Contemporary Art

極小美術館

2025.3/16(sun)~ 2025.4/13(sun)

espoir 48

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

そこから見えてくる風景 

廣江泰孝 (岐阜県美術館 学芸員)

 《VIEW》シリーズは、いつも身近にいてくれた祖母との思い出からはじまった。彼女の晩年の姿と向き合うなかで経験した、得難い感覚を捉えようとしている。その時のイメージに一番近い場所だと感じた「子どもの頭」を立体視し、三次元上の座標軸を入れ替えて、真俯瞰まふかんに見た姿を色鮮やかに描いている。時にはベッドに横たわる人を、頭頂部側から描くことで、浮かび上がってくる情景に挑んだメランコリックな作品もある。つまり、矢橋はずっと人物を描き続けてきた。そしてそこから視点を入れ替えることで見えてくる不確かな心象風景を、自分の居場所を探し眺めるかのように制作してきた。  
 ローラー掛けによる暗色系絵具を下塗りとする表面は、ビロード地のような見た目に反し、ざらついていて、随分と描きづらいに違いない。矢橋は石膏が混ぜられたこの下塗りについて、「実家の漆喰壁に似た乾いた土の雰囲気が好きで」と説明してくれた。時折、カンヴァスを回転させながら描線の出発を変えて、人の身体から得た表現の端っこを捉えている。そこからしか導けない記憶のかけらや、描く理由があるのだろうか。
 画面は明るい純色を重ねて意識を交感させながら、透明感をもって、束縛されない自由を得るかのような筆勢で覆われている。そして表面のとがった先だけをやすり掛けして、砂絵のような独特のマチエールが作られる。全体に散りばめられた光の粒は、ゆっくりと状況を変化させていく映像のようでもあり、幻視のようでもある。そして色にあらがうイメージとの交錯こうさくに、別の世界への連なりを思う。充足した寂しさが色を求めるように、自然に深沈する時間が、絵から生まれてくる。
それにしても、油絵の特性である伸びやかさを否定するかのような、それでも残ってくるものを少しずつ掬い取るかのような描き方をするようになったのは、何故だろうか。矢橋は祖父のあつめた絵画に接しながら絵を描く仕事を志した。日頃目にする機会の多かった洋画から、随分と影響を受けたに違いない。しかし美術大学に進学してすぐに、とてつもなく広い表現領域があることを知る一方で、慣れ親しんだ洋画の世界はどこにもないように感じたという。この時の自分を全部否定して、それでも残っている記憶の断片から描き始めたことが、今に繋がっているのかもしれない。
 矢橋の探求心は、描くことでしか表すことができない茫漠無縁ぼうばくむえんな遊行世界の境地へと向けられているが、その前に、イメージを具体的に細密描写した世界への憧れを常に持ち続けている画家である。制作の途中で、二つの相反する世界が重なり合うこともある。シンメトリーに反復する景色が絵画的な構図として現れ始めると、線の太さや歪さからくる不確かな世界への興味は、カンヴァス上の筆先に託され、精巧緻密なイメージへの欲求は、大学卒業と共に始めたデジタル環境での作画(製図、図案)に委ねられていく。描く感覚や物質感のない無機質な世界で、一頻ひとしきり作画に明け暮れると、また自分を取り戻すようにカンヴァスの前に立つ。現実のフィジカルな世界とデジタルによるサイバー上の世界を行き来しながら、描くという生き方を選択した彼の現在いまが展示される。

DMイメージ

VIEW-76(2024年制作)
キャンバスに油彩 455 × 380mm

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VIEW-77(2024年制作)
キャンバスに油彩 455 × 273mm

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VIEW-72(2023年制作)
キャンバスに油彩 1167 × 910mm

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VIEW-75(2023年制作)
キャンバスに油彩 410 × 273mm

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VIEW‐71(2022年制作)
キャンバスに油彩 1167 × 1167mm

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矢橋頌太郎

【略歴】
2011
武蔵野美術大学 造形学部 油絵学科 卒業
2012
現代美術の新世代展で優秀賞受賞(極小美術館)
選考・青木正弘前豊田市美術館副館長、篠田守男筑波大学名誉教授 他
2013
「リアリズムの深層」展 (極小美術館)
2014
初個展 (極小美術館)
2014
個展 (ギャラリーうちやま)
2015
富山トリエンナーレ 2015 神通峡美術展で優秀賞受賞
選考・篠田守男筑波大学名誉教授、酒井忠康世田谷美術館館長、絹谷幸二東京芸術大学名誉教授
2015
ミズマクおおがき 2015 StartingPoint 大垣の新進美術家たち (大垣市文化事業団主催 スイトピアセンター)
2016
宇宙の連環として 2016 (極小美術館)
2016
個展 (極小美術館)
2017
現代美術の新世代展 2017 (極小美術館)
2018
個展 「頭上漫々」展 (名古屋画廊)
2019
現代美術の視点 (極小美術館)
2019
第2回アートハウスおやべ 現代造形展2019 入選
2020
MUUSA-BI展 (極小美術館)
2020
個展 (極小美術館)
2021
現代美術の作法 2021 (極小美術館)
2021
個展「頭状花序」展 (名古屋画廊)
2021
清須市第10回はるひ絵画トリエンナーレ (清須市はるひ美術館)
2023
ファン・ゴッホと日本近現代アート展 (名古屋画廊)
2023
MUSA-BI展 in TOKYO (アートスペース羅針盤)
2024
ファン・ゴッホと日本近現代アート展 No.3 -素描する眼- (名古屋画廊)
2025
ファン・ゴッホと日本近現代アート展 No.5 (名古屋画廊)
※開催時点