Contemporary Art

極小美術館

2022.5/1(sun)~ 2022.6/5(sun)

No.40

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

増川寿一の作品「Island」をめぐって

天野太郎(東京オペラシティアートギャラリー チーフ・キュレーター)

 今回の増川寿一の作品「Island」は、いりや画廊で2022年に企画された「壁11㎡の彫刻展」の出品作(ちなみに作品名も同じ「Island」)の流れを汲むものである。
 ところで、増川の作品は、1986年の初個展から1992年くらいまで、立体的な作品、それも一つの自己完結した構造体としての作品の時代が続いた。これは、そもそも、増川が大学で彫刻を学んだことを強く反映している。その後、1995年から現在に至るまで、そうした形態の作品から、必ずしも立体的な構造を持たない、素材も樹脂や塩など、そしてメディウムも映像、写真と多様化しながら展開してきている。
 この出品作「Island」は、素材がセラミックと木材(角材を加工したもの)を組み合わせたインスタレーション作品である。このセラミックは、同様の素材を使った作品「Colony #5 2021」があるが、ここでは、セラミックの集合体が円環を構成した形態になっている。閉じられた円環は、「Island」においては、円環は崩されて解放され、面として拡張することを予測させる形態へと変化している。

 ところで、自身の説明によれば、

 2008年、秋山画廊の作品以降の展開は以下のようになります。
 温度(体温) → 蜜蜂(生態) → 塩(結晶) → 身体(エントロピー) → 核型(染色体)

 こうした変化を見てみると、かつて自立した立体作品の時代に見せた自身の考え方を外在化させたものとしての作品は、次第に、自身の身体に有機的に繋がる素材によって内在化させた作品へとベクトルを切り替えたように見える。無論、どちらも最終的に物理的な作品として提示されるものの、近作においてはそれを受容する際に動員される知覚の多様性(聴覚、嗅覚、触覚など)が際立っている。

 美術としての彫刻がヨーロッパのルネサンス期に成立する一方、それよりも古く、つまりギリシャ時代では、モノ=物体は外から形を与えられ、人間も含め生物はその内側から形が作られてきたという認識があった。そこから導き出されるのは、生物は形が内在する実体として、そしてモノは形が外的に付随する偶性(或いは偶有性=アリストテレス)としての認識であった。増川の作品は、期せずして、初期のモノ=彫刻から、言わば生物における実体へと移行しているように思える。それは、同時に、本来の彫刻が解体され、そしてモノが有機的な関係性を持って付置された構成への移行でもあるのだ。

「Island」
セラミック・木(2022年制作)

「Colony#1」
石粉粘土(2017年制作)

「Flow-Sync」
人毛に模した糸・ピアノ(2014年制作)

「虹色の核型」 ※パフォーマンス
羊毛・他(2015年制作)

「Colony#5」
セラミック(2021年制作)

増川寿一

【略歴】
1960
名古屋市生まれ
1985
東京藝術大学美術学部彫刻科卒業
1985
久米桂一郎賞(東京藝術大学)
1987
東京藝術大学大学院修了
2004
武蔵野市美術大賞展/準大賞
【個展・グループ展】
1981
3人展 (平木屋画廊/岐阜)
1984
3人展 (東京藝大展示室/東京)
1985
UENO’85 (東京藝大)
1985
フジヤマ・ゲイシャ展 (モリスギャラリー、ギャラリー16、東京藝大)
1986
個展 (秋山画廊/東京) ※87、91、94、96、00、06、08〜10、12、15、17
1987
茂井健司・増川寿一展 (秋山画廊/東京)
1989
個展 (かねこ・あーとGⅠ/東京)
1989
Sheraton Sculpture Exhibit’89 (シェラトンホテル/舞浜)
1989
個展 (ときわ画廊/東京) ※91
1990
架想モニュメント展 (かねこ・あーとGⅠ/東京)
1991
個展 (ギャラリー美遊/東京) ※92
1992
個展 (かねこ・あーとGⅡ/東京)
1994
個展 (かわさきIBM市民文化ギャラリー/川崎市文化財団・川崎)
1994
コレクション’94 (ギャラリー美遊/東京)
1995
A Piece of My Art (ギャラリー美遊/東京)
1995
様々な平面(Ⅳ) (かねこ・あーと/東京)
1995
セレクション1995から1996へ (かねこ・あーと/東京)
1996
匍匐は跳躍 creeping is leaping (なびす画廊/東京)
1996
A Piece of My Art 2 (ギャラリー美遊/東京)
1997
京橋界隈’97 (なびす画廊/東京)
1998
個展 (なびす画廊/東京)
1998
個展 (ギャラリー・ウートレ/岐阜)
2011
宇宙の連環として (極小美術館/岐阜)
2012
象の檻 (極小美術館/岐阜)
2013
リアリズムの深層 (極小美術館/岐阜)
2014
個展 (極小美術館/岐阜)
2015
現代の美術作家4人展 (関市立篠田桃紅美術空間/岐阜)
2016
宇宙の連環として (極小美術館/岐阜)
2020
五五展 (いりや画廊/東京)
2021
現代美術の作法 (極小美術館/岐阜)
2022
「壁11㎡の彫刻展」 (いりや画廊/東京)
【パブリックコレクション】
▪上智大学
※開催時点