Contemporary Art
極小美術館
Kataoka
Mihoka
片岡
美保香
2020.8/2(sun)~ 2020.9/27(sun)
espoir 30
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料顔の見えない女
片岡さんの絵画を見ているときに、何か秘密の世界か、見てはならないものをのぞき見しているような感覚があるのは私だけしょうか。主にそこに描かれているものは、人でありながら顔が消えている、あるいは顔が箱や浮き輪に置き換わっている、どこか奇妙な存在です。誰かの心象風景の中をさまよっていたり、たたずんでいたりするような「彼女たち」は、見るための目を奪われており、たとえこちら側にふり向いたとしても私たちと視線を交わすことはできません。ナイフを持ってこちらに向かってくるようなそぶりでもみせないかぎり、私たちはおびえることなく、奇妙な「彼女たち」を一方的に観察・凝視することができます。「彼女たち」は顔を失っているがゆえに、身体や衣服がむしろ「顔」となって、何かものを言っているかのようです。その語りの内容を、おそらく作者もすべては理解できていないでしょう。作者は、なにげなく切り抜いていた雑誌の写真や、記憶の隅に追いやられていたイメージなどを気ままにひっぱり出してきて(時には突然それらにとり憑かれて)、重ね合わせたり、スケッチブックに描き出したりして、さらにふくらんだ想像をカンヴァスの上に展開しているようです。半ばオートマチックに、半ば作者の記憶や好みにしたがって、画像は生成されていきます。だから作者にとって、絵画の制作はある意味自己の探求であり、まだ見ぬ他者の可能性や、いつしか失った自分の一側面と出会ったり、あるいは自分の中の憧れや恐れや好奇心がむくむくとわき上がって、おのずと話し出す内容に耳を傾けたりする過程なのでしょう。彼女の絵を見る私たちは、作者の頭の中・心の中の箱庭をのぞきこんで、自分の記憶の片隅にある何かを思い起こしながら、その世界観に共感したり、不安になったり、面白がったり恥じらったりするのだと思います。
片岡さんは以前、光沢の出ない油を使うようにしている、と絵肌へのこだわりを語っていました。彼女の画風の特徴として、マットな質感のほかにも、部分的な絵の具の盛り上げや筆触の強調、単に「青」や「緑」などと定義できない微妙な色の選択といった要素をあげることができます。私にはそうしたこだわりや工夫は、見る者の視線をはねかえすことなく画面に誘引するためのものではないかと思えます。憶測ばかりで恐縮ですが、彼女は自分が見出した未知であり既知でもあるようなイメージ(彼女の絵はどこかレトロな雰囲気を漂わせています)を、はにかみながらも他者に開示して、誘発された名状しがたい感情を無言のうちにシェアしたいと望んでいるのではないでしょうか。
ひっそりと。(2019年制作)
油彩、アクリル・キャンバス 1167 × 1167mm
見えるもの(2019年制作)
油彩・キャンバス 606 × 455mm
知のバランス(2019年制作)
油彩・キャンバス 333 × 242mm
見えないから見る(2017年制作)
油彩・キャンバス 455 × 380mm
誘い(2017年制作)
油彩・キャンバス 333 × 242mm
片岡美保香
2020年9月1日付朝日新聞
- 【略歴】
- 1992
- 岐阜県生まれ
- 2011
- 岐阜県立加納高等学校美術科卒業
- 2017
- 愛知県立芸術大学美術学部油画専攻卒業
- 【個展】
- 2015
- 片岡美保香展 (アトリエ幻想工房 / 岐阜)
- 2018
- 「The emancipation of self」 (Gallery Valeur / 名古屋)
- 2019
- 「眺めるものたち」 (Gallery Valeur / 名古屋)
- 【グループ展】
- 2017
- 現代美術の新世代展 (極小美術館 / 岐阜・池田)
- 2017
- みのかもannual 2017 (みのかも文化の森 / 岐阜・美濃加茂)
- 2017
- BLACK TICKET 2017 (N-mark / 名古屋)
- 2018
- みのかもannual 2018 (みのかも文化の森 / 岐阜・美濃加茂)
- 2019
- 現代美術の視点 (極小美術館 / 岐阜・池田)
- 2019
- 亀崎せこみち展2019 (半田市亀崎町一帯 / 名古屋)
- 2020
- イナイナイアート (茅野市民館 / 長野)
- 2020
- わたしの一点「つながる原風景」 (織部亭 / 一宮)
- 【コレクション】
- ■ 極小美術館
■ Lucca445
■ GALLERY Valeur - ※開催時点