Contemporary Art

極小美術館

2025.10/12(sun)~ 2025.11/9(sun)

No.53

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

輪廻
 −transmigrationと共に−

正村美里(岐阜県美術館 副館長)

 臼井千里氏の極小美術館での個展は三度目となる。前回拙稿を書かせていただいてからまる三年が経った。その時の流れの早さに改めて驚くと共に、その間も彼女は留まることなく休むことなく制作を続け、変わらず国際交流の仕事に飛び回ってきた。
 この疾風怒涛のエネルギーはどこから湧いてくるのだろう、と思ったことがある。しかし、彼女の制作現場に立ち会った際、これは時に湧いてくるものではなく、そもそもこれがこの人の生きざまなのだと合点した。それはまるで「具体」のパフォーマンスを見るかのように汗が飛び散りエネルギッシュで緊張感に満ちていて、「書く/描く」ことは身体と精神が一つになって初めてかたちになるということを現前の行為から実感したのだった。

 昨年の暮、京都の画廊正観堂で伊賀の地で陶を用いる彫刻家大平和正とのコラボ展が開かれた。会場はミニマルな造りの室礼で、大平の水を蓄えた無釉焼締の鉢と幾何学的造形を前に、臼井の3点組の平面が壁に掛かっていた。白地、銀地にローラーで描かれた墨象。朱の差し色が無駄のない空間に、ある種の生々しい息遣いを創り出していた。
 墨の抽象が現代美術とも骨董とも実に美しく調和するのは、墨の滲みや動き、水との親和性が、やきものであっても現代美術であっても、古いものであっても拒まない、柔軟さとタフさを備えているからであろう。とはいえ、単に背景や調和に安住しない、対等かつそれ以上の包容力があってこそ、その力は発揮される。
 臼井の文字は、例えば《花》は何かしらの妖艶さを醸し出す女人に見え、《風》からはふと頬をなでる心地よい空気の流れに気づかされる。《夢中》の文字はコケティッシュでさえある。抽象には孤高の風景が立ち現れ、あるいは果てしなく遠い彼岸の世界に吸い込まれる。見る者が辿ってきた時間を作品が受け止め、そして鏡のようにそれぞれの想いに映し返す。
 臼井は長きにわたって父から受け継いだ浄土真宗派の蓮華寺を護り、そこに美しく咲く花々と共に訪れる人々をもてなしてきた。ここは様々な哀しみや苦しみを抱えた人々の魂が集まる場所である。こうして人々を受け入れる一方で、臼井自身もまた世界各地を飛び回り、国際コーディネーターとして日本のアイデンティティを伝えることを自分の使命としつつ、その世界を「小宇宙(コスモス)」と称してtransmigration (輪廻)させる。そして臼井がどの地へ旅立とうとも、その足はこの地、彼女のルーツ、蓮華寺に戻る。
 臼井は高村光太郎が宮澤賢治を評した言葉を大切にしているという。

― 内にコスモスを持つものは世界の何處の邊遠に居ても常に一地方的の存在から脫する。内にコスモスを持たない者はどんな文化の中心に居ても常に一地方の存在として存在する。岩手縣花卷の詩人宮澤賢治は稀にみる此のコスモスの所持者であつた ―
(「コスモスの所持者宮澤賢治」『宮澤賢治追悼』1933年) 

 筆、刷毛から、段ボール、ローラーに至るまで、表現に必要と思えばどんな手段も貪欲に掴み取る。むしろ筆を超えたことで、創作の世界もまたマクロに拡がった。ローラーを手にしたことで臼井は純粋に墨との関係を構築する。大垣の地を拠点に、架け橋となるべく世界中を駆け巡ること、書を軸にしながらも無限の抽象の世界に踏み出したこと——コスモスを胸に走り続ける作家の両輪は、常に寺と墨に還る。ここにその根があること、輪廻しながらもその根が揺らがないこと、それこそが彼女の強さなのに違いない。

COSMOS − 小宇宙 desire 想い −
墨、銀泥、胡粉、アクリル、銀紙
80 × 120 cm(2024年制作)

COSMOS − 小宇宙 Transmigration (輪廻) −
和紙、墨
60 × 88 cm(2022年制作)

臼井千里

【個展・グループ展】(1982年以降)
1982
米国ボストン 文化藝術交流展 記念揮毫 ※83、84年 (アーリントンタウンホール)
1983
中華人民共和国 南京市文化藝術交流 記念揮毫
1984
英国ノースヨークシャー ヨーク市主催 CHISATO USUI 個展 「日本祭」
1985
国際連合I.Y.Y.国際青年年国際会議 ルーマニア ブカレスト 記念揮毫
1988
米国ニューヨーク 文化芸術展
1990
女流5人展 (岐阜県立美術館)
1991
米国サンフランシスコ 2人展
1991
TOKYO ART EXPO’91 (晴海埠頭)
1994
神戸町主催 臼井千里個展 (神戸町ロビー展)
1994
米国ユタ州ソルトレイクシティー 文化芸術交流展 招待作家記念揮毫
1995
大垣市スイトピアセンター 臼井千里個展 (文化会館)
1996
個展 ※~2020年 (名古屋 妙香園画廊 常設画廊)
1996
個展 (神戸町 日比野五鳳記念美術館)
1998
個展 (鹿児島 ギャラリー杜)
1998
大垣市・鹿児島市友好都市記念  臼井千里個展 (大垣市スイトピアセンター)
1999
京都工芸・クラフト・アート展(西陣会館)
2000
日泰中百家藝術展 北京 故宮博物院
2001
EXPO ARTEC21 日仏美術の威信 1991‐2001 現代と伝統 (リュクサンブール宮殿)
2001
東京フォーラム BEAUJOLAIS NOUVEAU ビンテージアート展
2002
JAPAN FESTIVAL 英国ケント州政府主催 個展 (ラムズゲート美術館)
2002
La Meraviglia delle’arte per diletto日伊藝術驚異と美の饗宴 (イタリア ベニス ゼノービオ宮殿) ※03年 (イタリア Firenze宮殿)
2002
Exposition d’etiquuetes artistiques de Beaujolais Nouveau展
2003
EXPO ARTEC 2003日仏現代美術博 カルーゼル・デュ・ルーブル (ルーブル美術館)
2004
EXPO ARTEC21 カンヌ国際藝術祭 (日仏国際芸術祭会場)
2004
デンマーク藝術世紀フェスティバル 「創造の奇跡」展
2005
エヴィアン国際書道展2005
2005
書の美的表現展 (プラハ国立美術館 東洋美術館)
2007
個展 (東京銀座 鳩居堂画廊)
2007
表千家茶道 掛け軸「和敬静寂」揮毫
2008
Festival D’Art Franco - Japonais 2008フランス ブロア展 招待作家 (ロワール州ブロワ市アール・オ・グラン)
2009
臼井千里 ~コスモス 小宇宙~ 展 (大垣市スイトピアセンター 文化会館)
2010
霊山顕彰会作品展
2010
「べスパ・プリマベーラと作家たち」 (極小美術館)
2010
Line Art 2010 Flanders Expo Gent Belgium (ゲント ベルギー)
2011
「宇宙の連環として②」 (極小美術館)
2012
ART EXPO NEW YORK 2012 ※13、16、17年 (マンハッタン ピア94)
2012
郷土の美術家展 中日新聞主催 ※13、14、16、17年 (岐阜高島屋) ※19年(松坂屋名古屋店南館8Fアートホール)
2013
見たい見せたい美術展 (ハートフルスクエアー)
2013
公財 大垣国際交流協会25周年記念「ありがとう」揮毫
2013
藪ノ内流 「一期一会」揮毫
2014
岐阜県代表作家展 (岐阜シティータワー43)
2015
岐阜県芸術文化会議 芸術祭 見たい見せたい美術展 ※19、21年
2016
書とはどういう芸術なのか? ~干支十二支展~ (奥の細道結びの地記念館)
2016
霊山顕彰会作品展 ※17年
2017
岐阜県芸術文化会議 芸術祭 「生きる」巨大作品 「生命力」 9m × 1m (岐阜シティータワー43)
2018
個展 (極小美術館)
2019
CHISATO USUI SOLO EXHIBITION (東京 北井画廊 国立劇場前)
2019
〈ふたりの宇宙〉臼井千里・渡辺由紀子展 (岐阜 ギャラリーいまじん)
2019
臼井千里 - インスタレーション - 「初雪の気配」 (岐阜 日本料亭 後楽荘)
2021
岐阜新聞 素描 国際交流 ~過去・未来~
2021
東京海上日動「創生」作品揮毫
2022
岐阜県芸術文化会議 芸術祭 ※24年、25年・50周年記念展 (岐阜県美術館)
2022
New York Montserrat Contemporary Art Chisato Usui Exhibition ※23年
2022
個展 (極小美術館)
2023
パリ祭 シャンソンでぎふ 日仏アート展 (長良川ホール)
2024
日仏アーチスト交流展 (みんなの森・メディアコスモス みんなのギャラリー)
2024
芸文フォーラムー1.0 ~私にとっての岐阜県芸術文化会議~ (岐阜県図書館)
2024
大平和正 × 臼井千里 ~風と水とCOSMOS~ (京都 ギャルリー正観堂)
※その他、国内展をはじめ欧州、米、カナダ、豪州、中国、台湾などで個展
※開催時点

【 臼井 千里 ホームページ 】