Contemporary Art

極小美術館

2013.10/20(sun)~ 2013.12/22(sun)

No.11

観覧申し込みは090-5853-3766まで。入場は無料

標本を巡る物語の再考

三輪祐衣子(名古屋ボストン美術館・学芸員)

 絵画における物語性は、はやりすたりを繰り返しながらも、細々と、しかし必ず存在してきた。美術に観念性や禁欲性が求められた70年代にも、感情豊かなイメージへと回帰した80年代にも、それは観る者にとって絵画と対峙した時に現れ出る一つのベクトルである。
 今日において、作品に内包された物語性でその作品の良し悪しを判断する、ということはあまりない。しかし観る者が、ある作品に惹かれ、ある作品には関心を持たなかった場合、その二つの作品の間に横たわる差異に、物語性の有無が関与していることは少なくないだろう。観る者が足を止め、画面に描かれているものに対して興味を抱いたり、シンパシーを感じたりする。作品の持つそうした役割を担っているのは、物語性であることが多い。
 Specimenというシリーズを、花田勝太郎は40年近く制作し続けている。エアブラシに特殊な加工を施し、独特の色層を生み出す画面は、同一の画家によるそれであると一目で識別できるほど特有のものである。しかし描かれるモチーフは、約一年ごとに変化する。Specimen(標本)という名に相応しく、モチーフは徐々に、変化の名残を残しながら、しかし確実に成長していく。マグマを思わせるような粘着質の赤い液体が埋め尽す大地。それはやがて其処彼処で破裂し、火山の噴火のように、天に向かって鮮やかな赤い花を咲かせる。花弁と共に生まれ出た、歪な湯気は、広い空へ放射状に形を伸ばしていく。意思を持っているかのようにまっすぐに伸びた湯気は、やがて漂い雲となる。画家の視点は、赤い液体の渦から噴火、湯気、そして雲へ、移り変わる。作品を個別に観れば、それはとても抽象的で、物語が介在するとは思えないような画面である。しかし実はそれらによって、大きな物語が紡がれている。
 花田の作品が持つ物語性は、特殊である。私がはじめて直接対峙した花田の作品は、本展に出展される最新作であった。高さ1.6メートル、幅3メートルの大画面に、浮遊する球体と、彼方に揺れる水平線、そしてわずかに描かれた大地。私はその作品のもつ、抒情的とも呼べるほどの物語性に、心惹かれた。抽象的な球体は遥か上空から観るものを覗き込むように、大地に生える小さなものたちは、こちらに背を向け彼方の水平線に思いをはせているかのように見えた。これまでの彼の作品にそうした強い物語性を感じることがなかったために、抱いていた花田の作品へのイメージが覆され、彼の作品が内包する物語性に興味がわいた。
 「はじめ、あの赤い渦は、血液とか細胞とか、そういう身体的なイメージから生まれたものだった。制作に置いて身体は、自分にとって今でも重要な意味をもっている。」シリーズ初期の赤い渦は、身体的なイメージで描かれていた。つまり彼は、とても小さなミクロの世界から、風景と言う広大な空間を内包したマクロの世界へ移行している。断片であった標本は、時空間を広げ、一つの物語として完結しつつ、もう一つの物語の続きを担っているのである。「制作は螺旋状に進む」と、花田は言う。意識していなくても似たようなものができ、しかし全く同じものはできず、同じ場所に戻ることもなく、少しずつ高度を上げていく。それにしても彼の持つ、螺旋の周囲のなんと広いことか。極小のものから、無限のものへ、花田の物語はどこへ向かうのか。一読者として、続きが楽しみでならない。

Specimen A (2011年2月制作)
エアブラシ、アクリル画 162×393cm

Specimen B(2010年4月制作)

Specimen B(2011年制作)

Specimen A・B(2012年4月制作)

Specimen A・B(2013年4月制作)

花田勝太郎(仕事場で)

【略歴】
1943
岐阜県生まれ
1967
武蔵野美術大学造形学部卒
1972
国画会46回国展初出品 -現在まで
1973
個展(ギャラリーはくぜん・名古屋市)
1975
49回国展 国賞受賞
1975
第9回現代日本美術選抜展(文化庁主催)
1976
50回国展 50周記念賞受賞・国画賞授賞
1977
第3回東京展(東京都美術館)
1977
個展(ギャラリーはくぜん・名古屋市)
1978
第12回日本国際美術展(毎日新聞社主催)
1978
中部形象展(毎日新聞社主催)
1978
第1回エンバ美術賞展 U氏賞受賞 (2.4.5.6.7.8.9.10.11回出品)
1979
第14回現代日本美術選抜展(毎日新聞社主催)
1979
第2回エンバ美術賞展 優秀受賞
1980
第13回日本国際美術展(毎日新聞社主催)
1980
第6回日仏現代美術展
1981
個展(スルガ台画廊・東京)
1981
第4回エンバ美術賞展 優秀賞受賞
1982
56回国展 会友優作賞・サントリー賞受賞
1982
第16回現代日本美術選抜展(文化庁主催)
1982
中日展(中日新聞社主催)
1982
第5回エンバ美術賞展 U氏賞受賞
1983
岐阜現況展(岐阜県美術館主催)
1983
個展(アートサロンことぶき・岐阜市)
1983
BOXギャラリー記年展(名古屋市)
1984
岐阜県現代美術家協会展( -92年まで)
1984
岐阜アンデパンダン20年後展(VAVA主催)
1985
IBM絵画・イラスト・コンクール展 (85.87 -89年出品、大阪)
1985
ミラクルアート展(サンケイ新聞社主催・阪神パーク)
1986
個展(スルガ台画廊・東京)
1986
第9回エンバ美術賞展 エンバ賞受賞
1987
’87アートナウ・イン・ナゴヤ( -94年まで、アート・サロン・ダイトーボー)
1987
第10回エンバ美術賞展 芦屋市市長賞受賞
1989
個展(エンバ画廊・神戸市)
1992
現代美術選抜展MAKURAZAKI(枕崎市)
1992
東海の作家たち(愛知県立美術館主催)
1993
現代美術の視点(熊本県立美術館分館)
1993
CONTEMPORARY ART FESTIVAL(93.94.97.98.00年出品、埼玉県立美術館)
1995
個展(ヒガシ画廊・中津川市)
1995
アート・ナウ・エキシビジョン( -2000年まで、三井ギャラリー)
1996
アート・フロンティア(96.97.04年、三重県立総合文化会館)
1997
天理ビエンナーレ立体 大賞受賞
1998
現代美術作家選抜展(大正ロマン館・明智町)
1998
西濃60年代展(大垣市企画)
1999
’99現代美術3人展(画廊沙和企画)
1999
「郷土の作家たち」羽島市企画展
1999
日中現代美術交流展(中国福建省)
1902
日中交流現代美術展(ニューヨーク)
1902
個展(銀座スルガ台画廊・東京)
1904
「選ばれた21の表現」展・招待作家(駒ヶ根美術館)
1904
日韓交流展「文化植民地」展(代案空間CRACK)
1904
CAFネビュラ展(04.06.09年出品、埼玉県立美術館)
1905
個展(企画、北ビワコホテル・グラツィエギャラリー)
1905
作家の視点(はるひ美術館企画、朝来美術館)
1907
作家の視点(はるひ美術館企画)
1908
中日国際交流芸術展(北京故宮博物院内太廟大殿)
1908
飛騨高山現代美術展(高山市)
現在
国画会会員、日本美術家連名会員
※開催時点