Contemporary Art
極小美術館
Kitamura
Takeshi
北村
武志
2022.7/3(sun)~ 2022.8/7(sun)
No.41
観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料色彩と無表情
ニュートンが今日の分光学の基礎となった光のスペクトルを発見、論文『光学』に著してからおよそ100年後にゲーテが『色彩論』を著し、ニュートンの光学を批判した。ニュートンの光学論を批判したゲーテの色彩論は、物理学的なアプローチというより心理学的な、あるいは生理学的なアプローチによる色彩論といえる。特に注目されるのは目の働きと色彩の関係の中で、補色の法則性を発見したことであろう。ニュートン光学から200年以上経った現代では、スペクトルは可視領域だけでなく、電磁波領域まで波長順に分類されるようになっている。
美術分野にとっては物理学的な理解ではなく可視光線の理解が重要であろう。つまり、ゲーテがニュートン光学を批判したように、単に周波数の分析ではなく、人間が光をどう認知するのか、また、そこに心理学的な感受がどう展開するのかという点である。ゲーテの色彩論がその後多くの美術家に影響を与えたことには疑いない。モンドリアンらもゲーテの色彩論の影響下にあったといわれるように、特に絵画分野からは重要な視点をもたらした。補色関係などを意識した制作は現在でも絵画分野での重要な要素といえるだろう。色彩による現象として「刺激」や「興奮」といった言葉で表現されるのは、絵画を説明するとき一般的にも使われることを我々は知っている。
さて、北村武志の作品の構造を考えてみると、まず最初に目に飛び込んでくるのは、補色関係に近い色彩の取り合わせである。ゲーテが気づいた補色の取り合わせは強いインパクトを与える。北村が大学時代は日本画を専攻していたというが、日本画で使用する岩絵の具は、顔料そのものの彩度の高い岩群青が意識の中に残っていたのだろうか。
シュルレアリストのひとりで写真表現も手掛けたマン・レイが写真作品に取り入れた表現に「ソラリゼーション」がある。それは露光過多の結果、思わぬ部分的に白黒反転が起こる現象のことであるが、彼は現像の失敗ではなく作品の表現のひとつとして取り入れたことでよく知られる作品を制作した。ポートレートの暗い背景が白黒反転して光を放つように輝き、輪郭が黒く縁取りされるような作品であった。北村の人物を取り囲む青く輝く色彩はソラリゼーションと同様の効果をもたらしている。さらにその色彩は、イヴ・クライン・ブルーをも連想させるのである。
ただ単に独りよがりの表現に終始しているのではなく、二重三重に美術の歴史を取り込んだ上で自らのスタイルを創りだそうとしているように思える。この人はこれから更なる変化もあるだろう。しかし、自分の様式として、人物の顔を真正面に捉え、強い色彩で縁取るという特徴的なスタイルを確立してきている。
その表情からは描かれた人物の想いが読み取れない顔が描かれている。明確なモデルはいないというが、あたかもAIが作成した無機質なアバターのような印象だ。その印象を一層強くするのが人物の周囲を取り囲む青い色。そしてその無機質さは観る者の心情の変化を反射する無表情さといえそうだ。それがこの人の作品の魅力ともいえるだろう。
「夜明けのうた」
油絵の具、岩絵の具、箔、キャンバス
65.2×53.0㎝(2021年制作)
撮影:Kazuya Suzuki
「光の中」
油絵の具、岩絵の具、箔、キャンバス
33.3×24.2㎝(2022年制作)
「夢見る人」
油絵の具、岩絵の具、箔、キャンバス
33.3×24.2㎝(2022年制作)
「光と影」
油絵の具、岩絵の具、箔、キャンバス
53.5×45.5㎝(2018年制作)
「Seedling of hope」
油絵の具、岩絵の具、箔、キャンバス
22.0 × 19.2㎝(2015年制作)
撮影:Kazuya Suzuki
北村武志
- 【略歴】
- 長野県生まれ
- 武蔵野美術大学日本画学科卒業
- 【個展・グループ展】
- 91~
- アールボコ展 (愛知県美術館等)
- 1998
- 個展 (ガレリアフィナルテ/名古屋)
- 1999
- 個展 (ガレリアフィナルテ/名古屋)
- 1999
- 現代アート東濃ざノ・こんりゅう展 (多治見)
- 2000
- 個展 (小野画廊/東京)
- 2003
- 個展 (ギャラリー北丘/多治見)
- 06~
- 個展 (ギャラリー名芳洞/名古屋)
- 2013
- End of 2013 (ドイツ・アーヘン)
- 2014
- Art Expo (ドイツ・アーヘン)
- 2015
- Aachen Art Fes. (ドイツ・アーヘン)
- 2015
- 個展 (半原版画館/瑞浪)
- 2015
- 個展 (Galerie Hexagone/ドイツ・アーヘン)
- 2018
- Exhibition JCAT (ニューヨーク)
- 19~
- アートキューブ展 (瑞浪)
- 2020
- MUSA-BI 展 (極小美術館)
- 2021
- 現代美術の作法 (極小美術館)
- 2021
- 篠田守男と極小美術館の作家たち (アートスペース羅針盤/東京)
- 2022
- ノリタケの森4人の作家展 (ノリタケの森ギャラリー/名古屋)
- 【主な受賞歴】
- 13.16
- 熊谷守一大賞展入選
- 2018
- TYK優秀絵画展大賞
- 【コレクション】
- ▪半原版画館
- ▪スペース大原
- ▪多治見市
- ※開催時点
展示風景