マチスが好きだといっていました。懸命に日本の文化への理解を示し、トイレにスリッパを脱いで入ろうとしたのが微笑ましかったです。
 ウラジミール・チャイカさん(ロシア)は、アーチスト・イン・レジデンスとして美濃市に3ヵ月滞在した折、来館してくれました。和紙を使った障子のような構造の凧にとても刺激されたそうです。真っ赤なTシャツにスキンヘッドで怖そうに見えて実はとてもやさしい日本通です。
 ペペさん(キューバ)は大きなビデオカメラを抱えていたのが印象的で一緒にお千代保稲荷にお参りに行きました。
 カリーナ・ランクさん(スウェーデン)は94年に国際招待ポスター展に作品を招待以来「日本に行ったらぜひ大垣を訪問したい」とずっと思っていたそうです。昨年4月東京と京都の観光の前に来館。桜の咲く水門川沿いをドライブしました。お国で乗っている車はホンダだそうです。
 「ポスター」のもつ縁はすごいです。共通の夢があるから遠い国の人たちと交流ができます。

(2011年2月1日 岐阜新聞コラム「素描」#5)

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韓国の大学との交流

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 韓国の新丘大学と愛産大は06年から交流をしており、年に何度か授業や課外活動で行ったり来たりしています。
 交流の初めの頃は韓国のこともよく知らないし、どんな風になるか予想もつかず、おっかなびっくりでしたがキム・ジョンテという教授に出会い、不安は安心に変わっていきました。
 彼は染色作家で作風はやさしさと悲しさを同居させたようなユーモラスな感じ。でも趣味はハーレー・ダビッドソンでツーリングというおもしろい人物です。
 昨年の私の個展のオープニングには誤って痛めた足をかばいながら松葉づえで来てくれました。かなり無理をしているように見えましたが、いったん約束をしたからには守る、という男の友情を感じました。
 こんな「できる」人物のお陰でじっくりお隣の韓国を観察できます。例えばヨーロッパなどと比べると街のつくりなども似ているので、必然的にデザインのあり方も似てきます。街は看板が氾濫し、都市に人口が密集しがちで、流行が大好きです。
 食事ではダイエットより楽しさを重んじ、たくさんのおかずがぎっしり机に並び、みんなで同じお皿に箸をつけます。しかし上下関係には独特の感覚があり、目上の人と同席したらお酒や煙草は顔を背け偉そうに見えないように嗜みます。写真を撮る時驚いたのは、女性でも私と腕を組んで体を密着させて並ぶので、ちょっと緊張しました。
 一方、日本人のわびさびのような感覚や、コンパクトさや細部へのこだわりは自覚しました。
 私たちも韓国的バイタリティに負けずに交流を盛り上げていきたいです。

(2011年2月8日 岐阜新聞コラム「素描」#6)

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ユーモア表現とポスター

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 人間の眼はぜいたくなもので、テレビは映像がキレイで大きなものが人気ですし、印刷物もふた昔前と比べると粗悪なものは少なくなり、美しいのが普通になりました。これらはコンピュータの発達による所が多いと思いますが、映像やグラフィックを考えるのが人間、というのは変わっていません。
 愛産大の科目で「ユーモア表現技法」といって、絵でユーモアを表現するというのがありますが、学生たちはいざ考えてみると手が止まってしまい次第にユーモアというよりユーウツになってしまうようです。
 数年前、ロシアのチャイカさんがモスクワから自身の写真を送ってくれました。背景には赤の広場の教会と、夕焼けの大きな太陽が赤く丸くありました。ロシアと日本の友好をたった1枚の写真で表現しており、こんなメール自体がユーモアだと思いました。
 美術の教科書などでも有名なエッシャー(階段を上り続ける「上昇と下降」)やマグリット(パイプの絵の下に「これはパイプではない」と書いたもの)は錯視やトリックで不思議な空間を表現しました。
 フランスのポスター作家サヴィニャック(雌の牛が自分の乳でできた牛乳石鹸に乗っている「モンサボン」)は、人へのちょっと皮肉を交えたやさしい眼差しを軽妙に表現しました。
 私たちは毎日いろいろなものを見ていますが、その中でも時々すっと引き込まれるものがあります。私は特にこんなユーモアやとんちのきいた物が大好物です。言葉を使わず、見るだけでわかるユーモアを、日常生活の中から探してみませんか。

(2011年2月15日 岐阜新聞コラム「素描」#7)

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コンピューターとデザイン

加藤由朗(グラフィックデザイナー・愛知産業大学教授)

 人と話す時、「デザインってコンピュータでしているの?」とよく聞かれます。確かにグラフィックデザイナーにとってコンピュータは大きな存在です。でもコンピュータを使うことにいい所と辛いところがあります。
 デザインの業界では、コンピュータの導入初期の頃からずっとMacを使ってきました。特にコンピュータのマニアというわけではなかったので使い方を覚えるのが大変でしたし、慣れた頃に「寿命」が来て環境が変わってしまいます。しかし、昔は絵が上手でないとデザイナーになれなかったのが、コンピュータを扱えれば関われるチャンスは増えたのかもしれません。
 あと、いい所としては何度も試行錯誤ができます。色の組み合せのシミュレーションが簡単にできるし、文字も「写植」を使っていた頃はやり直すと時間・手間・お金がかかってしまう所を、今は直前まで修正ができます。しかしその分作業の後半にしわ寄せが来るのには勘弁です。
 現物ではなくデータとして同じものを保存できるのも便利です。紙が色あせるなど物の劣化の心配がなくなりました。しかし便利さにかまけてうっかりしていると、コピー&ペーストをした時に日付や曜日を直し忘れるなどの失敗があります。
 コンピュータは指示された計算はしてくれるし、情報もうまく保存・表示してくれますが、絵のアイデアやおもしろい企画を生み出してはくれません。営業にでかけたり人間関係に配慮したりもしてくれません。
 私の場合、コンピュータの前に座っている時はデザインをしていないのかもしれません。

(2011年2月22日 岐阜新聞コラム「素描」#8)

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