Contemporary Art

極小美術館

2023.5/7 (sun) 〜 2023.6/11 (sun)

espoir 41

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

個のポリフォニー 

奥村綾乃 (清須市はるひ美術館学芸員)

 極小美術館では2回目となる個展。人どうしの関係性を作品のテーマとする中野にとって、前回の2018年時から作品に変化を生じざるを得なかった。言うまでもなく、その後世界的な危機(このような言い回しももはや聞き飽きたが)によって私たちの環境、とくに人と人の物理的な距離に対する意識が大きく変わったのだった。
 カラフルな同心円は、文化人類学者E.T.ホールのよく知られた対人距離(パーソナルスペース)図からイメージを借りている。個人の領域に侵入される不快感というネガティブな感情がテーマのスタートにはあったが、コロナ禍を経て人と接することの心地よさを改めて認識したという。波紋のように響き合う、透明感のある明るい色彩の円の連なり。ひとつひとつの円の存在感はありながらも、ときに複雑に交錯し(溶け合うのではなく)折り重なっていく。従来から使っていたスパッタリング技法に加えて、作家の手跡が残る多様な筆触も登場した。個というものに対しての肯定感、それらの相互作用を客観的にとらえて構成しようとする画面にすがすがしさを覚える。
 一方、新たに取り組んでいるシリーズとして、線の反復による幾何学的な表象がある。特定の動きをもつ線を少しずつずらしながら描いていくさまはミニマルアート的だが、ここにも人と空間のあり方を見いだすことができる。つまり人をひとつの点として、その軌跡としての線、線の広がりによる面へと、空間に存在を展開していく営み——中野の関心の原点となるようなイメージがあらわれている。単純な線の集積は立体感を得、規則的な線の動きは時間の感覚をも含みこみ、絵画の二次元性を超えて移ろいゆく現象が具体化するようだ。
 アクリル板から国境まで、私たちの世界にはさまざまな分断があるが、そう単純に割り切れないのが人間の現実だろう。独立した個を保ちながらも、それぞれが奏でる音はポリフォニーとなって広がっていく。

DMイメージ

untitled(2023年制作)
1120 × 1620 cm 綿布にアクリル絵の具

DMイメージ

おどる(2022年制作)
530 × 455 cm 綿布にアクリル絵の具

DMイメージ

接近通過(2022年制作)
803 × 803 cm 綿布にアクリル絵の具

DMイメージ

こもごも(2022年制作)
410 × 410 cm パネルにアクリル絵の具

DMイメージ

中野磨里

【略歴】
1989
岐阜県生まれ
2008
岐阜県立加納高等学校 卒業
2016
名古屋芸術大学大学院美術研究科美術専攻 修了
【展覧会】
2015
ミズマクおおがき 2015 −新進作家展− (大垣市スイトピアセンター / 岐阜)
2016
アートアワードトーキョー丸の内2016 (丸ビル1階マルキューブ / 東京)
2017
現代美術の新世代展2017 (極小美術館 / 岐阜)
2018
個展 (極小美術館 / 岐阜)
2019
現代美術の視点2019 (極小美術館 / 岐阜)
2020
ファン・デ・ナゴヤ美術展2020『ここに在るということ』 (名古屋市民ギャラリー矢田 第2.3.4展示室 / 愛知)
2021
現代美術の作法2021 (極小美術館 / 岐阜)
2022
個展 (フランス料理レストラン オー・エ・セル / 岐阜)
※開催時点