Contemporary Art

極小美術館

2025.10/12(sun)~ 2025.11/9(sun)

espoir 50

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

ステンドグラスの汽水域 

林いづみ (岐阜現代陶芸美術館・学芸員)

 これまで所々で拝見してきた北村さんの絵から抱いていた印象は「人を見つめる人」だった。画面いっぱいに描かれた人物の、真正面からこちらを射抜くようなまなざし。それらは決して同じ表情ではないが、まっすぐな目を描く画家自身も、対象に真正面から向き合っていることが、見る側にもひしひしと伝わってくる。
 実際のところ、北村さんはこれまで、多くの人、特に若者を見つめ、見守ってきた人である。中学校の美術教師から始まり、現在は大学で学生を指導し、時には未就学児の制作にも立ち会う。三十年以上教育に携わりながら、絵を描き続けてきたこと、その双方ともに「自分一人の力では続けてこられなかった」という。教えることは教えるばかりでなく、双方向の営みであり、同様に絵を描くことで繋がる縁が、また次の絵を描かせる。北村さんにとって描くことは、線と色を通じて人とつながる方法そのものなのだろう。
 近年描いてきたのは、雑誌やインターネット上で見つけた、無名の、しかし確かに存在する若者たちだった。時にヒリヒリと切実で、けれども逞しい生命感に満ちた人物像には、長年教師として向き合ってきた若者たちへのまなざしがにじんでいた。そのなかで今回は、身近な人々、家族や、極小美術館で出会った作家仲間、そしてこの場を築き多くの縁をつないできた長澤館長とその物語を描くという。各々の存在を主張するように、ときに画面からはみ出すほど大きく描かれた姿は、その人物が生きる先や、続いていくつながりを暗示する。「ここだけの話、今回は自分の表現というより、極小美術館のフィナーレを彩るものにしたい」と北村さんはいう。そう語ることのできる北村さんにとって大切なのはおそらく、表現の意味やコンセプト以上に、描き続けるという行為と姿勢そのものなのだろう。その信念は、生きる中で出会い、すれ違ってきた人々との関係の中で自身が培われたという自覚であり、同時に、自分もまた他者に働きかけてきたという意識の上に成り立っている。画家や教師という肩書きを外して言えば、描くことで人を見つめ、見る人の視線を引き出し、まなざしの交わる場をつくる人なのだ。

 今回の展示に向けて制作中の作品を見せて頂きながら、北村さんのこれまでの制作活動をめぐるお話を聞く中で「汽水域」という言葉を教えてもらった。実際、北村さんが話していたのは、バンド、サカナクションの『kikUUiki』というアルバムであり、そのイントロトラックのタイトルにある造語「汽空域」なのだが、あとになってその語がどこか北村さんの絵と重なった。
 汽水域とは淡水と海水が混在する水域のことで、つまりは川と海が出会うあたりのこと。淡水と海水の境界には、豊かな栄養と多様な生き物が集まり、本来なら交わらない存在が絶妙な均衡で共存する。北村さんの描くことはつまり、そういった場所を世の中にすこしでも創出しようとする行為なのではないかと感じたのだ。さまざまな背景と意思を持つ人が、視線を通して交わりあう。人は、人との関係という網目の中で生きているということを、切実な実感をもって知っている人だからこそ、描くことを通じてその交わる場所を作り続けることを、諦めないのだろう。

DMイメージ

「dea nera 〜黒の女神〜」(2025年制作)
162.0 × 112.0cm ミクストメディア

DMイメージ

「alba 〜夜明け〜」(2025年制作)
162.0 × 112.0cm ミクストメディア

北村武志

【略歴】
長野県生まれ
武蔵野美術大学日本画学科卒業
【展覧会】
91~
アール ボコ展 愛知県美術館等
1992
個展 ギャラリー瑠碗多 (多治見)
1998
個展 ※99年 ガレリア フィナルテ (名古屋)
1999
現代アート東濃ざノ・こんりゅう展 (多治見)
2000
個展 小野画廊 (東京)
2003
個展 ギャラリー北丘 (多治見)
2006
個展 ※08、10、12、14年 ギャラリー名芳洞 (名古屋)
2013
End of 2013 Gallery Hexagone (ドイツ アーヘン)
2014
Art Expo Gallery Hexagone (ドイツ アーヘン)
2015
個展 Gallery Hexagone (ドイツ アーヘン)
2015
Aachen Art Fes. (ドイツ アーヘン)
2015
個展 半原版画館 (瑞浪)
2016
Asia Contemporary Art (ドイツ アーヘン)
2018
WE Exhibition 2018 JCAT Pleiades Gallery (ニューヨーク)
19~
アートキューブ (瑞浪)
2020
MUSA-BI展 極小美術館
2021
現代美術の作法 極小美術館
2021
篠田守男と極小美術館の作家たち アートスペース羅針盤 (東京)
22~
ノリタケの森4人の作家展 ノリタケの森ギャラリー (名古屋)
2022
個展 ※23、25年   極小美術館
2023
MUSA-BI展 in Tokyo アートスペース羅針盤 (東京)
2024
絵の中に夢を求めて展 ギャラリー絵夢 (東京)
2024
個展 ガレリア織部 (多治見)
2024
個展 アートスペース羅針盤 (東京)
2024
個展 アートサロン光玄 (名古屋)
【受賞歴】
2013
熊谷守一大賞展 入選 ※16、24年
2018
TYK絵画大賞展 大賞
2022
日本の絵画2022 入選
【コレクション】
▪半原版画館
▪スペース大原
▪多治見市
※開催時点