Contemporary Art
極小美術館
Ozeki
Ritsuko
尾関
立子
2023.11/12(sun)~ 2023.12/10(sun)
espoir 43
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料かげと反映
京都あたりの寺院の境内を歩いていると、庭園の岐路などに唐突にあらわれる「止め石」。「関守石」ともよばれるこの石は、丸っこい小石に黒い縄を十文字にかけて結んだもので、そこから先の侵入禁止をしめす標識として機能します。おもしろいのは、万人だれもが警告のメッセージとして受けとめるような、露骨な外観ではまるでないこと。自然石に施されたささやかで不可解な人為は、無駄のない端整な空間のなかで、妙な存在感を放ちます。
広めの余白をふくんだ尾関さんの銅版画。多くの人が見過ごしがちな異和感をとらえるアーティストの感性は、さすがというほかありません。それは尾関さんの代表作にあがる作品ではありませんが、しかし本人の関心のありかをよくしめしている作品ではあるでしょう。物理的に、あるいは精神的に立ちあがる境界、はざま、中間領域。もっとふみこめば、外側と内側、実体とかげの関係が反転するような瞬間に立ちあえる場所、ともいえるでしょうか。止め石を例にすれば、侵入を拒まれることで、人はなんとなく外にはじき出されたような感じを抱きます。空間においては内に閉じ込められているけれども、みえない誰かとの関係でいえば疎外されている、そんな自分をうっすらと意識させられます。
「あわい」ということばを、尾関さんは2020年の個展の表題に選びました。このときに限らず、尾関さんは常に「あわい」を意識しながら制作してきたようにみえます。これまで、「あわい」を可視化するものとして、抜殻にたとえた衣服、レース、うつわ、額縁、檻、階段、家、庭…といったものを描いてきました。あるいは、鳥瞰、虫瞰のようにふたつの極、あえてそのいずれかに立って、みえるものをおもい描く、という方法をとったこともあるようです。それゆえ尾関さんの作品の多くは、みえないもの、不在のなにかであったり、向こうがわにあるもの、もうひとつの世界への言及を、暗に含んでいるかにみえます。作者にとって制作とは、理性ではとらえきれない何ものかの気配をあぶり出すこと、それらに対するあこがれやおそれを通して、自分自身の心のありようまでも理解し、それを制することなのかもしれません。
Tomeishi(2020年制作)
500 x 350mm
三椏紙、エッチング、アクアチント
尾関さんの作品には、かげ(陰影)があまり描かれません。それはつまり、具象的なものを描いているとしても、写実性や再現性は作者にとってさほど重要ではない、ということを意味しているでしょう。ここから転じて、尾関さんが描いているのは、ものそのものというより、かげ(影)そのものである、という仮説を立てられないでしょうか。それは、みえるものに投影されたみえないものであり、みえないものとは、秘められた心の内、意識の背後にかくれている無意識、あるいは、今ここにないものの存在感、今とは別の可能性であるでしょう。作者の心にうつったかげは、銅版の表面にうつり、そして紙にうつされます。つまり、制作の過程でいくたび起こるリフレクション(反映、内省)こそが、表現と内容を左右する重要な鍵になっているのではないか。それに反応する作者の鋭敏な感性、それと向きあう真摯な姿勢は、他の作家とは異なっているようにおもえるのです。
In a Grove(2022年制作)
1080 x 2120mm 三椏紙、エッチング、アクアチント
In a Grove-Rain-(2022年制作)
1080 x 2150mm 三椏紙、エッチング、アクアチント、モノタイプ
Awai(2020年制作)
三椏紙、銅、木、インスタレーション
Awai(2020年制作)
三椏紙、銅、木、インスタレーション
Night(2023年制作)
500 x 500mm ハーネミューレ紙、エッチング、アクアチント
尾関立子
- 【略歴】
- 1971
- 岐阜県生まれ
- 1994
- 武蔵野美術大学造形学部卒業
- 1996
- 武蔵野美術大学大学院造形研究科美術専攻修了
- 【主なグループ展】 ※その他、国内外にて個展多数開催
- 1994
- 第2回プリンツ21展グランプリ展 グランプリ受賞 (東京 他)
- 1994
- 第5回国際現代造形コンクール 大阪トリエンナーレ展 (大阪)
- 1994
- 第9回ソウル国際版画 ビエンナーレ展 (Seoul , Korea)
- 1996
- 第25回現代日本美術展 東京都現代美術館賞受賞 (東京)
- 2000
- 「Art - Studio Itsukaichi」 (Galeria G5 / Pezinok , Slovakia)
- 2000
- 「大きい版画と小さい版画」 (練馬区美術館 / 東京)
- 2000
- 「Piece For Peace」 (原爆の図丸木美術館 / 埼玉)
- 2002
- 「TRACE , IMPRINTS AND TALES」 (Kerava Art Museum / Kerava , Finland)
- 2003
- 「版画・半画・反画」 (練馬区美術館 / 東京)
- 2007
- 「Centrifugal」 (FAB Gallery / Edmonton , Canada)
- 2007
- 「Sleep - Are you awake? -」 (Art Front Gallery / 東京)
- 2011
- 「DEEP DIG DUG - PRISMA!」 (MaximiliansForum / Munich , Germany)
- 2013
- 「25x25: Contemporary Japanese & Australian Printmaking」 (The Japan Foundation Gallery / Sydney , Australia)
- 2015
- Taiwan Design EXPO 2015 (宜蘭 , 台湾)
- 2016
- 「7人庭園展」 (揚㬢ギャラリー / 台北 , 台湾)
- 2018
- 「ふえるコレクション・かわるコレクション」 (練馬区立美術館 / 東京)
- 2019
- 「Curator Choice」 (Portland Art Museum / Oregon , USA)
- 2021
- 「Life in Art Exhibition」 (無印良品銀座 / 東京)
- 2022
- 「Forces of Nature: Ecology in Japanese Prints」 (Portland Art Museum / Oregon , USA)
- 2022
- 「The Adventure of Fine Art Prints」 (たましん美術館 / 東京)
- 【主なパブリックコレクション】
- ▪東京都現代美術館
- ▪練馬区美術館
- ▪Jordan Schnitzer Museum of Art, Eugene
- ▪Portland Art Museum (Portland , USA)
- ▪Ericsson Fine Advertising NY (NY , USA)
- ▪City of Seattle (Washington , USA)
- ▪University of Alberta (Edmonton , Canada)
- ※開催時点