Contemporary Art

極小美術館

2025.3/16(sun)~ 2025.4/13(sun)

No.51

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

人間の存在と、その対極を問う

村山閑
(たましん美術館 学芸員)

 増川寿一のアトリエを訪ねると、案内された2階の作業部屋に、次回展で展示予定という人間の頭部像が並んでいるのが目に入った。実寸より小さい頭部だけの彫像は、端正な鼻筋や口元が見えるが、長い前髪や襞状の物体によって両眼が覆い隠され、表情をうかがい知ることができない。黒陶土を用いたセラミックスというが、灰褐色の細かい粒子を感じる質感は砂像のようだ。他にもウサギや鳥、リンゴなど、過去の増川の立体作品にはあまり見ることがなかった具象的な、そしていわゆる写実的な表現の造形物が並んでいる。
「過去の増川の立体作品」という言葉を使ったが、極小美術館での2度の個展をはじめとする数々の展示を振り返ると、金属による立体造形に始まり、写真、インスタレーション、パフォーマンスと、スタイルどころか技法、さらにはジャンルをも跨いだ創作の変遷を経ている。さらに遡って1983年、東京藝術大学在学時に久米桂一郎賞を受賞したのはマケットの制作によってであった。増川の中では常に創作のイメージが先にあるというが、そのイメージの段階の解像度が当時から極めて高かったことが察せられる。そして同大学院修了後、個展やグループ展を中心に発表されてきたノンジャンルな創作の展開には、自身の思考を具現化するためであれば、一から新たな手法に挑戦することも厭わない姿勢が見て取れる。
 こうした作品や展示については、すでに青木正弘、出原均、天野太郎等諸氏の論評によってそれぞれ明快に読み解かれている。本稿では、一貫して増川が追求してきた二つのテーマを掘り下げて考えたい。それらが本展において総括されようとしていると感じたからだ。
 テーマの一つは人間である。例えば2009年の秋山画廊における個展などで登場する保温電球は、一定の温度に達すると消灯と点灯を繰り返すことによって人間の体温を連想させ、2010年の個展から用いられる塩と水も人体を構成する成分であることが明白だ。他にも羊毛で編み上げる染色体や人毛に模した糸など、増川は眼で見た誰かの外観ではなく、人間を成り立たせている要素から抽出したわずかな情報を人間の表現として用いてきた。
 もう一つのテーマは、物と物の間にある空間である。「ここでいう空間とは、何もないということだ」と増川は強調した。例えば近年発表したセラミックスによるインスタレーションでは、両手の第1・2指を合わせた時に生まれる小さな空隙を造形化した。「何もない部分」は造形化すれば直ちに「何かがある部分」となる。そして世界には存在と不在の両極があって、その間を往来するエネルギーこそが、あらゆるものを動かす原動力なのではないかという発想、増川も言及する「エントロピー増大の法則」につながっていく。これら二つのテーマを関連付けて、両極の一方を私という人間存在とすると、もう一方の極とは何か。そのような問いかけが本展のタイトル「Who am I and who are you」の背景にあるのではなかろうか。
 もう一度、作業場の風景に視点を戻そう。棚の上に並ぶ頭部像は写実的なようで、いずれもほとんど表情がなく、マネキンのようにも見える。しかし実際には、インターネットで検索した実在する著名人の写真をもとに、特徴的な輪郭や量感を削っていったという。私たちが個人を判別するために見つめる顔から、個性を成り立たせていた要素が失われた時、その不確かな存在はいったい何を訴えてくるだろうか。増川は本作品に黒陶土を選んだが、温度や時間を調整することで砂のような質感と色調に整えている。しかし脆く儚い外観の一方で、焼成により1000度に達するような高温を潜り抜けていることも確かだ。筆者はその力の拮抗に思いを巡らせ、開幕を待ちながら筆をおく。

《 Who am I and who are you 》

透明な核型(Oの場合)
セラミックス(2024年制作)

透明な核型(Tの場合)
セラミックス(2024年制作)

無題
セラミックス(2024年制作)

無題
セラミックス(2024年制作)

無題
セラミックス(2024年制作)

増川寿一

【略歴】
1960
名古屋市生まれ
1983
久米桂一郎賞(東京藝術大学)
1985
東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
1987
東京藝術大学大学院修了
2004
武蔵野市美術大賞展/準大賞
【個展・グループ展】
1981
3人展 (平木屋画廊/岐阜)
1984
3人展 (東京藝術大学展示室)
1985
UENO’85 (東京藝術大学構内)
1985
フジヤマ・ゲイシャ展 (モリスギャラリー、ギャラリー16、東京藝大)
1986
個展 ※87、91、94、96、00、06、08〜10、12、15、17 (秋山画廊/東京)
1987
茂井健司・増川寿一展(秋山画廊/東京)
1989
個展 (かねこ・アートGⅠ/東京)
1989
Sheraton Sculpture Exhibit’89 (シェラトン・グランド・トーキョーベイ・ホテル)
1989
個展 ※91 (ときわ画廊/東京)
1990
架想モニュメント展 (かねこ・あーと/東京)
1991
個展 ※92 (ギャラリー美遊/東京)
1992
個展 (かねこ・アートGⅡ/東京)
1994
個展 (かわさき IBM市民文化ギヤラリー/川崎市文化財団)
1994
コレクション’94 (ギャラリー美遊/東京)
1995
A Piece of My Art (ギャラリー美遊/東京)    
1995
様々な平面Ⅳ (かねこ・あーと/東京) 
1995
セレクション (かねこ・あーと/東京)
1996
Creeping is leaping (なびす画廊/東京)   
1996
A Piece of My Art 2 (ギャラリー美遊/東京)
1997
京橋界隈’97 (なびす画廊/東京)
1998
個展 (なびす画廊/東京)
2008
個展 (ギャラリー・ウートレ/岐阜)
2011
宇宙の連環として (極小美術館/岐阜)
2012
象の檻 (極小美術館/岐阜)
2013
リアリズムの深層 (極小美術館/岐阜)
2014
個展 (極小美術館/岐阜)
2015
現代の美術作家4人展 (関市立篠田桃紅美術空間/岐阜)
2016
宇宙の連環として (極小美術館/岐阜)
2020
五五展 (いりや画廊/東京)
2021
現代美術の作法 (極小美術館/岐阜)
2022
壁11㎡の彫刻展#6 (いりや画廊/東京)
2022
個展 (極小美術館/岐阜)
【パブリックコレクション】
▪上智短期大学
※開催時点