Contemporary Art
極小美術館
Bessho
Hiroaki
別所
洋輝
2019.7/21 (sun) 〜 2019.9/1 (sun)
No.30
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料童話を読むように
不思議な均衡を宿した絵である。描かれたものたちの姿は曖昧模糊としているようで確かな存在感を放つ。左右対象の構図の安定感とは裏腹に、モチーフの描写は極めて繊細である。奥行きを把握できない漆黒の中に茫洋と浮遊するものたちは、記憶の彼方に浮かぶ残像のようでもある。秘めた世界を覗き見るような感覚が沸き起こり、観る者は幻想的な夢あるいは死の世界を想起する。
別所洋輝は綿布に油絵具を用い、黒い画面にシンメトリーを基とした絵画を手掛けてきた。作家は自身の絵について、わずかな差異やゆがみを帯びているにも関わらず左右対象を保っているかのように見える、モチーフ相互の関係性に「依存」を見出す。そして虚と実が曖昧に交錯する不安定な世界を、現代社会と今を生きる人の在り様と捉え、自身のテーマとして見据えてきたのだと語る。
絵に描かれるものは、どれも愛らしい。鳥、遊具、三角旗、飛行機、家や城、山々、遊園地や学校。子供の時分に見た、あるいは絵本の中で出会った風景のようで、どこか懐かしく心をくすぐられるだろう。華奢な白い線と色の粒が放つ柔らかな光が、絵の幻想性を高めている。色とりどりの帽子を被る小人のようなその世界の住人が動く姿、まるで閉じ込められて行き場を失ったようにも見える。一対の世界、しかし物語はそれぞれ異なる進み方をするのかもしれない。あるものは檻や柵の中に封じ込められている。そこには、破滅的な予感と守られる安堵感が混然一体となり存在している。描かれた世界はメルヘンか、あるいは何かの寓意なのか。別所の絵を眺めるのは、一冊の童話を読む感覚に似ている。
今回の展覧会は、今年描いた新作4点で構成される予定であるという。その内の一点が、初春に行われた極小美術館でのグループ展に展示されていた。作家独自の世界観に根は下ろしたまま、しかし従来の作品とは異なる明らかな変容が感じ取れた。世界が絵の中に留まることなく、一線を越えてこちらに迫りくるような圧を憶えたのである。記憶をたどる行為は、深く静かなひと時であるとは限らない。時に波のように、現実世界に居るはずの私たちの感情を呑み込むこともある。作家はこうした自身の表現の新しい展開を静かに肯定しながら、前へと進んでいる。
「いってきます、おかえりなさい」(2019年制作)
1620×1300㎜ oil on cotton
「かくれんぼ」(2018年制作)
1360×1360㎜ oil on cotton
「カクレガ」(2017年制作)
1200×1200㎜ oil on cotton
「机上の星」(2016年制作)
900×900㎜ oil on cotton
「Cage」(2016年制作)
900×900㎜ oil on cotton
別所洋輝
- 【略歴】
- 1982
- 岐阜県可児市生まれ
- 2000
- 岐阜県立加納高等学校 美術科卒業
- 2006
- 愛知県立芸術大学美術学部油画専攻卒業
- 【個展】
- 2013
- 「間の風景」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2014
- 「交差する景色」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2015
- 「重なりの向こう」 (十一月画廊/銀座)
- 2015
- 「中立の境界」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2016
- 「二十八時の鼓動」 (十一月画廊/銀座)
- 2017
- 「漂泊の稜線」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2017
- 「表象の住人」 (十一月画廊/銀座)
- 2018
- 「花花子のはなし」 (十一月画廊/銀座)
- 2018
- 「暮夜のささやき」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2019
- 「何時かのおくりもの」 (ハートフィールドギャラリー/名古屋)
- 2019
- 「べつのところの物語」 (ギャラリーいまじん/岐阜)
- 【グループ展】
- 2004
- 「BMSS」展 (ヱビススアートラボギャラリー/名古屋)
- 2004
- 「ナルコレプシー」展 (愛知芸術文化創造センター アートスぺース X/名古屋)
- 2005
- 「Golden Year」展 (ヱビススアートラボギャラリー/名古屋)
- 2006
- 「杣立つ」展 (ガレリアフィナルテ/名古屋)
- 2008
- 「BT」展 (可児市文化創造センター ALA /岐阜県可児)
- 2009
- 「しるべ」展 ※~2015年まで (可児市文化創造センター ALA /岐阜県可児)
- 2012
- きそがわ日和 川と町のアートプロジェクト 冬 (コクウ珈琲/岐阜県美濃加茂)
- 2014
- 145人のイラストレーターによるカーネーションイラスト展 (松屋銀座)
- 2014
- 「artwork in books」 きそがわ日和2014 (ワンダーランド/岐阜県美濃加茂)
- 2016
- みのかもannual2016 (みのかも文化の森/岐阜県美濃加茂)
- 2016
- 「インテリアとしてのアート遊び」展 (LUFT/愛知県一宮)
- 2017
- 「art:gwangju:17」 (韓国/光州)
- 2018
- 「art:gwangju:18」 (韓国/光州)
- 2018
- 「アンドアート展」
- (花フェスタ記念公園/岐阜県可児市)
- 2019
- 「現代美術の視点2019」(極小美術館/岐阜県池田町)
- ※開催時点