Contemporary Art

極小美術館

2012.11/18(sun)~ 2013.3/10(fri)

No.08

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

心の闇を解きほぐす

三頭谷鷹史(美術評論家)

 佐藤昌宏は「異界」を描く絵師である。なにしろその画面には、非日常の生命体があふれ、目をそらしたくなるほどの強烈なイメージが放出されている。が、不思議なことに、そらした目は、再びその画面に舞い戻り、釘付けになってしまう。異界が私たちを手招き、親しげに声をかけてくるからである。そう、異界とは、私たちの内側の世界でもあり、本来は親しい世界なのである。
 彼は幼い頃から昆虫、爬虫類、両生類などを描くことが好きだったという。そうした個人的嗜好を創作上の核心へと導いたのは、大学で出会った先生、解剖学をへて生命形態学を追求していた三木成夫だった。胎児が母胎の中で成長する間に数十億年の生命進化の過程を繰り返すことなどを学んだ。佐藤が好んだ生き物たちも人体細胞にしっかりと記憶されていて、自分がそうした内なる記憶に引き寄せられていた可能性を自覚したのである。さらに言えば、佐藤が学んだのは、科学的認識だけでなく、生命の深淵に思いを馳せる三木の姿勢だったのではないか。三木の著書を読むと、科学的研究がベースであるものの、折口信夫や柳田国男、夢野久作まで語られていて、驚かされる。死後、ますます関心が高まっている人である。
 方向を定めた後の佐藤に揺らぎは見られない。ブリューゲル、ウィーン幻想派、地獄絵などを咀嚼しつつ、自らの内なる異界を描きつづけている。ただし、その絵画が果たす役割が時とともに変わってきた、というのが私の見方である。今日の日常の背後では、制御不能な欲望や怖れが現代の異界となり、心の闇を形成している。若い世代ほどその傾向が強く、異界は過剰に膨れ上がった。かつての彼の絵画は、異界を直視しない社会に対するプロテストの側面をもつ、異端の絵画だった。今は違う。意外と思われるかもしれないが、異界が膨れ上がった今、救済の絵画となる。ひたむきに異界に向き合った絵画であればこそ、心の闇を解きほぐす役割を担うのである。

地のいきもの[曼荼羅](2012年制作)
F150号 テンペラ・墨

地のいきもの(孔雀浄土)

佐藤昌宏(仕事場で)

【略歴】
1930
岐阜市に生まれる
1980
東京藝術大学大学院美術研究科(油画)修了
1981
千葉県新進作家展 船橋西武美術館(千葉)
1982
グループ「6」展 真和画廊
1982
6人展 古典と現在の狭間にて 永井画廊(東京)
1983
個展 真和画廊(東京)
1984
浅井忠記念賞展 千葉県美術館
1984
大橋賞受賞作家展 高島屋(日本橋、難波)
1984
グループ「6」展 Gアートギャラリー(東京)
1985
浜松私のイメージ展 浜松市美術館
1985
安井賞展
1985
個展 ギャラリーNAF(名古屋)
1986
安井賞展 西武美術館(池袋)
1986
セントラル86 セントラル美術館(東京)
1986
中日展 名古屋市博物館
1987
セントラル87 セントラル美術館(東京)
1987
安井賞展 西武美術館(池袋)
1988
岐阜県文化活動等特別奨励賞受賞
1988
個展 ラブコレクションギャラリー(愛知)
1990
幻想の力 宮城県立美術館
1990
中日展 準大賞 名古屋市美術館
1990
伊藤廉記念賞展(記念賞受賞) 名古屋日動画廊
1991
個展 ラブコレクションギャラリー(愛知)
1991
中日展 賞候補 名古屋市博物館
1992
東海の作家たち展 愛知県芸術文化センター
1992
安井賞展 セゾン美術館
1993
安井賞展 セゾン美術館
1993
絵画の今日展 三越美術館(東京)
1993
伊藤廉記念賞展(招待出品)
1993
中日賞受賞作家展 名古屋市博物館
1995
絵画の今日展 三越美術館(東京)
1997
浅井忠記念賞展 千葉県美術館
1997
二人展 視点97 名古屋市民ギャラリー
1997
絵画の今日展 三越美術館
1998
伊豆美術祭絵画公募展 伊東市観光会館
1999
美浜美術展 美浜原子力PRセンター他(福井)
2000
伊豆美術祭絵画公募展(賞候補) 伊東市観光会館
2001
個展 ギャラリー141(名古屋)
2002
個展 ギャラリーパスワールド(岐阜)
2003
岐阜内モンゴル美術展 内蒙古美術館(内モンゴル自治区)
2003
個展 ギャラリー141(名古屋)
2004
個展 北ビワコホテル グラツィエ・ギャラリー(長浜)
2004
COBALT展 岐阜県美術館一般展示室・パスワールド(岐阜)
2004
個展 ギャラリーパスワールド
2005
COBALT展 岐阜県美術館一般展示室
2005
個展 マキイマサルファインアーツ(浅草橋)
2006
10月 天野裕夫とのコラボレーション パスワールド(岐阜)
2006
COBALT展 岐阜県美術館一般展示室
2007
8月 自画像の証言 東京芸術大学美術館 陳列館
2008
10月 上宮寺アートフォーラム 天野裕夫とのコラボレーション (岐阜市上宮寺)
2009
11月 個展 我永く山に還らん パスワールド(岐阜)
2010
5月 グループ展 地のいきものF15他 晩翠画廊(仙台)
2010
8月 Art Scene in Gifu 地の神 F502点他 パスワールド(岐阜)
2010
10月 ベスパ・プリマベーラと作家たち 極小美術館(池田町)
2011
1月 第20回 富嶽ビエンナーレ展 静岡県立美術館
2011
8月 個展 Galerie41 VERNEUIL(Paris)
2011
9月 宇宙の連環として 新進作家と現代美術家 極小美術館
2012
7月 個展 パスワールド
※開催時点