Contemporary Art

極小美術館

2013.10/20(sun)~ 2013.12/22(sun)

espoir 09

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

食べる、描く、生きる 

野村幸弘 (岐阜大学教授)

 加藤誉使子さんの油彩画をはじめて見たのは、2011年、岐阜市にあるぼくの「アトリエ幻想工房」で開かれた個展のときだ。彼女はアトリエの空いている2階スペースを気に入ってくれて、ここで個展を自主企画したのである。数点の大きなカンヴァスには、外皮がそっくり捲れ上がって、すべて粘膜となった植物と動物の不思議な複合体のようなものが画面いっぱいに描かれていた。具象でもないし、抽象でもない。具象的な形態が抽象へ向かう過渡的形態でもない。何か得体の知れない有機体が強烈な赤と黄色の分泌液を滴らせ、蠢き、蠕動していた。人間の歯茎や肉の赤身が美しい、と言った20世紀の画家フランシス・ベーコン以上に、彼女は有機体の内部奥深くに入り込み、子宮、陰核、膣、精子、胚珠、雌蕊、雄蕊といった動植物の生殖器官のような生物学、生理学的イメージを展開していたのである。
 このイメージの原点は、2003年に岐阜市で開かれた最初の個展「FOOD DIARY」(ギャラリー・クロッキー)にある。彼女は2002年7月7日から2003年8月20日までの約1年間、毎日3食のメニューをすべて絵と言葉で記録した「食物日記」をつけている。この小さな日記帳を見ると、その日食べたものがペン画によって克明に再現されていて、たしかにそれらは誰もがふだん口にする食べ物ばかりなのだが、あえてその食事の特徴をしるすならば、「バナナ1/2個、キューイ1/8個、グレープフルーツ1/16個、パン1/2個、チキンステーキ1/2切れ、ちくわ1/2個…」といった具合に、食物を切り取った断面が描かれている。米も野菜も果物も魚も肉も、ほぼすべてが皮を剥かれ、切断され、その内部をさらけ出している。もちろんそれは何も特別なことではない。みなそうやって食生活を送っている。とはいえ、数百ページにわたって、それら食物の断面を見せられると、ぼくらは動植物の粘膜を自分の粘膜に同化させて生きていることに否応なく気づかされる。食べ物は身体であり、身体は食べ物なのだ。人間の内面や心理よりもっと根源的、生命的なものが身体の内部に充満している。それを加藤さんの絵が暴いているように思えてならない。

All living things(2012年制作)
146×146cm oil on canvas Photo 小山郁二

twenty-eleven(2011年制作)162×162cm

加藤誉使子

【略歴】
2000
岐阜県岐阜市に生まれる
2089
東京造形大学造形学部美術学科Ⅰ類卒業
2003
個展「FOOD DIARY」
(ギャラリー・クロッキー)
2004
「見たい見せたい美術展」
(アクティブG)
2005
個展(ギャラリー・クロッキー)
2007
個展「espoir」
(北ビワコホテル・グラツィエギャラリー)
2008
飛騨高山現代美術展2008(高山市)
2010
池田山麓現代美術展2010
「ベスパ・プリマベーラと作家たち」(極小美術館)
2011
個展「いつかいた場所」(アトリエ幻想工房)
2011
池田山麓現代美術展2011「宇宙の連関として・気配」(極小美術館)
2012
個展 (カフェギャラリーyuyu)
2012
池田山麓現代美術展2012「象の檻」(極小美術館)
その他 グループ展・アートイヴェント等
※開催時点