Contemporary Art

極小美術館

2014.4/27(sun)~ 2014.6/22(sun)

No.13

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

関係と無関係の関係 河口龍夫展に

馬場駿吉(美術評論家)

 人は生涯のうちに、様々な人や物、あるいは事象との交点を結ぶ。しかし、人生には時間の限界があり、同時代に存在するといえども、現実世界はつねに流動し、交点を結ぶことなく無関係のまますれ違うという現象が圧倒的に多いに違いない。それだからこそ、私たちは出来る限りアンテナの感度を高め、自分自身の闇のような内面にも眼をこらし、自己存在そのものの不思議さを確認することを必要とする。人生の途上で出会い、強く心を動かされて結んだ交点が、自己体系という関係性をどう構築しているのかを、時々立ち止まって考えてみることも重要だろう。芸術の世界に身を置く者にとっての特権は、作家、鑑賞者の別にかかわらず、そうした心象に深く喰い込む対象に出会う時と場が得られやすいということだろう。河口龍夫はいつもそうしたことを私たちに想起させてくれる作家だ。
 河口の世界観は前置きとして述べたように存在の意味は出会いの交点に発生する関係性によって獲得されるのであり、それがしばしば物と思考あるいは言葉との接触を伴うものであることがインスタレーションによって提示される。さらに近年の仕事には関係の断絶によって生じる無関係との間にも思考の通路(パッサージュ)のあることを示すところに新たな展開を見ることが出来る。
 今回の極小美術館における展示は、3階の構造を綿密に解析し、各階のインスタレーションの水平面における配置に加えて、上昇と下降を伴う垂直方向への動線を意識した展示プランが示されている。1階には2013年中の1日1日の闇が密封された金属の小函200日分。言葉もろともくり抜かれた空洞に闇が封じ込められた辞書。それらが深海の底の様相をも、ふと暗示する。2階には、8年前の蓮の種子発芽状況を水彩画とし、また書物の中の階段というイメージをドローイングしたノート、図録としてのオブジェ。3階には一粒の蓮の種子(再生の表徴)が貝殻(死の表徴)の凹面に真珠のように固定され、硫化カドミウムによって黄色に彩色された夥しい数のユニットオブジェが三方の壁に近づくことを拒絶するように床に敷きつめられる-今なお放射能に傷痕の癒えぬ大地を象徴するように、そして関係と無関係が関係することを証明するように。

河口龍夫のうつわ

光田ゆり(美術評論家)

 川の水を手ですくうと、いきいきした水の存在に触れて、つかみきれない、その果てのなさを知るときがある。かたく閉じた指のあいだからすり抜けて川面に落ちていく、掌の上の水。今ここにあったのは川の「部分」だったのだろうか?
 河口龍夫の≪Dark Box≫を見るとき、わたしが水のことを思ってしまうのは、闇の「部分」をすくい取る仕草を連想するからかもしれない。Boxが閉じられる前と後とで、もともとの「闇」は均一なままだろうか。閉じ込められたのは、「闇」の特定部位になるだろうか。それとも「闇」の感触は、すくおうとしても川の水のようにつかみきれずに果てないのだろうか。
 ≪Dark Box≫の見えている表側の様相は、ユーモアをこめて厳重である。ボルトでかたく閉じられたその密閉の仕方に、水も漏らさぬ作家の意思が表明されている。はたして闇も漏れ出ることがあるだろうか。光がきっと、水のようにかすかなあいだから漏れ出るように。
開けて中を見るなら「闇」は逃げ去る。内部を確かめられない闇のうつわ。
 河口龍夫は、果てのないものにうつわを与えた。そのうつわがあることで、「果てないもの」が「部分」に加工され、感知され得る輪郭を持つようになる。河口のうつわがあって初めて、「果てないもの」をめぐる問いを発することが可能になってくる。
うつわこそ、「果てないもの」をつかむための河口の方法だと言ってみてはどうだろう。
 半世紀以上のあいだエネルギーを切らすことなく、新しい作品を常に発表しつづけてきた河口龍夫。それは並大抵のことでない。今回の個展ではさらにこれまでにないプロジェクトが企てられている。河口の展示作品写真とそれに捧げられた批評の言葉を封じ込めた厚い「本」が、展示のコアになるというのだ。展覧会という具体物の提示の中央に、それをカメラで見、言葉で見るメディアが置かれる。その本は、この個展のうつわになるのだろうか。それとも厚い本自体が、展覧会といううつわから漏れ出て発される、問いになるだろうか。

〈関係―無関係・壁との距離と間〉
極小美術館3階展示会場
(2012~2014年)美術館の壁、蓮の種子
〈真珠になった種子〉
(貝殻、蓮の種子、蜜蝋、硫化カドミウム、天然白亜)
インスタレーション
F120=194.0cm×130.3cm

関係―無関係・200日の小さな闇(2013年)
鍍金した鉄、鉛、闇

〈DARK BOX 2013 4.27〉 ~ 〈DARK BOX 2013 11.24〉

水の中の闇(2013年)

闇に居場所を譲った言葉(左)辞書の中の闇(右)

本から取り出された階段(下)本の中の階段(上)

本の中の鉄の階段

階段空間・立体ドローイング

河口龍夫

【略歴】
1966
E・ジャリ展/ヌーヌ画廊(大阪)
1967
1967京都アンデパンダン展/京都市美術館
1968
Tricks and Vision展 盗まれた眼/東京画廊+村松画廊(東京)・企画:中原佑介+石子順造
1969
第9回現代日本美術展/東京都美術館,京都市美術館,愛知県立美術館,広島県立美術館,岡山総合文化センター,長崎美術館,福岡県立文化会館,北九州市立八幡美術館,佐世保市中央公民館
1970
第10回日本国際美術展 1970 人間と物質〈東京ビエンナーレ〉/東京都美術館,京都市美術館,愛知県美術館,福岡県文化会館・コミッショナー:中原佑介
1971
河口龍夫個展 172800秒展/ギャラリー16(京都)
1972
〈部分〉展/信濃橋画廊・エプロン(大阪)
1973
第8回パリ国際青年ビエンナーレ/パリ市近代美術館+パリ国立近代美術館・日本側組織委員:峯村敏明
1973
第5回現代日本彫刻展 形と色/宇部市野外彫刻美術館(山口)
1973
第12回サンパウロ・ビエンナーレ/サンパウロ美術館(ブラジル)・コミッショナー:中原佑介
1974
日本 伝統と現代/デュッセルドルフ市立美術館
1974
北欧巡回現代日本美術展/ルイジアナ美術館(デンマーク),イェーテボリ美術館(スウェーデン),ヘニー・オスタート美術館(ノルウェー)
1975
第13回アントワープ国際彫刻展/ミッデルハイム野外彫刻美術館(ベルギー)・日本コミッショナー:土方定一+中原佑介+三木多聞)
1975
河口龍夫展/南画廊(東京)
1976
第1回パン・パシフィック・ビエンナーレ展/オークランド市立美術館(ニュージーランド)
1976
第2回シドニー・ビエンナーレ/ニュー・サウス・ウェールズ州立美術館(オーストラリア)
1977
Art Today ’77見えることの構造 6人の目/西武美術館(東京)・ゲスト・キュレーター東野芳明
1978
河口龍夫展 1968年~1978年/アート・センターM(福井)
1979
第11回東京国際版画ビエンナーレ展/東京国立近代美術館,国立国際美術館(大阪),北海道立近代美術館
1980
河口龍夫 From Start to Start Part1,Part2/桜画廊(愛知)
1981
1960年代-現代美術の転換期/東京国立近代美術館
1982
第5回インド・トリエンナーレ/プラガティ・メイデン(ニューデリー)・コミッショナー:増田洋
1983
現代美術における写真/東京国立近代美術館
1984
岐阜アンデパンダン・アート・フェスティバル20年後の動向展/岐阜県美術館,岐阜市八ツ草公園
1985
筑波国際環境造形シンポジウム’85・屋内,野外展/銀河スクエアビル(茨城)
1986
前衛芸術の日本/ポンピドゥー・センター(パリ)
1987
河口龍夫 関係-種子・土・水・空気/雅陶堂ギャラリー竹芝(東京)
1988
現代日本美術の動勢-絵画part2/富山県立近代美術館)
1989
大地の魔術師/ポンピドゥー・センター+パリ国立近代美術館+グラン・ダール・ド・ラ・ヴィレット(パリ)・企画:ジャン=ユベール・マルタン(Jean-Hubert Martin)
1989
Japan ’89 日本現代美術展/ゲント市立現代美術館(ベルギー)・人選:ヤン・フート(Jan Hoet)、中原佑介
1990
今日の作家たち Today’s Artists展III-’90 河口龍夫/神奈川県立近代美術館
1991
河口龍夫 関係・植物/横田茂ギャラリー(東京)
1992
70年代日本の前衛/ボローニャ市立近代美術館(イタリア)
1993
ボローニャ展帰国記念 70年代日本の前衛 抗争から内なる葛藤へ/世田谷美術館(東京)
1994
死にいたる美術-メメント・モリ/町田市立国際版画美術館(東京),栃木県立美術館
1995
戦後文化の軌跡 1945~1995,目黒区美術館(東京),広島市現代美術館,兵庫県立近代美術館,福岡県立美術館
1996
河口龍夫 関係-種子・農具/ヒルサイドギャラリー(東京)
1997
関係-河口龍夫/千葉市美術館
1998
河口龍夫-封印された時間/水戸芸術館現代美術センター(茨城)
1998
呼吸する視線 河口龍夫 みえないものとの対話/いわき市立美術館(福島)
1999
河口龍夫-関係・京都/京都市美術館
2000
河口龍夫 関係-種子・生命/横田茂ギャラリー(東京)
2001
BOX ART 2001~2002/リアス・アーク美術館(宮城),新潟市美術館,おかざき世界子供美術博物館(愛知),静岡アートギャラリー,高知県立美術館
2002
融点・詩と彫刻による/うらわ美術館(埼玉)
2003
Japan Contemporary Art-Kawaguchi Tatsuo/釜山市美術館(韓国)
2004
痕跡-戦後美術における身体と思考/京都国立近代美術館,東京国立近代美術館
2005
時間の時間 河口龍夫展/国際芸術センター青森
2006
河口龍夫 地下時間/MACA GALLERY(東京)
2007
河口龍夫-見えないものと見えるもの/兵庫県立美術館+名古屋市美術館(同時開催)
2008
無限への立ち位置-河口龍夫の1970年代/宇都宮美術館
2008
時の航海 河口龍夫/入善町下山芸術の森発電所美術館
2009
河口龍夫展 言葉・時間・生命/東京国立近代美術館
2010
河口龍夫 螺旋の時/加計美術館(岡山)
2011
今 美術の力で-被災地美術館の収蔵作品から/東京藝術大学美術館
2012
光あれ!河口龍夫-3.11以後の世界から/いわき市立美術館
2012
言葉と美術が繋ぐもの-中原佑介へのオマージュ展/ギャラリーヤマキファインアート
2013
二年後。自然と芸術、そしてレクイエム/茨城県近代美術館
2013
河口龍夫 聴竹居で記憶のかけらをつなぐ/聴竹居(京都府乙訓郡大山崎町)
2013
マンハッタンの太陽/栃木県立美術館
※開催時点

【 河口 達夫 Official Web Site 】