Contemporary Art

極小美術館

2016.7/3(sun)~ 2016.9/25(sun)

No.21

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

渦巻き、あるいは螺旋について

越後谷卓司(愛知県美術館主任学芸員)

 19世紀における写真の登場や、20世紀に入りマルセル・デュシャンが“網膜的”と批判したり、あるいは1960~70年代のミニマル・アートやコンセプチュアル・アートでイメージが消滅する等々…、絵画はその存続が危ぶまれる事態に何度も遭遇してきた。しかしながら絵画は、今日でもなお描き続けられている。それは、なぜだろうか。
 平面上に顔料を用いて描くというシンプルな営み自体に、いまだ汲みつくせぬ可能性がある。それを追求、開拓しようとする才能あるアーティストたちの取り組みが、連綿として続いているからだと、ひとまずは言うことはできる。しかし、国旗や標的など平面をモチーフに描いたジャスパー・ジョーンズや、シルクスクリーンによる転写を導入したアンディ・ウォーホル、あるいは写真と絵画を等価に往還するゲルハルト・リヒターの仕事のように、絵画を否定するほどまでに批判的に問い質すことによって、自らの絵画を成立させる試みがある。それを思うと今日の状況は、新たなイメージを創出することに、あまりにも安易に向き合っているのでは、と思えてならない。
 こうした状況において、若杉しのぶの作品に注目したいのは、彼女が渦巻きもしくは螺旋を思わせるモチーフに、継続的に取り組んでいる点である。時に貝殻や浪打ち際のようなイメージを用いることもあるが、これも螺旋の変奏といえる。また色味が抑えられモノクロームに近い画面は、渦巻き状のイメージというよりも、その絵画的構造が前景化する。
螺旋といえば、古くは古代のケルト紋様まで遡り、日本にも唐草模様として伝播する等、地域や民族を越えて、人類に広く共有されてきた根源的なイメージの一つだ。近年でも、吉増剛造の詩や、石田尚志の映像作品のモチーフとして、繰り返し取り上げられてきた。なぜ螺旋なのかと問えば、一種、エネルギーや力が凝集する形象として機能しているからだ、と取りあえず答えることはできるだろうが、その秘密の深い領域までには容易にたどり着くことはできない、神秘的なものである。映像作家の石田尚志は、少年時代にバベルの塔の内部構造を描こうとしたが、それは四辺形のフレームに収まるものではなく、巻物状の支持体に即興的に描くライブ・ペインティングの試みを経て、映像をメディアとして用いるに到った、作品の系譜がある。若杉の絵画には、石田が四角い平面上に螺旋のモチーフを描く探求を続けていたら、と想起させるものがある。その根源的な問い掛けは困難な道であるが、その先に、新たな絵画の可能性が開けることを期待したい。

風を集める器(2013年)
1300 × 1620㎜ 油彩・石膏・キャンバス

風を集める器(2014年)

空をつくるⅠ(2014年)

DMイメージ

空をつくるⅠ(2015年)

DMイメージ

空をつくるⅡ(2015年)

空をつくるⅠ(2016年)

空をつくるⅡ(2016年)

若杉しのぶ

【略歴】
1955
愛知県春日井市生まれ
1981
愛知県立芸術大学大学院美術研究科修了
1982
中部読売美術展 奨励賞
1982
国展 ※~05年
1982
中部国展 ※~04年 中部国画賞(84、01、04年) 奨励賞(96、98、00、02、03年)
1984
個展(ギャラリーセキ/名古屋)
1984
1st 伊藤廉記念賞展
1986
二人展(ギャラリー手/東京)
1996
国民文化祭富山 佳作
1998
S・O・W展 ※00年 (岐阜県美術館)
2001
中部女流美術 春艸会展 ※~16年 (愛知県美術館)
2001
5Works展 〈04、06、08、11、14年〉 (名古屋市市政資料館)
2001
若杉しのぶworks〈1990~2003〉 (文化フォーラム春日井)
2002
「学校美術館」 ※~04年 (春日井八幡小・春日井松原中・文化フォーラム春日井)
2006
「名古屋」の美術 -これまでとこれから- (名古屋市美術館)
2006
さかいでARTグランプリ ’06 佳作 (坂出市民美術館)
2006
個展・企画 ※08、10年 (象家ギャラリー・長久手)
2006
若杉しのぶworks 〈2004~2006〉 (文化フォーラム春日井)
2007
トリエンナーレ神通峡美術展
2008
若杉憲司・若杉しのぶworks (ガレリア フィナルテ/名古屋)
2009
個展 ※13年 (ガレリア フィナルテ/名古屋)
2011
池田山麓現代美術展 ※12年 (極小美術館/岐阜)
【ワークショップ】
2004
「ふくい子ども劇場・どれみふぁたんけんたい」 ※05年 (金津創作の森/福井)
2004
「夏休み子ども教室」 ※~15年 (あいち子ども会館/名古屋)
2005
「おやこ造形あそび」 (そだち保育園/春日井)
2007
「中川ちびっこまつり・お化け屋敷を作ろう」 (中川生涯学習センター/名古屋)
2008
「おばけやしきであそび隊」 ※~14年 (港生涯学習センター/名古屋)
2008
「夏休みドラマスクール・造形ワークショップ」 (美和町文化会館)
2010
「夏休みドラマスクール・造形ワークショップ」 ※~15年 (NPO法人リトミックGifu)
※開催時点