Contemporary Art
極小美術館
Bessho
Hiroaki
別所
洋輝
2022.5/1(sun)~ 2022.6/5(sun)
espoir 37
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料曖昧を捉える眼
別所洋輝さんの作品には、しばしばペラペラの人型が登場する。紙を切り抜いたかのようなイメージのそれらの人型は、表情も読めず、肉体的なものも感じさせない。一見すると、人であって人ではなく、現実と虚構の間にあるような存在だ。そのくせ、どこかユーモラスでもあり、ファンタジーの中から抜け出してきた人のようでもある。そこには多義性が秘められているようだ。
この人型に象徴されるイメージは、別所さんの絵全体に繰り広げられている。車やオブジェ的なもの、バケツやストロー、カラフルな石など、様々なモティーフが絵の中に描き込まれているが、それらはノスタルジックでありつつ、現実と虚構の媒介者のように働いている。人であって人でないような曖昧さ、現実と虚構の間の曖昧さが、観る者を夢のような世界に導いていく。
画面は背景を黒としている場合が多く、後退するイメージの黒い地に、淡い色彩で立体感のあまりないモティーフが図として描かれる。それらの平面的な図は、手前に位置していると感じられる。黒の深さ、奥行きに対し、モティーフの浅い平面性が際立ち、両者がバランスを取りながら絵画空間を創り出している。近年は、黒の配分が初期に比べて少なくなり、画面はより動きを伴ったものに変化してきた。
別所さんによれば、絵のテーマとして、「探し物をしている」ということがあるという。探し物をしているが、探し物は見つからず、どうして探しているのかもよくわからない。結果として探しているものとは違うものを見つけたりもする。そういった、探し物が見つからないもどかしさは誰もが体験したことのあることだろうが、そこには、探し物を見つけるまでの過程、その間の心の動きといった、捉え難い何かが存在している。その、探し物に辿り着くまでの「間」を捉えて絵の中に描き込もうとしているわけであるが、それは、眼に見えないものを捉えて画面に定着させ、絵にしようとする行為でもある。
先ほど、別所さんの絵は観るものを夢のような世界に導くと述べたが、上述した様々な要素が、眠る間に見る夢によく似ていると私は感じた。夢は過去から現在まで様々な記憶と結びつきながら、その中で時に突飛な出来事が起こったり、不思議な景色を見せてくれる。そして、夢の中で私たちはいつも現実と虚構の間を行き来し、曖昧な世界を彷徨っている。眼を覚ませばさらに虚実の境は曖昧となり、多くの場合その内容はいつしか記憶から消えていく。そういった儚さも夢の特色である。別所さんの絵も夢のようであり、そこには手を伸ばして捉えようとすればふっと消えてしまいそうな儚さもある。
ところで、別所さんの最新作では、画面に窓の桟の十字形が現れたり、電柱や木の幹の縦線が描かれたりし、より画面が構成的になってきつつある。描き込むよりはむしろ画面全体のイメージを大切にしたいという意図が顕著になってきた。また、複数の場面を一つの画面に描く異時同図法のような描き方も試みている。そこには物語性があり、空間と時間の錯綜が生じる。新たな展開が予想されるのである。
別所さんはその眼で曖昧を捉えようとしているように思う。様々なモティーフは曖昧を捉えるために散りばめられているのかなと思う。絵画は見たものを写すだけではく、見えないけれども存在する現実と虚構の間にあるものや、人の心の動きを捉えることも出来る。ペラペラの人型は人間という曖昧な存在の顕れでもあり、私たちの心そのものでもあるといえるのではないか。すると別所さんはやはり絵画を通じて「人」というものを描こうとしていると思える。繊細でカラフルな色彩とノスタルジックなモティーフが、観ている私たちに、人間という存在の曖昧さを語り出す。しかし、その曖昧さは同時に、心地よい体験をももたらしてくれる。そこには声高な主張はないが、決して否定的ではなく、私たち皆の存在を肯定する温かい画家の眼があるのではないだろうか。
「Seaside painting」
1940×1310 oil on cotton(2022年制作)
「街と森の中で」
910×730 oil on cotton(2022年制作)
「白い鳥を探して」
530×410 oil on cotton(2022年制作)
「By the window」
660×660 oil on cotton(2022年制作)
「さがしびと」
700×500×500 oil on cotton,birdcage(2022年制作)
別所洋輝
- 【略歴】
- 1982
- 岐阜県可児市生まれ
- 2000
- 岐阜県立加納高等学校美術科卒業
- 2006
- 愛知県立芸術大学美術学部油画専攻卒業
- 【個展】
- 2013
- 「間の風景」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2014
- 「交差する景色」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2015
- 「重なりの向こう」 (十一月画廊/銀座)
- 2015
- 「中立の境界」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2016
- 「二十八時の鼓動」 (十一月画廊/銀座)
- 2017
- 「漂泊の稜線」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2017
- 「表象の住人」 (十一月画廊/銀座)
- 2018
- 「花花子のはなし」 (十一月画廊/銀座)
- 2018
- 「暮夜のささやき」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2019
- 「Lost Child」 (十一月画廊/銀座)
- 2019
- 「何時かのおくりもの」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2019
- 「べつのところの物語」 (ギャラリーいまじん/岐阜)
- 2019
- 「別所洋輝展」 (極小美術館/岐阜県池田町)
- 2020
- 「みちしるべの先に」 (十一月画廊/銀座)
- 2020
- 「つかの間の旅、終わらない散歩」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2020
- 「別所洋輝展」 (アートホテル木ノ離/岐阜県郡上市)
- 2021
- 「涙のおもてとうら」 (十一月画廊/銀座)
- 2021
- 「いとしいひと」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2022
- 「白い鳥を探して」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 【グループ展他】
- 2012
- きそがわ日和 川と町のアートプロジェクト 冬 (コクウ珈琲/岐阜県美濃加茂)
- 2012
- みのかもannual2016 (みのかも文化の森/岐阜県美濃加茂)
- 2017
- 「2017 5selection」 (十一月画廊/銀座)
- 2017
- 「art:gwangju:17」 (韓国/光州)
- 2018
- 「2018 5selection」 (十一月画廊/銀座)
- 2018
- 「art:gwangju:18」 (韓国/光州)
- 2018
- 「アンドアート展」 (花フェスタ記念公園/岐阜県可児市)
- 2019
- 「オルタナペイント ~並行世界の現在地~」 (名古屋電気文化会館/名古屋)
- 2019
- 「2019 5selection」 (十一月画廊/銀座)
- 2019
- 現代美術の視点2019 (極小美術館/岐阜県池田町)
- ※開催時点