Contemporary Art

極小美術館

2015.7/5(sun)~ 2015.9/20(sun)

No.18

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

純な木彫家 河西栄二

高橋秀治(愛知県美術館 副館長)

 近年の芸術系大学を卒業する人たちの傾向として、公募団体への出品より個人としての発表活動に力を入れる人が多くなっており、その結果として多くの団体では会員の高齢化が進んでいる。それに伴って観覧者の平均年齢も上がってきているのは長年団体展の発表の場である美術館の貸しギャラリーを見てきた私だけの感覚だけではないだろう。それぞれの団体にはそれなりの主義主張を今もなお標榜しているとは言え、官展に対する異議申し立てとして多くの作家が団体を結成し、新たな表現を求めた熱い時代から、いつしか熱は冷め、師事する作家の作風を再生産することに終始するような表現に止まってしまい、それを乗り越えるにはかなりの問題意識を持ち続けないとまぬがれないことかもしれない。
 一方、師に追随して再生産の域に留まるというより、制作と発表のモチベーションを保ち続けるために公募団体に所属する作家がいるのもまた事実である。作品制作はある意味孤独な作業で、自らの目指す道をひたすら辿ることが必定ではあるが、その道程で自らが何処にいるのかを確認する一つの方途として、団体展への出品を位置づけている。もちろん出品すること自体が目的化してしまうのは問題外であるが、長距離ランナーが自分なりのペースを維持するように制作のペースを維持する機会と捉えて息長く制作活動を続ける作家が少なからずいる。
 純粋に制作に取り組んできた河西栄二さんは、個展という形式での発表に思い至らなかったと言う。毎年発表の場としてきたのは、新制作協会であったが、そこに出すようになったのは、人のつながりが全くない団体の中で質的な高さを感じたからという。大学時代の教授陣のつながりから言えば、国画会や、日展、自由美術といったところが最も出しやすいところではあったが、自分を知っている人が全くいないところでの他流試合を目指したのであった。全く知り合いもいない団体の出品作品の質にだけを価値基準に出品先を決めてから20年になるが、出品することへの思いは基本的に初出品の時から変わらず、より良い作品を目指した結果を他の作品の中でどう見えるか?という問いの答えを求めて出し続けてきたのである。
 彼は初め絵画を学び、一旦は油画で大学院を修了している。板に油絵を描いてそれを削ったり切ったりする中で感じた木の持つ適度な抵抗感が心地よく、そこを転換点に再度入学して彫刻を学んで大学院を修了している。そして木彫家への道へと歩みを進めてきた。売るための作品作りに見える活動はしたくない、自らが納得できる良い作品を作りたいという想いだけで時を経てきたためか実年齢より純粋さを保ち続けている作家である。
 近年木彫を制作している若い作家が増えているが、その多くは近代彫刻が目指してきたある種の実在感 - 重力に対して抵抗して立ち上がるフォルムを意識するというような - を目指すというより、どちらかといえば、立体の表面をどう作り上げていくかというような課題意識の作家が多いような気がする。それに対して彼はそうした流行には与していない。自身でも近代彫刻的な考え方かもしれないと断りながら、彫刻としての強さを目指し「とにかくいい彫刻を作りたいということだけを考えてきた」と言うように、どの様に人に見てもらおうかとか、どう仕上げすれば売れるようになるかなどとはこれっぽちも考えてはいない彫刻家で、とにかく今時珍しい純な人なのである。
 近代彫刻的とはいえ、ロダンに始まるフランス近代彫刻の流れとは違い、どちらかといえばマリーニらのイタリア彫刻のテイストが濃く感じられる。そしてそのイタリア的な土台の上にキルヒナーらのドイツ表現主義的なものと彼自身が持っている土俗的な匂いとが微妙に混じり合った表現を獲得している。それは見る人の記憶に残るものに違いない。

《ヒト》ケヤキ(2013年寄木)
H70×W50×D55㎝

《ヒト》寄木、クス(2013年寄木)
H205×W90×D80㎝

《ヒト》タモ、ケヤキ 2点組(2013年寄木)
H75×W110×D110㎝、H110×W60×D60㎝

河西栄二

【略歴】
1966
山梨県に生まれる
1989
筑波大学芸術専門学群美術専攻絵画コース卒業
1989
筑波大学大学院修士課程芸術研究科絵画分野修了
1995
筑波大学大学院修士課程芸術研究科彫塑分野修了
1995
第59回新制作展初入選、以後毎年出品 東京都美術館 国立新美術館(2007年~)
1998
筑波大学芸術学系助手
1901
那須野ヶ原国際彫刻シンポジウムin大田原2001参加
1903
岐阜大学教育学部美術教育講座准教授
1903
第67回新制作展新作家賞受賞
1904
新制作協会受賞作家展 ギャラリーせいほう(東京)
1904
第38回現代美術選抜展 文化庁主催
1906
第70回新制作展新作家賞受賞
1907
新制作協会受賞作家展 ギャラリーせいほう(東京)
1907
新制作協会会員推挙
1907
第18回富嶽ビエンナーレ展 静岡県立美術館
1909
第3回岐阜アートフォーラム 河西栄二彫刻展 (岐阜市上宮寺)
1909
アートを愉しむ小品展 ギャラリーパスワールド(岐阜市)
1912
緑の中の小さな彫刻展 ギャラリー華(東京)
1913
緑の中の小さな彫刻展 ギャラリー華(東京)
1913
池田山麓現代美術展2013「リアリズムの深層」 極小美術館(岐阜県池田町)
1913
次代を担う彫刻家たち展 現代彫刻美術館(東京)
1914
緑の中の小さな彫刻展 ギャラリー華(東京)
1914
公募団体ベストセレクション美術2014 東京都美術館
1914
彫刻家 内藤堯雄・河西栄二 作品展 岐阜大学旧早野邸セミナーハウス(岐阜県大垣市)
1914
新彫会彫刻展 福井県立美術館
現在
岐阜大学教育学部美術教育講座准教授 新制作協会会員
※開催時点