Contemporary Art
極小美術館
Usui
Chisato
臼井
千里
2022.11/6(sun)~ 2022.12/4(sun)
No.42
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料書くと描く
臼井千里が「初雪の気配」と題して岐阜市の料亭・後楽荘で個展を開催したのが2019年秋。あれからはや3年、当時はまだ皆普通に会話をしながら食事をし、密に座った来場者を前にトークを行うこともできた。のちに世を席巻するコロナ禍とロシアのウクライナ侵攻を、その時誰が予測しただろう。未だ共に出口は見えず、世界経済は混乱の途にある。
昨日まで当たり前だったことが突然断ち切られる。理不尽なことへの怒り、どうにもできないもどかしさ。作る者は作ることで思いを発し、あるいは浄化する。
臼井は、永きにわたって国際交流の仕事に携わり、国境を越えて人と人、国と国を繋ぐ役割を担う一方で、父から引き継いだ浄土真宗の寺を、祈りを求めて集う人々のための場として護り続けてきた。そうした日常にあって今、改めて、人の命というものを強く意識するという。
書壇に属しながらそれを超えて抽象を発表したのは2000年代のことだった。海外での仕事が多い臼井は、自らの世界を「コスモス(小宇宙)」と称し、transmigration(輪廻)をテーマにする。
2020年の春、岐阜放送の番組「美の精華」で、臼井の制作過程が初めて公開された。筆や刷毛ではなくローラーや段ボールを使っての創作は、人々が連想する静謐な時間とは真逆の、まるで武道か格闘技を見るかのような緊張と激しいアクションを伴うものだった。筆で文字を「書く」ことからローラーで「描く」行為へ。そのきっかけはバーコードだったという。ある規則の下に整列する太さの異なる線の集合体。IT化が進み、あらゆるものが記号化されていく流れの中で、書はいかに「今」を表現するのか。単なる記号であるはずのバーコードが美しい。世の中の進化に合わせて、書も変化してよい、その思いが新しい抽象へと臼井を導いた。
墨で抽象を描くこと自体は既に特別なことではない。1950年代以降、墨による表現は様々な試行を経て現在に至る。しかし臼井はさらに、その吸水力と弾力性によって主の思いを硬軟自在に伝え得る毛筆に代えて、ローラーや段ボールという無機質な道具を用いることで、異世界に生まれる墨を模索した。筆で線を引くのと異なり、ローラーは押しながら描く。墨に銀泥や胡粉、パール粉、顔料、アクリル絵具を微量加えて、圧を加減しつつ濃淡による表情を探る。薄く、風になびく羅紋箋は滲みやすく、厚めの手漉き和紙は支持体としては強固だが滲みが少ない。墨に銀や色を足すことで輝きをのせ、圧の調子と、最後は水と紙から生まれる滲みの具合に出来上がりをゆだねる。羅紋箋にローラーで描かれた墨の景色はまるで山水画のような奥行きを見せる。
書くと描く。創ることにその境はないのかもしれない。しかし古来文字とともにあった筆を放し、ローラーや段ボールを手にした時、そこには大きな覚悟と飛躍があったに違いない。墨の世界において境界を往き来する臼井の創作はまさに、彼女の日々の歩みを映し出す鏡でもある。
COSMOS − 小宇宙 Transmigration (輪廻) −
和紙、墨
60 × 88 cm(2022年制作)
COSMOS − 小宇宙 Transmigration −
和紙、墨、胡粉、銀泥
87 × 87 cm(2019年制作)
COSMOS − 小宇宙 Transmigration −
和紙、墨、胡粉、銀泥、アクリル
97 × 88 cm(2022年制作)
COSMOS − 小宇宙 Transmigration −
和紙、墨,胡粉、アクリル
117 × 87 cm(2012年制作)
COSMOS − 小宇宙 Transmigration −
和紙、墨、アクリル、胡粉、銀泥
44 × 36 cm(2022年制作)
COSMOS − 小宇宙 −
(2000年制作)
COSMOS − 小宇宙 −
(2000年制作)
LIKE TO LIKE 類は友を呼ぶ
(1995年制作)
DEEDS NOT WORDS 不言実行
(1995年制作)
COSMOS − 小宇宙 Transmigration LIFE −
和紙(鳥の子)、胡粉、銀泥、アクリル
106 × 196 cm(2018年制作)
COSMOS − 小宇宙 Transmigration −
和紙、墨,胡粉、アクリル
85 × 85 cm(2019年制作)
臼井千里
- 【略歴】
- 1950
- 岐阜県大垣市生まれ
- 1982
- 米国ボストン 文化藝術交流展 ※83、84年
- 1984
- 創玄展 特選
- 1984
- 中部日本書道展 桜花賞
- 1985
- 中部女流展 朝日奨励賞グランプリ
- 1985
- 国連I.Y.Y.国際青年年国際会議 ルーマニア ブカレスト 文化交流展
- 1988
- 米国ニューヨーク展
- 1989
- ドイツ・スイス・フランス 文化芸術交流展
- 1990
- 女流5人展 (岐阜県立美術館)
- 1991
- 米国サンフランシスコ展
- 1991
- TOKYO ART EXPO ’91 (晴海埠頭)
- 1994
- 米国ユタ州ソルトレイクシティー交流展
- 1999
- 京都工芸・クラフト・アート展
- 2000
- 日中泰百家藝術大展 大賞 (中国故宮博物院)
- 2001
- 美術画報大賞 表現技術賞
- 2001
- イタリア年記念芸術作家賞
- 2001
- EXPO ARTEC21 日仏美術の威信「現代と伝統」 日仏芸術「現代と威信」賞グランプリ (フランス パリ・リュクセンブルグ宮殿)
- 2001
- BEAUJOLAIS NOUVEAU ビンテージアート展 (東京フォーラム)
- 2002
- 美術画報 La Meraviglia展 「日伊藝術 驚異と美の饗宴」 メラビリア国際金賞 (イタリア ベニス・ゼノビオ宮殿)
- 2002
- Exposition d’etiquuetes artistiques de Beaujolais Nouveau展 (パリ・シャルルドゴール空港 ターミナル2F)
- 2002
- 英国ケント州政府主催 CHISATO USUI 個展 (ケント州ラムズゲート美術館)
- 2003
- イタリア ロレダン家 重要文化財作家認定
- 2003
- 岐阜県藝術文化奨励賞
- 2003
- EXPO ARTEC 2003 日仏芸術大金章受賞 (ルーブル美術館)
- 2003
- 美術画報 La Meraviglia展 「日伊藝術 驚異と美」 メラビリア国際金賞受賞
- 2003
- 三輪酒造 「白川郷」、「干支作品」 ※~15年
- 2004
- EXPO ARTEC21 カンヌ国際藝術祭 国際藝術賞
- 2004
- デンマーク藝術世紀フェスティバル 「創造の奇跡」展 国際認定作家賞
- 2005
- エヴィアン国際書道展2005 現代書 大賞
- 2005
- 書の美的表現展 (プラハ国立美術館、東洋美術館)
- 2006
- 京都弁護士会 「憲法と人権」揮毫
- 2008
- Festival D’Art Franco-Japonais 2008 フランス ブロア展 招待作家
- 2010
- 池田山麓現代美術展 「べスパ・プリマベーラと作家たち」 (極小美術館)
- 2010
- リネアート 2010 フランダース エクスポ (ベルギー ゲント)
- 2011
- 池田山麓現代美術展2011 「宇宙の連環として②」 (極小美術館)
- 2012
- ART EXPO NEW YORK ※13、17年 (マンハッタンピア94)
- 2013
- 岐阜県芸術文化会議 芸術祭 「見たい見せたい美術展」 (岐阜シティ・タワー43)
- 2014
- 岐阜県代表作家展 (岐阜シティ・タワー43)
- 2017
- 岐阜県芸術文化会議 芸術祭 巨大作品「生きる」展示 (岐阜シティ・タワー43)
- 2018
- CHISATO USUI EXHIBITION (極小美術館)
- 2019
- 京都弁護士会功労者表彰 「憲法と人権」
- 2019
- CHISATO USUI SOLO EXHIBITION (東京 北井画廊)
- 2019
- 〈ふたりの宇宙〉 臼井千里・渡辺由紀子 展 (岐阜 ギャラリーいまじん)
- 2019
- 臼井千里 -インスタレーション- 「初雪の気配」 (岐阜 日本料亭 後楽荘)
- 2021
- 東京海上日動「創生」作品
- 2022
- CHISATO USUI EXHIBITION (New York Montserrat Contemporary Art Gallery)
- ※その他、国内展をはじめ欧州、米、カナダ、豪州、中国、台湾などで個展
- ※開催時点