Contemporary Art

極小美術館

2015.10/4(sun)~ 2015.12/13(sun)

No.19

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

構築性の熔解 キオクノカケラ

正村美里(岐阜県現代陶芸美術館 学芸部長)

 ガラスは光を包有し、光に色と形を与える。所はその光の中に、時間と記憶を封入する。
 彼女が用いるのは、いわゆる一般的な板ガラスである。板ガラスの表面に穴を開けたものを、何枚も重ねて溶着させる。それによってガラスとガラスの間の穴に閉じ込められた空気が膨張し、ガラスを外へと押し出して内外に有機的な表情が現われる。
 所は、「人の視覚を通して起こる面白さ、不思議さ」をテーマにしている。点や円を並べると見えてくる視覚の効果、オプティカルな面白さに惹かれるのだという。
 幾層もの熔着面に深い緑の光をためこんだ合わせガラス。緻密に配置された空気の粒が光と共に踊る。ふくらみ、ゆがみ、たわんだ塊は、板ガラス本来の硬質なコールドグラスの性質と、熱によって変容するホットグラスの特性を同時に留めている。建築資材のひとつでもある板ガラスに備わるそもそもの構築性が、気泡の予期せぬ膨張によって揺らいでいく。静から動へ。構築性を残しながらどこまで融解させていくのか。ぎりぎりの算段が魅力である。
 所は岐阜市に生まれ、高校時代に岐阜県美術館でガラス展を見たという。1982年から3年毎に日本を巡回した、指名コンペ制による世界現代ガラスのコンクール展だった。ガラスの産地のない日本において、この時代、現代ガラスは陶や漆といった他の素材と比較してはるかに好意的に受け止められた。 1980~90年代には多くのガラス作家が生まれ、彼らは国内外でボーダレスに学び、外国作家の招聘やワークショップも盛んに行われた。 人気に後押しされて各地の芸術系大学にガラス科が開講し、富山や卯辰山にもガラス研究所・工房が生まれた。しかしバブル崩壊とともに、かつての活況は鳴りをひそめていく。公募展は様相を変え、研究所や工房は淘汰されていった。が一方で、ガラスという素材は表現の媒体として広く定着していった。
 そうした後の世代のひとりである所は、高岡の国立短期大学で金工を学び、富山ガラス造形研究所へと進む。その後オーストラリア国立大学のキャンベラ美術学校へ短期留学。帰国してさらに富山の研究所の研究科、金沢の卯辰山工房で研修を積むとともに、個展、グループ展、公募展での発表を途切れることなく重ねていった。岐阜に帰郷してからは定期的に金沢へ赴いて制作をしつつ各地で発表を行い、この春からは名古屋芸術大学で教鞭をとっている。
 彼女の作品に初めて触れたのは、2003年の関市のギャラリーでの個展だったと思う。合わせガラスの小品の、小さくとも媚びない佇まいが印象に残ったのを覚えている。《キオクノカケラ》《やわらかな・・・》と名付けられた近年の作品には、作者の記憶と時間、心に留められた風景が織り込まれている。彼女にとってのキオクノカケラは、バスの窓についた雨の水滴とその向こうに見えた風景だったという。計算された規則性から情緒的な記憶のアルバムへ。構築性の熔解とともに顔を出し始めた、算段でない抒情性が、次なる魅力である。

「やわらかな光」(2012年制作)
板ガラス H262×W510×D265mm

aruamenohino...5_-2(2015年)

scene5_-1(2015年)

scene5_-2(2015年)

DMイメージ

side(twist)(2015年)

DMイメージ

めぐり(2015年)

DMイメージ

aruamenohino...5_-1(2015年)

DMイメージ

scene4(2015年)

所志帆

【略歴】
1995
岐阜県立加納高等学校 美術科 日本画専攻 卒業
1997
国立高岡短期大学(現富山大学芸術学部)産業工芸学科金属工芸専攻 卒業
2000
The Australian National University Canberra School Of Art 交換留学
現在
名古屋芸術大学 非常勤講師(2015年~)
【個展】
2001
所志帆展 -GLASS WORKS-(ギャラリー茶房 花うさぎ・岐阜)
2002
所志帆展『-scope』(ギャラリー点・金沢)〔Another Movement・Glass×People〕
2002
所志帆個展(ギャラリー仲摩・東京)
2003
所志帆展『-focal(life in art)』(ギャラリー茶房 久連波・金沢)〔Another Movement・Circle-ing〕
2003
所志帆展『-focal(life in art)』(画廊 凜・岐阜)
2005
所志帆展『-focal(life in art)』(Ecru+HM・東京)
2006
所志帆展『-focal(life in art)』(画廊 凜・岐阜)
2007
所志帆展『-side (life in art)』(Ecru+HM・東京)
2009
所志帆展『scene』 (画廊 凜・岐阜)(Ecru+HM・東京)
2011
所志帆展『-side』 (ギャラリー点・石川)
2011
所志帆展『scene』 (Ecru+HM・東京)
2012
所志帆展『キオクノカケラ』(画廊 凜・岐阜)
2013
所志帆展『キオクノカケラ』(ギャラリー点・石川)
2013
「現代ガラスの新世代」第9回 所志帆-雨がしとしと降っていた(ギャラリー銀座アルトン・東京)
2013
所志帆展『happy light』(お米BAR 東山みずほ・石川)(ギャラリー点)
2014
所志帆展『memory』 (日本橋高島屋2階アートアベニュー・東京)
2014
所志帆展『キオクノカケラ』(Ecru+HM・東京)
2015
所志帆展『やわらかな・・・』(画廊 凜・岐阜)
【コンクール】
1999
世界工芸コンペティション金沢’99Message of Future Crafts Manship入選 (石川)
2000
New Glass Review 22(Corning Museum of Glass NY)
2003
金沢市工芸展(石川)
2003
第56回瀬戸市美術展 工芸美術部門 優秀賞(愛知)
2004
現代ガラスの美展 IN 薩摩 入選(鹿児島)
2004
金沢市工芸展(石川)
2004
第2回現代ガラス展 in おのだ 入選(山口)
2005
第2回現代ガラス大賞展・富山2005 入選(富山)
2006
第3回KOGANEZAKI・器のかたち・現代ガラス展 入選(静岡)
2006
第3回現代ガラス展 in 山陽小野田 入選(山口)
2007
国際ガラス展・金沢2007 入選(石川)
2008
第3回現代ガラス大賞展・富山2008 入選(富山)
2009
第48回 日本クラフト展 暮らしを創る・クラフトの力(東京)
2009
第4回KOGANEZAKI・器のかたち・現代ガラス展 旭硝子賞(静岡)
2009
第4回現代ガラス展 in 山陽小野田 入選(山口)
2010
国際ガラス展・金沢2010 入選(石川)
2010
Glass Craft Triennale 2010 審査員賞(兵庫)
2010
2010伊丹国際クラフト展「酒器・酒盃台」 入選(兵庫)
2010
工芸都市高岡2010クラフトコンペティション 入選(富山)
2011
第4回現代ガラス大賞展・富山2011 入選(富山)
2012
第5回KOGANEZAKI・器のかたち・現代ガラス展 入選(静岡)
2012
第5回現代ガラス展 in 山陽小野田 入選(山口)
2013
国際ガラス展・金沢 2013 奨励賞(石川)
2015
第6回現代ガラス展 in 山陽小野田 土屋審査委員賞(山口)
【所蔵】
■05年立川ワシントンホテル・東京
■06年みずほ銀行六本木ヒルズ店・東京
■06年Bar Lounge Celera・茨城
■07年東京ミッドタウン・東京
■09年パークシティ柏の葉キャンバス1番街 D棟・千葉
■09年黄金崎クリスタルパーク・静岡
■10年ブリリア藤が丘・東京
■11年樂翠亭美術館・富山
■14年ザ・リッツ・カールトン京都・京都
■14年個人宅・栃木県佐野市
■15年クレヴィア原宿・東京
■15年富山市ガラス美術館・富山
■16年GLOBAL FRONT TOWER・東京(予定)
※開催時点